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キャンパスナウ

▼1月号

SPECIAL REPORT

現場からみたジャーナリズムとアカデミズムの課題

 テレビジャーナリズムの最前線で活躍されている田丸美寿々さんと、ジャーナリスト育成に取り組んでいらっしゃる佐藤正志先生に、それぞれの立場から、ジャーナリストに求められる資質やジャーナリズムの課題について語っていただきました。

社会の問題に目覚めるきっかけは誰にでもある

大隈庭園内 完之荘にて

佐藤 田丸さんは、女性ジャーナリストとして道を切り開き、テレビジャーナリズムの基盤を作ってこられました。そもそもテレビ局に入社されたきっかけは何ですか。

田丸 最初はジャーナリストになろうなんて大それたことは考えていませんでしたが、たまたま、就職課の掲示板にフジテレビの求人票を見つけて、興味本位で面接に行きました。面接では、とても手応えのある質問をしてくださり、真剣に私の話を聞いてくださったことにびっくりしました。当時はまだ雇用機会均等法もなく、女子学生に聞く質問と言えば、「お茶くみはやりますか」といった内容ばかり。なんでこんなに男子と差別されるのか、ちょっとおかしいぞと思ったあたりから、社会に対する問題意識が芽生えていたのかもしれません。

佐藤 まだ報道現場には、女性が少なかったでしょう。

田丸 今でこそ、女性キャスターが番組を仕切る時代になりましたが、当時は女の声でニュースを読んでも信憑性がないとまで言われました。ですから、ニュース番組をやりたいというだけで生意気扱いされていたんです。それでも、いろいろな現場を見たり、取材をさせていただいたりするうちに、この世の中はおかしいとか、変えなければいけないという思いが強くなり、ジャーナリストのはしくれとして自分の足で歩くようになりました。あまり男女差を言いたくはないのですが、女性記者のほうが、比較的コミュニケーション能力が高いそうです。警察官や政治家からコメントをとるのもうまいし、ガッツもあるので、テレビ局では女性記者を活用するようになりました。実際はまだまだ男社会ですけれど。

先生は、どのあたりからジャーナリズムに興味をお持ちになったんですか。

佐藤 私は高校時代から新聞記者になりたかったんです。それで多くの新聞記者を輩出している大学を探して、早稲田の政治経済学部(以下、政経)に入りました。当時の政経はほとんどの学生が、ジャーナリストや出版関係を志望していましたね。

田丸 早稲田の方は多いですね。バンカラ反骨の早稲田精神がジャーナリズムに向いているような気がします。私の友人も早稲田出身者が多いんですよ。団塊の世代には、こわもての人が多い印象がありますが、先生は柔和ですね。昔はカリカリしていたんですか(笑)。

佐藤 心の中ではね(笑)。

田丸 そうでないと、ジャーナリストにはなりませんよね。何か社会に対して問題意識を持つようなきっかけがないと、ジャーナリストになりたいという思いはなかなか芽生えません。

佐藤 誰にでも、生きていれば必ず、社会に対して疑問を感じることがあるはずです。その自覚が大きい人たちの声が集まってパブリックな意見というものが形作られ、その要にいるのが、ジャーナリストだと思います。

田丸 ジャーナリストでなくても、薬害C型肝炎と闘っている福田衣里子さんなど、私たちよりもはるかに世の中を動かしている人たちがたくさんいますよね。私たちはそうした動きを伝え、そのお手伝いをする立場だと思います。

ジャーナリズムコースでは理論と実践を教えます

佐藤 正志/早稲田大学大学院政治学研究科長 略歴はこちらから

田丸 大学院政治学研究科ジャーナリズムコースでは、どのように学生たちを導いていこうとされていますか。

佐藤 一つはジャーナリストとしての技術です。書いたり語ったりするコミュニケーション能力を育てます。その一方で、本質的に社会を見るための、批判的思考力を育てることが重要だと考えています。

田丸 それにはどんなものがありますか。

佐藤 方法論教育と言っているのですが、批判的思考力を身につけるために、客観的に社会を捉えるための方法を学びます。またある意味、市民としての教養形成だと思うのですが、歴史が形作ってきた言論の自由や公共性についての考え方を学んでもらいます。

