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キャンパスナウ

▼1月号

SPECIAL REPORT

ジャーナリズムへの扉

早稲田が目指すジャーナリズム教育

 本学はこれまで多くの優れたジャーナリストを輩出してきました。
ジャーナリズム教育の社会的使命を果たすために今、大学に何が求められているのでしょうか。
アカデミズムとジャーナリズムの融合の意義と可能性について、探ります。

日本初のジャーナリズム大学院「Jスクール」の可能性

 大学院政治学研究科(以下、政研)に2008年4月に開設されたジャーナリズムコースは、修士号(ジャーナリズム)を授与する、日本初のジャーナリズム大学院です。このコース設立の目的と内容について、また、大学におけるジャーナリズム教育の意義について、同コースのプログラム・マネージャーを務める瀬川至朗政治経済学術院教授に寄稿してもらいました。

瀬川 至朗/早稲田大学政治経済学術院教授

早稲田はなぜジャーナリズムなのか

 「早稲田といえばジャーナリズム」政研ジャーナリズムコース(通称・Jスクール)の開設以降、何度かこうした表現を用いてきました。たしかに、メディアの世界は、どこをみても早稲田が最大勢力です。早稲田には在野の精神があると言われます。在野の精神は、権力監視の機能をはたすべきジャーナリズムには必須のものです。

 しかし、本当に「在野」なのでしょうか。戦後の首相30人のうち、6人は早稲田出身者です。最近の10年では小渕恵三、森喜朗、福田康夫の3名がいます。政権の座から離れているわけではありません。

 では、早稲田とジャーナリズムの親和性はどこにあるのでしょうか。早稲田大学OB(政経)で、2008年11月に永眠されたジャーナリスト、筑紫哲也さんの言葉が、その秘密を解き明かしてくれます。

「NEWS23」(TBS系)の人気コラムだった「多事争論」の最終回で、筑紫さんは「変わらぬもの」と題して語りました。「少数派であることを恐れないこと、多様な意見や立場をなるだけ登場させることで、この社会に自由の気風を保つこと」(2008年3月28日)

 これは番組の精神について触れた発言ですが、まさに、早稲田が脈々と培ってきた精神そのものだと思います。校歌にある「進取の精神、学の独立」は、雁字搦めではない、自由な気風を生み出します。多様で自由な言論空間こそ、ジャーナリズムが守るべき至宝であり、だから、早稲田なのです。

なぜ今Jスクールか

 早稲田大学は、多くの優れたジャーナリストを輩出してきました。しかし、系統だった教育が育てたとは言えません。早稲田の土地に、逞しく自生したというイメージが当たっているでしょう。

 今回、Jスクールが創設された背景には、ネットの登場を契機とするメディア構造の変化と、それがもたらしたジャーナリズムの質の劣化があります。

 ネットの急速な普及は、テレビや新聞などの既存メディアを直撃しています。広告収入の減少が屋台骨を揺るがし、メディアの企業性が露骨に表れるようになりました。視聴率や部数を意識したコンテンツが幅をきかせ、不十分な取材のまま、速報的な記事が24時間発信されるという事態が起きています。

 もう一つ、専門ジャーナリストの少なさも見過ごせない問題です。格差、年金、介護から防衛、地球環境などにいたる諸分野では、市民は、混迷の先を読み解いてくれる専門ジャーナリストの鋭敏なリポートを期待しているのです。

 メディア企業の記者教育は、従来、社内で仕事をしながら先輩が教える「オン・ザ・ジョブ・トレーニング」で十分だと考えられてきました。今、その破綻は明らかです。そもそも、社員教育とジャーナリズム教育は、目的からして異なります。真のジャーナリズム教育には、大学という揺りかごが必要なのです。

カリキュラムの特色は何か

 政研では、2005年度より「科学技術ジャーナリスト養成プログラム」(MAJESTy)を実施してきました。Jスクールは、MAJESTyの経験を踏まえ、それを他分野に拡大・発展させる形で創設されました。MAJESTyから受け継いだのは、先進的なジャーナリズム大学院に必要な5つの基本コンセプト(「」は代表的な科目例)です。

(1)批判的思考力
「データの見方」「リサーチデザイン」「公共の哲学」「表現の自由の基礎理論」など

(2) ジャーナリズムやメディアの役割に対する深い洞察
「 ジャーナリズム論」「メディア史」「情報法」「パブリック・リレーションズ」など

(3) 専門知=幅広い専門分野についての科学的知識と哲学の理解
 「 現代政治思想」「ジャーナリストのための経済入門」「日本外交論」「スポーツ表象論」など

(4)プロフェッショナルな取材・表現力
「 文章表現」「ニューズルーム」「ビデオ・ジャーナリズム」「調査報道の方法」など

(5)現場主義=フィールドに基づく思考
 「 インターンシップ」「ウェブ・ジャーナリズム」

 (1)(2)(3)については、政治経済学術院の教員だけでなく、教育・総合科学学術院、社会科学総合学術院、理工学術院など、オール早稲田の専門知を結集した講義を展開します。専門知については、政治、経済、国際関係から、社会、文化、スポーツ、科学技術、総合研究(環境問題など)の各分野で多彩な授業をそろえています。

