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SPECIAL REPORT

「早稲田文化」創造と発信

 大学が所蔵する文化資源を教育研究に有効に活用するとともに、広く社会に公開することは本学の大きな使命となっています。「早稲田文化」を創造し、世界に向けて発信する意義と新たな取り組みについてお伝えします。

文化発信の拠点 大隈記念講堂

 早稲田大学の創立者である大隈重信の没後、生前の業績を記念して1927年に建てられた「大隈記念講堂」。1階席と2階席との間に柱がない、当時としては画期的な構造で、視聴に関する最新の科学的効果も取り入れられ、現代建築の模範となりました。設計は、本学教員であった佐藤功一・佐藤武夫(デザイン)、内藤多仲(構造)、黒川兼三郎(音響)と当時の錚々たるメンバーによるもので、2007年には国の重要文化財に指定されました。

 講堂では、多くの学会やシンポジウム、講演会が行われ、文化発信の拠点として地位を確立。演劇ができる構造だったこともあり、第一線で活躍する芸術家や校友の協力により、芸能活動の場としても親しまれていったのです。

 そして2007年、最先端の早稲田文化を内外に情報発信し続けるために大改修が行われ、新しい姿に生まれ変わりました。新たな映像設備や情報通信技術も導入され、従来にも増してその役割は大きくなっています。

Part.1

大学が担う文化推進の意義

 2007年に設置され、学内外に向けた文化発信の中心的な役割を担う文化推進部。発足の経緯と目的、推進事業、今後の展望などについてお話を伺いました。

「早稲田文化」を世界に発信。早稲田のファンが集まる大学でありたい

本学の文化資源を広く社会へ還元する

瀬戸 直彦(せと・なおひこ)早稲田大学文化推進部部長 文学学術院教授 略歴はこちらから

――文化推進部はどのような経緯・目的で設置されたのか、お聞かせください。

瀬戸 本学には、多数の文化資源を所蔵する文化機関や図書館、学生部、総務部、総長室、募金課といったさまざまな機関があり、それぞれが独自に文化活動を行ってきました。しかし、一つのベクトルをもって統合的に文化を推進していかなければ、世界へ向けて効果的に文化発信をすることはできません。そこで2007年、創立125周年記念事業における今後の理念の一つに掲げられている「積極的な地域社会への貢献」に基づき、本部事務機構の一つとして「文化推進部」が発足しました。坪内博士記念演劇博物館、會津八一記念博物館、大学史資料センターの3文化機関のまとめ役として、本学の文化情報を一元的に発信することを目的としています。

 多元性、多様性に富んだ本学の文化資源について、包括的な視点から、整理・研究・保存および展示を行い、さらに3文化機関のネットワークを構築。図書館とも連携しつつ、積極的に文化情報を世界へ発信し、本学の文化資源を広く社会に還元することが私たちの使命です。また、出版機能を強化し、本学の文化的プレゼンスを高める取り組みも始まっています。

十重田 裕一(とえだ・ひろかず)早稲田大学文化推進部副部長 文学学術院教授 略歴はこちらから

――そのような使命のもと、どのような事業を運営していますか。

瀬戸 まず一つ目は、各種文化行事の企画・実施です。2008年度にもさまざまなイベントを開催しました。

 他大学との文化交流事業としては、同志社大学と共催した企画展「早稲田と同志社展―新島襄の弟子たち―」の開催、学生団体との交流としては、早稲田大学交響楽団による「カラヤン生誕100年記念演奏会」の開催、地域との交流としては、本学で多大な功績を残した坪内逍遙と津田左右吉生誕の地、岐阜県美濃加茂市との共催で学生演劇公演を中心とした文化交流事業を行いました。また、埼玉県本庄市においては、当代一流の演者による「本庄早稲田能」を開催しました。

2008年12月20日大隈講堂で、早稲田大学交響楽団と文化推進部との共催により行われた「カラヤン生誕100年記念演奏会」。カラヤンは1979年大隈講堂で名誉博士号を受け、早稲田大学交響楽団を指揮した。

 二つ目は、「早稲田大学坪内逍遙大賞」です。この賞は美濃加茂市と交互に隔年で実施しており、文芸をはじめとする文化芸術活動において著しい貢献をした個人・団体を顕彰することを目的としています。第1回の2007年度においては、大賞は本学の校友でもある村上春樹氏、奨励賞は川上未映子氏が受賞しました。川上氏はその翌年、芥川賞を受賞されています。

