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▼盛夏号

SPECIAL REPORT

「早稲田文化」創造と発信

 大学が所蔵する文化資源を教育研究に有効に活用するとともに、広く社会に公開することは本学の大きな使命となっています。「早稲田文化」を創造し、世界に向けて発信する意義と新たな取り組みについてお伝えします。

Part.2

山根基世さん キャンパス内博物館一日探訪

大学に記された文化の記憶をたどって

 早稲田大学内にある、数々の文化資源。学内外に発信していくには、その価値を再評価する必要があります。Part.2では、NHK教育テレビ『日曜美術館』を担当したご経験のある、元NHKアナウンサーの山根基世さんをお招きして、坪内博士記念演劇博物館、會津八一記念博物館、大学史資料センター・大隈記念室を各館長・所長がご案内。早稲田の文化資源の魅力を再発見していただきました。

坪内博士記念演劇博物館
世界中の資料を所蔵する唯一の演劇専門博物館

坪内博士記念演劇博物館
建物は、坪内逍遙の発案で、エリザベス王朝時代、16世紀イギリスの劇場「フォーチュン座」を模して設計された。正面の屋根のある張り出しは舞台となっており、建物自体が一つの劇場資料。今もシェイクスピア劇など多くの公演が行われている。舞台正面に記されているラテン語はロンドンのグローブ座入口看板に記されていた言葉で、“Totus MundusAgit Histrionem”。「全世界は劇場なり」という意味。逍遙が設立当時から世界を視野に入れていたことが分かる。

竹本館長 当館の中で最も著名な展示物は、約47,000点ある錦絵コレクションです。逍遙は晩年、歌舞伎研究の一環として錦絵の収集と整理に情熱を傾けていました。

山根さん 日本が映像時代に入ってから、錦絵の歴史的価値は一層高まっていったのでしょう。

竹本館長 当時、錦絵はそれほど重要な研究対象として見られていなかったのです。

山根さん 焼き物を輸出する際の包み紙として使われていたんですよね。

竹本館長 そうなんです。歌舞伎研究になくてはならないものと誰も気付きませんでした。そこに目を付けた逍遙は、先見の明があったんですね。

逍遙の浪曲語りを聞くことができる、映像・音声アーカイブコーナー。演目は、自らが翻訳した『ハムレット』。「男性と女性の声を使い分けてますね。拍手!」

錦絵
歌川国芳画「積恋雪関扉」(つもるこいゆきのせきのと) この演目は、舞踊劇の大成者である初世中村仲蔵が初演した常磐津の大曲で、舞踊劇の中でも人気演目の一つです。役者絵は、役者の個性がリアルに表現され、舞台のイメージを人々に鮮明に伝えることができます。

演劇や映画の書籍・雑誌が読める閲覧室。著名な演劇関係者や文化人も訪れるそう。「昭和30年代の『キネマ旬報』が読めるなんて」

「なつかしい! 学生時代のままです」と山根さん。飴色になった廊下が重ねた時を語ります

 早稲田キャンパスの一角にひっそりと佇む、洋館のような建物。古めかしい扉を開けると、そこには別世界が広がります。坪内博士記念演劇博物館は、その名の通り文学部の創立者・坪内逍遙の手によって1928年に設立されました。逍遙は近代日本文学の先駆者・開拓者であり、特に演劇芸術の向上と発展に尽くした功績は高く評価されています。世界の翻訳劇を紹介しながらも、歌舞伎の研究に熱心だった逍遙は「日本だけでなく、世界中の演劇を研究できる施設を作りたい」と設立を決意。著作集『逍遙選集』の印税を寄贈、広く社会から寄付金を集め、自宅を大学に寄付するなどし夢を実現させたのです。竹本幹夫館長は博物館の最大の特徴をこう語ります。「当館は、日本唯一の演劇専門博物館。さらに、世界を視野に入れた博物館は、演劇の盛んなヨーロッパにもありません」。

 所蔵する演劇資料は幅広く、錦絵47,000点、舞台写真20万枚、その他には舞台衣装、仮面、屏風、軸物などがあります。特に近世から現代にかけての所蔵資料は、日本で随一。それらの多くが、設立当時から演出家や俳優の方々からの寄贈品です。中には、演劇界で活躍している卒業生のものも少なくありません。「演博の所蔵品は、大学のものというだけではなく、社会のもの。だからこそ、文化発信をして社会へ還元していかなければなりません。早稲田を支えてくださる社会全体に貢献することが私たちの使命なのです」と語る竹本館長。山根さんは「こんなに貴重で素敵な財産は、卒業生としてさらに多くの方々に宣伝していかなければなりませんね」とあらためて博物館に魅せられたようです。

