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キャンパスナウ

▼3月号

SPECIAL REPORT
Part.2 - Lecture and Practice

WAVOC「講義」と「実践」の融合

 WAVOCでは、知識を学ぶ講義と現場を体験する実習科目の組み合わせにより、学生の社会貢献活動と体験的に学ぶ機会を提供することをサポートしています。講義とプロジェクトを支えている3人の先生と、その講義を受講しプロジェクトに参加した学生の手記もご紹介します。

自分と社会の距離を縮めるきっかけに

 今、心身の健康を支える保健医療分野で注目されているのが、リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)です。未婚女性や外国人など、社会的に弱い立場にある人々の望まない妊娠や性感染症は、世界的に深刻な問題となっています。

 WAVOC提供科目「グローバルヘルス」の講義では、性感染症、ドメスティック・バイオレンス(DV)、望まない妊娠などのトピックスを取り上げています。この授業の目的は、研究プロジェクトを通じて、社会に対してメッセージを発信するというものです。昨年は学生たちがデートDVに関する啓発DVDを自主制作しました。非常に独創性の高い内容だったのでより多くの人に見てほしいと考え、企業協賛を呼びかけたところ、数社の外資系企業から賛同をいただくことができました。こうした支援をもとにこの作品を、全国の男女共同参画センターに配布しています。失うものがなく、感じるままに表現する学生の力は希望です。私自身も、社会へメッセージを伝えていく方法をさらに模索したいと思いました。

感じたことを議論するのは重要な過程。自分が感じ取った問題を社会にどう発信していくかがテーマです

 講義やプロジェクトを通じて学生たちに気づいてほしいのは、社会の問題は自分の問題であるということです。被害者を支援するだけでなく、社会という大きな枠組みも変えていかなければ、問題は解決しません。そして、自分もその社会の形成に加担している一人であることに気づいてほしいと考えています。社会問題は知識を得るだけでなく、その現実を感じること、想像力を働かせることが必要です。その上で行動することができれば、それが社会変革への実践です。

 学生はボランティアの機会を通じて、さまざまな立場の人に出会います。例えばDV被害者に出会うと、当事者たちの辛い体験を告白する勇気や強さに触れます。それは、支援するだけでなく自らも支援されているということを感じ、自分と社会の距離を縮めるきっかけになるような体験です。そうした意味で、学生のボランティアは社会に出る準備でもあると思います。

自主制作したデートDV問題啓発DVD。全国の男女共同参画センターで入手できます。そのほか学校、市民団体などに無料配布いたします。問い合わせは本学平山郁夫記念ボランティアセンター(TEL:03-3203-4192 Email:wavoc@list.waseda.jp)まで

講義とプロジェクト体験から得たもの

法律と現実に向き合いながら

尾上 富美/法学部4年

尾上さん。栃木で行ったDV被害者支援キャンプで

 大学で法律を学んでいると、全て世の中は善か悪かの二つで割り切れてしまうのではないかと錯覚することがある。プロジェクトを通してDVを受けた女性たちと接し、彼女たちの負った計り知れない傷の大きさを痛感した。彼女たちは「被害者」であり、救済されねばならない。しかし、暴力の被害者であると同時に、家庭では子どもや身近な人に暴力を振るってしまう人もいた。「加害者」の中にも幼い頃から虐待を受けてきた人もいる。一人の中にも加害者と被害者の両方が存在している。現実の社会は善か悪かという二つだけでは割り切れないのだ。

 私が将来の仕事にしようとしている弁護士は、法を拠り所に「加害者」か「被害者」か、を前提として人と向き合う。現実の割り切れなさを知りつつも、私は善悪をハッキリつける仕事に就こうとしている。その際は依頼人の利益のために全力を尽くそう、そう覚悟を決め、4月からは法科大学院に進学する。それが私の選んだ道だからだ。

ボランティアを通して養う多面的な視点

 アフリカへのボランティアプロジェクトの一つであるエコミュニティ・タンザニア(エコタン)は、セレンゲティ国立公園に隣接するロバンダ村での活動です。この村はゾウによる農作物被害や人身被害に悩まされています。この問題の裏にあるのは、先進国の環境保護思想により、現地の人々の生活が抑圧されているという構造です。この村に住むイコマという民族は、もともと狩猟、農業、牧畜を生活の糧にして暮らしてきました。しかし、象牙を目的とした密猟を取り締まるための自然保護政策によって、イコマの食糧のための狩猟までが禁止されてしまったのです。その結果、ゾウが人間を恐れなくなり、被害が起こるようになってしまいました。

 こうした現状を講義やプロジェクトを通じて知ってもらい、先進国の思想がマイノリティの暮らしに負の影響を与えることもあるという現実を理解してほしいと考えています。そして、環境保護活動やボランティア活動は、メリットもデメリットもあるという多面性を意識する視点を養ってほしいです。例えば、地球温暖化の要因は二酸化炭素であるかは断定できないことや、他の考え方があることも知っておく必要があるように。こうした多面的な視点は、学部の勉強でも応用できると思います。