 (4)は、従来の大学の教育システムでは手薄だった、現役ジャーナリストを講師とする少人数形式の実践教育に取り組みます。取材・記事作成の基本を学ぶジャーナリズム実習として「ニューズルーム」という授業を複数開講します。映像・ウェブ関係にも力を入れます。

 (5)では、メディア企業などの現場を経験する「インターンシップ」を原則必修にしています。「ウェブ・ジャーナリズム」の授業などを通じ、学生の作品を自前のウェブマガジン「Spork」で積極的に発信していきます。カリキュラム全体を通じてのコンセプトは、Jスクールを、アカデミズムとジャーナリズムの出会いの場として創出していくことです。両者が接点を持つことで互いに自己変革がおき、新しい知が生まれることを期待しています。

どういう人材を育てるのか

本学のJスクールは、21世紀のメディア環境で活躍できる、「個」として強いジャーナリストの育成をめざします。彼ら彼女らは、フリーな立場で新しいメディアを駆使し、あるいは、既存のメディアを内側から変革していく人材となるでしょう。また、専門分野に強く、専門研究者にも能動的に質問できる専門ジャーナリストの育成をめざします。一言でいえば、その使命を理解し、専門知と実践的スキルにおいて、真にプロフェッショナルなジャーナリストを育てていきます。メディア企業ではたらく中堅ジャーナリストがさらなる飛躍をめざすための研修教育の場にもしていく方針です。

 Jスクールは、アジア地域に注目します。アジアでの成熟した公共圏の創出をめざし、アジアの有力ジャーナリズム大学院と共同で教育・研究を進める仕組みをつくり、「アジアに強い日本人ジャーナリスト」と「日本に強いアジア人ジャーナリスト」の共同育成をめざします。

 ジャーナリズムの手法の基本とは、現場に出向く、人に会う、報告書を入手するなどの行為で情報を入手し、その情報を批判的(自立的)に検討した上で、受け手にとってわかりやすく魅力的な形で提示することだと考えます。こうした方法の理解と習得は、ジャーナリストに限らず、広く企業や官庁の人、さらには多くの市民が身に着けるべきものでしょう。ジャーナリズムの手法は、成熟した市民社会の構築に向けて、市民が持つべき最強のコミュニケーションツールと言い換えることができます。Jスクールの可能性は無限だと確信しています。

本学卒業生マスメディア就職状況(キャリアセンター調べ)
2007年度
  全学部計 全研究科計 総計
新聞業 94 20 114
出版業 147 14 161
放送業 128 135
新聞業 207 17 224
印刷業 48 11 59
制作業 74 79
通信社 11 13
2006年度
  全学部計 全研究科計 総計
新聞業 101 11 112
出版業 141 150
放送業 109 14 123
広告業 150 17 167
印刷業 70 79
制作業 72 78
通信社 11 13
2005年度
  全学部計 全研究科計 総計
新聞業 97 13 110
出版業 118 123
放送業 109 10 119
広告業 135 10 145
印刷業 63 13 76
早稲田大学におけるジャーナリズム・メディア関連のプログラム

 大学院では、政治学研究科ジャーナリズムコース(Jスクール)、学部レベルでは、オープン教育センターが展開するテーマスタディ(全学共通副専攻)の「ジャーナリズム」コースが、それぞれ全学の力を結集する形で、積極的にジャーナリズム教育を推進しています。  他にも、ジャーナリズムやメディアの名を冠したプログラムが複数存在します。学部レベルでは、テーマスタディの「メディア文化研究」コース、文化構想学部の「文芸・ジャーナリズム論系」などがあります。2007年4月からは、「大久保建男スポーツジャーナリズム基金」によるスポーツジャーナリズム関連の講座も開講されています。また政治経済学部は2009年度より、ジャーナリズムの副専攻制度を導入します。大学院では、専門職大学院である公共経営研究科が設定した4つのフォーカス(研究領域)の中に「情報ジャーナリズム」があります。

 また、顕彰活動として、2000年に「石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞」(http://www.waseda.jp/jp/global/guide/award/index.html)を制定し、広く知られるようになりました。毎年、優れたジャーナリズム活動を顕彰することにより、社会的使命・責任を自覚した言論人の育成と、自由かつ開かれた言論環境の形成に寄与しています。

瀬川 至朗(せがわ・しろう)/早稲田大学政治経済学術院教授

東京大学教養学部教養学科(科学史・科学哲学)卒。毎日新聞社ではワシントン特派員、科学環境部長、編集局次長、論説委員などを歴任。2008年1月から政治学研究科ジャーナリズムコースのプログラム・マネージャー。著書『健康食品ノート』(岩波新書)『カードの科学』(ブルーバックス)、共著『アジア30億人の爆発』(毎日新聞社)『理系白書』(講談社)など多数。