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演博だからこそできる実験的公演を目指して

竹本 幹夫館長(文学学術院教授)

 当館の夢は、独自の舞台を建設して公演することです。採算にこだわらざるをえない演劇興行では実験的な挑戦がなかなかできません。自前の舞台で、古典演劇から現代演劇に至るまで、演劇技術を試行したり、過去の作品を復元して公演するなど、実験研究の場を作りたいのです。実演の現場で当館の資料を使って文化発信し、演劇文化に一層の貢献をしていきたいとも考えています。

會津八一記念博物館
実物に触れモノの本質を学ぶ 會津八一が託した思い

會津八一記念博物館
早稲田キャンパス正門近くに位置する旧図書館を使って作られた博物館。旧大閲覧室は、中にあった机、椅子を移動させて、優美な常設展示室となった。

大橋館長 博物館は今年で開館11年目と新しいのですが、この建物自体は大正時代に建てられた早稲田屈指の歴史をもつ貴重な文化財なんですよ。とくにこのホールは建築当時の雰囲気を残しています。

山根さん 「明暗」の絵とマッチしていますね。

大橋館長 元総長で日本美術院評議員であった高田早苗が「早稲田の図書館のために描いてほしい」と横山大観と下村観山に相談して合作が実現したんですよ。

山根さん 旧図書館だったこの空間をどのような博物館にしたいと思われたのですか。

大橋館長 展示作品だけではなく、歴史的な空間そのものも堪能できる博物館にしたいと考えています。

助手の三宮千佳さんから説明を受ける山根さん。「會津八一は教育と研究のために東洋美術資料を蒐集しました。會津の精神を引き継ぎ、学生が触れて学べることを重要視したいのです」

展示台の下から椅子を引き出すと、坐ってゆっくりと資料を眺めることができます

 早稲田で最も多くの学生が通う、早稲田キャンパス。そのメインストリート沿いに位置するのが會津八一記念博物館です。山根さんは、玄関ホールに立ち、横山大観・下村観山共作の壁画『明暗』を見て、「早稲田にこんな優美な空間があったなんて!私は学生の頃、この壁画を見たことがありませんでした」と驚いた様子です。

玄関ホール、「明暗」の前で博物館の歴史について大橋館長からお話を聞きます

 この博物館のコレクションは、かつて、會津八一をはじめとして教員が研究・教育のために蒐集した資料と寄贈資料からなっており、東洋美術、近代美術、考古学の3つの研究分野があります。まず東洋美術は、美術史研究者で文学部教授であった會津八一が寄贈した中国古代の明器や銅鏡、瓦当、金石拓本、仏像など約3,000件の會津八一コレクションを中心として調査研究・展示活動をしています。同じく近代美術では、黒田清輝による大隈重信肖像など早稲田大学にまつわる人物の肖像画をはじめとし、本学の70周年、100周年記念に当代きっての画家から寄贈された作品など、約700件の洋画・日本画のコレクションを有しています。また考古学は、縄文・弥生土器をはじめとし瓦、鏡、さらにはわが国でも有数のアイヌ民族資料など約6,000件の考古資料を有しています。さらに2004年には、旧富岡美術館コレクションとして、重要文化財1件を含む東洋陶磁器、禅書画など900件の東洋・日本美術の秀逸な作品群が寄贈されました。

 會津八一の美術史学は、実物作品の研究と文献史料の研究を車の両輪のごとく駆使する学問として確立しました。會津は早稲田で初めて博物館の設立を提言しましたが、70余年を経て開館した当館は、現在、実物作品の調査研究をもとにした芸術・歴史学研究の拠点として活動しています。

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教育研究の場から文化資源の社会還元をめざして

大橋 一章館長(文学学術院教授)

 当館は昨年で開館10周年を迎えました。試行錯誤の助走期間を経て、次の10年は飛躍の時期にしたいと考えています。大学博物館の重要な使命は教育と研究です。学生が「本物」に触れることのできる場として、また早稲田の斬新な研究成果を発信する場としての位置づけを確立していきたいです。そのためにも、質の高い常設展示とアイデア溢れる企画展を併設していくことが課題です。もちろん、ご父母や校友、学外の方々にも気軽に訪れていただき、早稲田の文化資源を積極的に社会へと還元していくことが今後重要になると認識しています。

大学史資料センター・大隈記念室
創立から紡がれてきた「建学の理念」を知る

大学史資料センター・大隈記念室
記念室に入ると、真っ先に目に留まるのは大隈重信の「ガウン」。1913年の創立30周年式典で初めて着用され、1922年の逝去まで愛用した。

吉田所長 大隈が早稲田の前身、東京専門学校を設立したのは、近代的な立憲主義と国家の建設を目指すために、人材の育成が必要だったからです。

山根さん このコーナーでは、大隈総長の演説が聴けるんですか?