田丸 先輩たちが、権力に抵抗したり丸め込まれたりしながらも、知る権利を勝ち取ってきたからこそ、今があるということを教えてあげてほしいです。

佐藤 三つ目の核として、ジャーナリズムとメディアへの洞察というテーマがあります。理論的な学習を通じて、過去を踏まえて未来を見通す“眼”を養成します。

田丸 理論的な学習にはどんなものがありますか。

佐藤 一つは、マスコミュニケーションやジャーナリズム、またメディアについて、社会の中での役割や機能について理論的、歴史的、思想的に学びます。また、これは四つ目の核になりますが、政治・経済・社会・国際・科学・文化の各専門分野の理論や哲学を本格的に学ぶことができます。

田丸 理論だけでなく、実践も行われるんですよね。頭で理解するのと実際にやるのとでは、ものすごく距離がありますから。

佐藤 はい。実習の科目には、例えばニューズルームというものがあって、調査をして記事を書いて発信するという訓練をします。

田丸 今の学生は、コンピューターの前や自分の周りの小さな輪の中でしかコミュニケーションを取れない人が多いような気がします。学生たちの気質をどう感じていますか。

佐藤 田丸さんの印象が一般的だと思いますね。物を書く訓練をしてきていないので。ジャーナリズムコースの学生は、相当に厳しい実習には一生懸命ついてきていますが、まだまだ自分が思っていることを伝え、理解してもらうという部分が弱いかもしれません。そこで、能力のあるジャーナリストや広報の専門家に来ていただいて、インタビューの方法や話し方を学び、表現力も強化しようとしています。また、キャンパス内に、現場で活躍されているジャーナリストと学生が自由に出入りして、交流できる空間を作る予定です。学生にとっても、現場のジャーナリストにとっても良い効果があると思いますよ。

田丸 私のところにも夏休みにインターンに来ていただいたのですが、徹夜で頑張ってもらいました。スタッフも若い人たちと仕事ができて喜んでいましたよ。企業も良い人材が入ってくることを期待していますので、もっと学校と現場の双方向の関係ができてくるといいですね。

佐藤 インターンシップはわたくしたちのコースの五つ目の核の現場主義のかなめですが、先日のインターンシップ報告会では、完敗宣言をした学生もいたようです。

田丸 まだ頭だけで考えていたのかもしれませんね。ジャーナリストは、体も使わないとやっていけない仕事です。昔のジャーナリストは、酒とたばこと徹夜で不摂生の極みみたいな感じでしたが、今は健康マインドが高まっていると思います。

テレビジャーナリズムの功績と危うさ

田丸 美寿々/フリージャーナリスト 略歴はこちらから

佐藤 現在のジャーナリズムについて、最も感じていることは何ですか。

田丸 テレビジャーナリズムは、昔に比べれば格段に進歩しました。以前は活字メディアに対する劣等感のようなものがあったのですが、今では活字メディアに負けない取材力や機動力もついて、速報性や同時性を生かした報道がなされるようになり、うまく棲み分けができていると思います。むしろ、テレビ離れのほうが深刻です。情報はいつでもネットで得られるようになりましたから。今後テレビ局は、多角的にネット、映画、DVDも含めた一つの事業体としてやっていかないと生き残れないでしょう。

佐藤 テレビにはそうした強みがありながら、ワイドショー的になっているという批判もあります。田丸さんは上質な番組を作られてきたので、自信につながっているのだと思います。メディア全体の課題としては、“公共性の危機”がありますね。

田丸 その一例として “小泉劇場”があげられます。テレビは小泉さんの言動を持ち上げて、高い支持率の片棒を担ぎました。あの時メディアは、今問題になっている格差社会や後期高齢者の医療制度を見逃していたんですよ。これはテレビジャーナリズムの責任だと思います。

 それにしても、今ほど政治家がテレビに出ている時代はありません。テレビが政治ジャーナリズムに果たした功績は、政治家が生の声で国民に語りかける場を作り、政治の透明性を高めたということです。あえて苦言を呈すなら、政治家にテレビを利用されかねないということです。そこは、私たちが心して番組を作ればよいことで、ジャーナリズムとしての資質が問われているところです。

 もう一つ、テレビの危うさを感じる例をあげると、山口県光市の母子殺害事件の報道で、テレビが検察側の主張に寄り、被害者側に集団的加熱同調をしてしまいました。一人の被告への見方がメディアの論調によって変わってくる。これはあってはならないことで、小泉劇場以上にこわいことです。