 学生たちにはなるべく現場に行って、現地の人の生の声を聞いてほしいと考えています。情報はテレビやインターネットなどを通じて身の回りに溢れていますが、自分の目と耳で体験したことは、揺らぐことのない本物の価値基準として思考の基盤になります。WAVOCではそうした機会を数多く提供していますから、学生に限らず多くの人に活用してほしいですね。 今後は、学生がボランティアの経験を通じて学んだことや成長したことを、多くの人に発信していくのを応援したいです。WAVOC主催のボランティアフェアもその一つ。活動で感じ考えたことを外に発信すれば、さらに活動の輪が広がるでしょう。学生たちの情熱とがむしゃらなエネルギーに今後も期待しています。

参加学生、村人、応援・協賛してくれた人々の“想い”という名の絆の結晶・パジェロパトロールカー

小学校で、子供たちにパトロールカー寄贈に至るまでの経緯を説明

ゾウ被害の実態と寄贈したパトロールカーの効果に関するインタビュー調査

村の伝統ダンスを一緒に踊り、絆を深める。信頼関係を築く重要な活動の一環

講義とプロジェクト体験から得たもの

小さな一歩が彼らにつながっていると信じて

佐藤 裕未乃/文学部2年

佐藤さん。人とのつながりを実感できたタンザニアでのプロジェクトで

 私はもともと興味があった「環境とボランティア」の講義を受講しました。地球温暖化は良くないし、環境は保護すべき対象としか考えていませんでした。しかし講義を受講し、私の環境に対する固定観念は打ち破られました。岩井先生が長年研究しエコタンの活動テーマともなっていた「ゾウ被害」について知ったとき、人も環境の一部であること、自然は保護の対象ではなく時には人に危害を加える存在であること、両者が影響し合いながら共生することが環境のあるべき姿だ、ということを学んだのです。

 実際に行動し始めると本当に多くのものに気づき、出会うことができました。特に印象深いのは、タンザニアでの人と人とのつながりです。知らない相手でも顔を合わせると言葉を交わし、子どもたちは皆兄弟のように接し、一つの大きな家族のように彼らは暮らしていました。そして彼らは私をその輪の中に受け入れてくれました。タンザニアに来る前はアフリカの人々は援助の対象であり、自分がその人々に援助するのだと思い込んでいました。しかし、彼らはむしろ多くのものを私に与えてくれました。

 日本に帰ってからはエコタンの活動を広める活動や、アフリカをより多くの人に知ってもらえるようなイベントを行いました。それはタンザニアにできた人とのつながりを、日本でも大切にしたかったからです。彼らの顔を思い浮かべて…今日も活動しています。

大学でハンセン病問題を学ぶ意味

 なぜ今、ハンセン病問題を学ぶ必要があるのでしょうか。現在、ハンセン病は治療法が確立され、日本でこの病気を発症する人はほとんどいません。世界的に見ても、ハンセン病はあと数年で制圧されるとの見通しもあります。これが意味することは、一体何でしょうか?

 紀元前から存在すると言われるこの病気を、人類は徹底的に嫌い、排除してきました。そのハンセン病が世界的に制圧されるということは、「人類悲願の達成」といっても決して誇張ではありません。その反面、ハンセン病が制圧されるということは、人類共通の人権侵害という負の歴史に対する忘却の始まりにもなりえるものです。

 人権問題は教科書で学ぶだけでは十分ではありません。2003年に温泉ホテルが、ハンセン病療養所に暮らす人の宿泊を断わった事件がありました。この事件について「ハンセン病だった人に会ったこともないのに、その場でホテルに抗議できるかどうかわからない」と言っていた学生は、プロジェクトに参加し、中国のハンセン病快復村の老人たちと一緒に生活したことで、何となく感じていた壁も偏見もなくなったと言います。ハンセン病に対する知識だけでは、ハンセン病の特殊性しか理解できませんが、実際に触れあってみると、気の良いおじいさん、おばあさんたちであるというナチュラルさがわかります。教科書からも現場からも同時に学ぶことが必要で、WAVOCではそれを目指しています。ハンセン病問題を学ぶきっかけは、メディアも一つの手段ですが、社会からの関心が高まらなければなかなか取り上げられません。やはり教育機関に課せられた使命だと思います。

 今後は市民団体や財団法人などと連携し、大学だけではできない試みに挑戦できればよいと考えています。

中国のハンセン病快復村で。一人の人間同士としてのふれあいが、壁と偏見をなくしていく

講義とプロジェクト体験から得たもの

相手との関係性をいかに構築できるか

兼次 亜衣子/2005年教育学部卒、共同通信社記者

兼次さん。星塚敬愛園(鹿児島県)で

 出身が沖縄ということもあり、ずっとマイノリティの問題に興味がありました。その関心から、在学中も、人権問題を扱う授業を受講し、そこでハンセン病問題と出会いました。

 授業の実習を通して、実際に療養所を訪問し、回復者の方とお会いしたときのことは、今でも覚えています。それまでは、「弱い立場の側に立って物事をみていきたい」と思っていたのに、どうしても後遺症の残る回復者の方の手に目がいってしまいました。自分も、差別する側にたつ危険性を感じたのを覚えています。

 そのことを意識しながら、いまも取材する人と自分の関係を考えます。取材対象と記者という関係にとどまるのではなく、それとは違う地点で人間関係を作ることが取材するうえで大切なことだと思います。

 これから記事を書いていくなかでも、「ハンセン病=悲しい病気」という枠だけにとどまるのではなくて、「すぐそこにナチュラルに生きている人」として伝えていきたいと思います。