2007年10月11日、小泉八雲没後100年と早稲田大学創立125周年を記念し、校友である沢木順さんによりソロ・ミュージカル「YAKUMO 小泉八雲外伝」を公演した。小泉八雲は晩年、早稲田大学講師を務めた。

 三つ目は、文化発信拠点としての大隈講堂、小野記念講堂をはじめとした文化施設の運営管理です。大隈講堂は2007年に改修工事を終え、学生活動の成果発表や教員による研究成果の発表など、文化発信の拠点として生まれ変わりました。また、小野記念講堂も機能性、利便性を高め、「文化活動の成果を発表し、さらに世界の文化と交流を図るためのホール」というコンセプトに適合した施設になっています。二つの文化施設は、それ自体本学にとって貴重な文化資源です。大切に維持・管理しながら、日々新たな「早稲田文化」を創出していかなければなりません。

 四つ目は、学術研究書出版制度の運用です。出版機能と情報発信強化の一貫として、良質な学術研究書の出版費用を本学が負担します。昨年度からスタートし、まだ試行錯誤の段階ですが、本学のアカデミック・ステイタスの向上を図ると同時に、学内者とくに博士論文提出者に出版機会を提供しています。

世界中の人々に関心をもってほしい

2008年12月16日、大隈講堂において、1978年岸田國士戯曲賞を受賞した知念正真の戯曲「人類館」の公演が沖縄の演劇集団「創造」により行われた(共催:東京国立近代美術館)。東京での公演は30年ぶり。

――今後の事業の展望をお聞かせください。

十重田  現在、本学の文化資源を統合したデータベースの構築を行っています。学生や研究者の研究に役立つように、収蔵資料をデジタル画像にして各文化施設共通のデータベースを構築し、横断的に検索できるようにしていきます。将来的には、国内外の博物館や美術館が行っているようなデジタルアーカイブを作成し、学外からでも見られる「デジタルミュージアム」の構築を目指します。

――早稲田大学だからこそできる文化推進とは、どのようなことでしょうか。

十重田 「早稲田文化」のファンを増やし、支援者になってもらうことで、さらに活発な文化発信を行い、社会に還元する。それこそが、私たちにできる文化推進だと思います。忘れてはならないのは、一般の方々だけでなく、在学中の学生たちに「早稲田文化」に触れてもらいたいということです。授業で本学が所蔵する文化資源を直接学んだり、イベントに参加して感銘を受けた学生が、卒業後「早稲田文化」のよき理解者・支援者になるなど、言わば文化発信の相乗効果につながることを期待しています。 大学はいたるところに文化の記憶が刻印され蓄積されています。そういった文化の記憶が訪れた人と共有され、皆さんの心の中で育まれればそれに勝る喜びはありません。そのためにも、まずイベントや展覧会にぜひおいでいただきたく存じます。

――今後、大学が目指すべき文化発信の姿についてお聞かせください。

瀬戸 ファンになっていただいた皆さんに、本学の文化施設やイベントに足を運んでいただきたいのです。海外に目を向けてみてください。ハーバード大学にある美術館には世界中から人が集まり、学生たちがキャンパスツアーを行い文化施設を案内しています。私たちも世界中の人々に関心をもってもらえるような文化発信をしたい。

早稲田大学坪内逍遥大賞第1回授賞式で。奨励賞の川上未映子さん(右)。

 そのためには、デジタル化と多言語化がキーワードとなりますが、これによって、本学を巣立っていった学生たちが、演劇博物館に掲げられている「世界中の人々が役者を演じている」という銘文(グローブ座)のとおり、「世界」という名の舞台で活躍し、「学生時代に学んだ、あの場所に足を運んでみよう」との思いで、さらなる早稲田の文化を育ててほしい。そういった願いを込めて、これからも一層励んでいきたいと思います。

瀬戸 直彦(せと・なおひこ)/早稲田大学文化推進部部長 文学学術院教授

早稲田大学第一文学部卒、パリ第4大学人文科学研究科オック語文学語学研究課程 博士課程修了。主な研究テーマは中世フランス抒情詩の解釈と校訂。

十重田 裕一(とえだ・ひろかず)/早稲田大学文化推進部副部長 文学学術院教授

早稲田大学第一文学部卒、同大学院文学研究科日本文学専攻博士課程終了。主な研究テーマは「占領期検閲と文学との相互関連性の研究」「横光利一を中心とするモダニズム文学の研究」など。