 もうすぐ裁判員制度が始まりますが、予断とか予見を持たれないような事件報道について、熱い議論が交わされているところです。

佐藤 裁判員制度への対応は急務ですね。世論とジャーナリズムの関係については、じっくり考えなければなりません。本当にパブリックな世論を維持することが、ジャーナリズムの重要な役割だと思いますね。

田丸 私たちは世論を操作しようとは決して思っていないし、第一、世論はそんなに軟弱なものではありません。もちろん世論に訴えかけることはありますが、世論に悪影響を与えるような報道は絶対にしてはならないと思っています。ただ、私たちも喜怒哀楽を共有し、世論に寄り添うこともあるでしょう。ここが難しいところで、いつも緊張します。

佐藤 緊張感を持っているかどうかが、優れたジャーナリストの条件ですね。

田丸 常に自分の言動が問われていると感じています。今までにも私の不用意なコメントで被害者や被告を傷つけてしまったり、取材先にご迷惑をかけてしまったりしたことがありました。そのたびに自分の未熟さを感じます。この仕事をやればやるほど、謙虚でいなければならないと思います。

佐藤 マスコミは社会にパブリックな意見が流れていく上で大きな役割を果たしていますが、大学もアカデミックな立場として、新しい公共的な空間の形成にどうコミットできるかを考えなければいけないと思います。わたくしたちはジャーナリズムコースを通じて、公共圏でのジャーナリズムとアカデミアの望ましい出会いについて模索していきたいと思っています。

ジャーナリストは人間力が問われる仕事

佐藤 田丸さんのお話を聞いていると、現場で仕事をしながらジャーナリストとしての自分を確立されてきたという感じがしますね。

田丸 そうですね。ジャーナリストに向いているのは、人間が好きで好奇心ある人だと思います。先生のように人なつっこい笑顔でインタビューをしてくだされば(笑)、この人になら話をしたいと思います。キャスターも同じで、この人の言葉だったら聞いてみたいと思わせる豊かな人間性が必要です。

佐藤 コミュニケーション能力というと技術的になってしまいますが、要は人間力ですよね。

田丸 自分と意見の違う人とでも心を開いて話ができることが大事だと思います。今の若い人たちは真剣な討論や議論は、かっこ悪いと思っているところがあります。自分を他人に受け入れてもらうためには、言葉を使って相手を理解させなければならないということを分かってほしいですね。でも、今の若い人たちはとても良い感性を持っていて、話していると刺激があって楽しいんですよ。私たちが想像もできないような新しい世界を作ってくれるのではないかと期待しています。

佐藤 大学にいると、毎日そんな若い人たちを発見しますよ。

田丸 いいですね。今先生がこのお仕事をされていて、一番楽しいことは何ですか。

佐藤 議論してお互いを説得して新しいことを始めることですね。ジャーナリズム大学院を作っていく過程は、本当に楽しかったです。日本のジャーナリズムについて思う存分議論をしたり、現場の人たちと知り合ったり。そして今は、学生たちが成長していく過程を見るのがとても楽しいですよ。

田丸 私はこの仕事は本当に素晴らしいと感じています。定年もないし(笑)、生き甲斐にもなる。いつまでも上を目指せるし、頑張っただけ報われる仕事です。子育てしながら頑張っている女性の仲間もたくさんいます。ジャーナリズムの世界に飛び込んでくる学生の皆さんをお待ちしています。

佐藤 正志(さとう・せいし)/早稲田大学大学院政治学研究科長

1948年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大学院政治学研究科博士後期課程単位取得退学。福岡教育大学助教授、宇都宮大学助教授、東海大学教授を経て、1996年4月より早稲田大学教授。大学院政治学研究科ジャーナリズムコース開設に携わる。『現代の政治思想』(共編著、東海大学出版会)。『政治概念のコンテクスト―近代イギリス政治思想史研究』(共編著、早稲田大学出版部、1999年)など多数。

田丸 美寿々(たまる・みすず)/フリージャーナリスト

1952年生まれ。東京外国語大学外国語学部英米語学科卒業後、フジテレビ入社。1979年、ニュース番組のメインキャスターに抜擢され、フジテレビ女性キャスターの第1号となる。1983年に退社し、以後フリーアナウンサーとして活躍。現在はTBSテレビ「報道特集NEXT」のメインキャスターや各種選挙報道番組の司会を務めている。大学院政治学研究科ジャーナリズムコースでは講師として現場からの声を伝えている。『働く女性のちょっと気のきいたものの言い方』(三笠書房)など著書多数。