吉田所長 はい。これは、1915年の総選挙における演説レコードです。

山根さん ああ、歌うような口調。演説と日常の話し言葉が大きくかけ離れていたあの時代がうかがえますね。

「大隈重信の一生」が分かる映像コーナー。大隈邸には毎日大勢の客が詰めかけ、雨で客が少ないと「今日は入りが少ない」と寂しがったというエピソードも

爆弾を投じられて足を負傷したときに着ていた洋服。このとき、大隈は片足を切断しますが、それでもなお政治活動に精力的に励んでいきます

 入口に飾られているのは、早稲田カラーの総長ガウン。それを見上げて山根さんはこう語ります。「今の私の、子どもの言葉を育てる活動にも、学生時代、無意識のうちに身についた早稲田の『建学の理念』に促されているのかもしれません」。

大隈重信の肉声演説を熱心に聴く山根さん

 早稲田大学の歴史と、創設者大隈重信および関係者の事績を明らかにし、将来に伝承していくために設立された大学史資料センター。その研究や所蔵品をもとに、建学の精神を多くの人に伝えるため大学創立125周年を記念して改修されたのが、大隈記念室です。ここでは大隈の生涯にわたる活動が紹介されています。

 吉田所長は大隈記念室運営への思いについて、こう話します。「本学には『学問の独立』『学問の活用』『模範国民の造就』という、受け継ぐべき建学の理念があります。それを絶やさずに、学内外に発信し、大学の発展に貢献するのが当センターの役目です。その一環として、新入生の導入教育、またオープン科目のひとつとして、『早稲田学』という講義も当センターが行っています。大隈が歩んだ足跡を辿りつつ、そこから学んだことを生かし、未来への視点を磨き続けていくことが大切です」。

 山根さんは、今回3つの機関を見学して、こんな感想を述べてくれました。「この価値ある財産をより多くの学外の方に知って、利用していただけるよう、大学から情報発信してほしいですね。それが日本だけでなく世界の文化に貢献することになり、早稲田大学への信頼を深めることにもなると思います」。

 あらためて早稲田の魅力を再発見できた一日となったようです。

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150年史編纂へ向けて確かな体制作りを

吉田 順一所長(文学学術院教授)

 本学の歴史に関する研究は過去のものではなく、日々前進しています。100年史では明らかにできなかったことを含めて研究し、今後150年史の編纂を行っていかなければなりません。大学史編纂のために特に重要なのは、大学全体で生み出された資料をいかに収集・管理するかということです。新たな文書管理規程を作成し、それに従って資料を準備することが必要。さまざまな文書が利用段階を過ぎた時に、当センターに集約され、必要な時にすぐ取り出せるアーカイブズ機能を強化した体制作りが課題です。

山根 基世(やまね・もとよ)

山口県生まれ。1971年、早稲田大学第一文学部卒業。同年、NHK入局。美術番組・旅番組・ニュース・「ラジオ深夜便」など幅広く担当。現在は元NHKアナウンサーと共にLLP(有限責任事業組合)「ことばの杜」を設立。定期朗読会や子どもたちの言葉を育てる活動を精力的に行っている。

貴重な文化資源をもっと活用するために

各博物館、大学史資料センターの学芸員、助手から、見逃せない作品、所蔵品についてや書籍刊行情報などを紹介してもらいました。

坪内博士記念演劇博物館
デジタル・アーカイブ・コレクション

 散逸しがちな演劇資料を体系的に収集、整理し、公開データベースとして発信しています。歌舞伎を題材にした浮世絵=役者絵や、演劇に関連する貴重書の画像が見られるほか、近現代の上演記録から、チラシやプログラムなどの所蔵を検索できます。また、演劇博物館のデータベースをもとに構築した「早稲田大学文化資源情報ポータル」には、會津八一記念博物館や大学史資料センターの所蔵品情報も登録され、学内の文化資源を一元的に探索できるようになりました。

AVブース

 能、狂言、歌舞伎、文楽などの日本の古典芸能から、各国の民族芸能、演芸、映画、現代演劇まで、演劇に関する多様な資料が視聴できます。シェイクスピア作品の収集充実はもちろん、中国演劇やスペイン映画などの映像資料も収蔵し、録画方式の異なる海外作品も視聴可能です。また、日本の現代演劇、舞踊のDVDや落語のCDなども収集しており、演劇博物館の企画展示に関連した演劇講座や講演会の録画資料も備えています。

會津八一記念博物館
アイヌ民族の衣装

 本博物館にはアイヌ民族の工芸品、とりわけ衣装類が数多く収蔵されており、常設展示に供しています。これらは校友で北海道大学教授を勤められた故土佐林義雄氏の蒐集によるもので、ご遺族から早稲田大学に寄贈されたコレクションです。衣装の華やかな色彩、多様な文様が特徴的ですが、この文様は木綿の生地に色彩豊かな和服の裂を縫い付けて表現されています。アイヌと本州との交流を示す歴史資料としても高い価値をもっています。

會津八一コレクション

 常設展示をする會津八一コレクションは研究と教育のために蒐集されましたが、なかでも明器は、中国古代の墓から出土する土や木で作られた副葬品です。古代人は死後の世界ではそれらが実物に変じ、楽しく豊かに暮らせると信じていました。写真は唐時代の「辟邪(へきじゃ)」。辟邪は魔除けのための空想上の獣で、墓室の護り神でした。頭部には長く捻れた大きな一本角がありますが、顔は人面です。眉をつり上げて眼を大きく見開き、口を一文字に結ぶ憤怒の表情は、唐代の神王そのものです。

荻原守衛《女》1910(明治43)年 ブロンズ

 本博物館の近代美術作品は、本学にゆかりのある方々よりご寄贈いただいた作品が中心を占めています。この作品も、本学名誉博士高玉樹氏よりご寄贈いただいた作品です。1908(明治41)年、パリからの帰国後、守衛は、相馬愛蔵・黒光夫妻が経営する新宿中村屋の近くにアトリエを設け、制作に励みました。この作品の石膏原型は明治維新以後日本人が造った彫刻ではじめて重要文化財に指定されました。日本近代彫刻のひとつの到達点を示す作品です。

大学史資料センター
大隈重信の義足

 明治22(1889)年、当時外務大臣を務めていた大隈重信は、暴徒に爆弾を投げつけられ右足を失いました。その後大隈が使用していた義足は現在大学史資料センターに所蔵されています。

東京専門学校関係資料

 大学史資料センターでは、明治15(1882)年の東京専門学校開校当初から、近年にいたるまでの大学の歴史に関する資料を広く収集・整理・保存し、広く一般の利用者に公開しています。

大隈重信関係文書

 創設者・大隈重信の事蹟をより広く明らかにすべく、図書館ならびに大学史資料センター所蔵の大隈重信宛の書翰6,000通以上を翻刻・出版する事業に取り組んでいます。04年10月から刊行を開始した本シリーズは、09年3月に第5巻が刊行。日本近代の歴史が凝集された、画期的な資料集です。A5判・全10巻・別巻1刊行予定。各巻10,000円(税別)。問合せ先=全国の書店またはみすず書房(TEL:03-3814-0131)まで。

Information

坪内博士記念演劇博物館
開館時間
展示室・和書閲覧室 10:00~17:00(火・金は~19:00)
貴重書・外国語図書閲覧室 10:00~17:00(土日は閉室)
AVブース 10:00~17:00(土日は閉室)
祝日、連休となる日曜日、夏季、冬季休業期間、年末年始、入試期間休館。
詳細は要問い合わせ
TEL:03-5286-1829
HP:http://www.waseda.jp/enpaku/index.html

會津八一記念博物館
開館時間
10:00~17:00(入室は16時30分まで)
日・祝日、8月全日、夏季休業期間中の土曜日
冬季休業期間、年末年始、入試期間休館。
TEL:03-5286-3835
HP:http://www.waseda.jp/aizu/index-j.html

大学史資料センター・大隈記念室
開館時間(大隈記念室)
開館時間、休館日ともに會津八一記念博物館に同じ
TEL:03-5286-1814(大学史資料センター)
HP:http://www.waseda.jp/archives/

※他にも125記念室やワセダギャラリーなどで展覧会を開催しています。
http://www.waseda.jp/cac/index.htm

写真=金子 悟