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キャンパスナウ

▼10月号

SPECIAL REPORT

早稲田スポーツが駆ける道―Road of Waseda Sports

 日本のスポーツ界の発展において、早稲田大学はその一端を担ってきたと自負しています。さらに今後、日本のスポーツ界を盛り上げるために、早稲田大学にできることは何でしょうか。また、大学教育の一環としてのスポーツの可能性をどこまで追求できるのでしょうか。研究活動と競技スポーツの現状を明らかにすることで、今後の道のりを探ります。

【Part 2】早稲田大学のスポーツ科学研究最前線

早稲田大学で行われている、さまざまなスポーツ科学研究。その最前線について、3名の教授に紹介いただきました。

トップスポーツビジネス研究
スポーツは、単なるビジネスを超えて世の中に貢献する重要なもの

平田 竹男/早稲田大学大学院スポーツ科学学術院客員教授

平田 竹男/早稲田大学大学院スポーツ科学学術院客員教授

 2004年、プロ野球最大の危機が訪れたことは記憶に新しいと思います。大阪近鉄バッファローズが数十億円の赤字を抱えた結果、親会社の経営不振により存続を問われ、オリックスブルーウェーブと合併し、近鉄の名はプロ野球界から消滅しました。球団が消滅すると、選手はもちろん、応援していたファンも不幸です。ですから、プロスポーツチームの経営を健全に維持するためにスポーツビジネスを研究することは、社会的使命であると考えています。

 一方、同年に誕生した東北楽天イーグルス(以下楽天)は、設立初年度から黒字経営を継続しています。近鉄と楽天の違いは何でしょうか。その一つは、楽天は自前のスタジアムを保有していることです。長年日本では、チームが自前でスタジアムを保有しても、建設費と維持費にお金がかかって、元が取れないと考えられてきました。しかし、自前であれば、スタジアムの看板の広告料、観客の飲食代などがチームに入ることになり、大きな収入源になります。楽天は、前例のない新たな挑戦を成功させたという点で、スポーツ界に大きく貢献しました。

 また、楽天の成功は、チームの企業依存からの脱却という点でも大きな意味があったと思います。従来のプロ野球チームは経営が悪化しても、親会社からの損失補填があったために、営業努力を怠ってしまうなど、かえって発展が阻害されていたのではないでしょうか。JリーグでNo.1の営業収入を得ている浦和レッズが、2005年に三菱自動車との損失補填契約を解除しながらも、独自の営業努力を進めてスポンサーを獲得し、順調に経営を安定させていることからも明らかです。浦和レッズのような成功例は、Jリーグモデルといって、入場料収入、広告料収入、グッズ収入、そして、TV放映権収入で成り立つビジネスモデルです。Jリーグの場合、TV放映権料はリーグが一括管理してから各チームに分配しており、チームが得ることができるTV放映権収入は少額です。しかし、これからのスポーツビジネスでは、多額の放映権料を前提にすることは困難であり、このようにチームが自立した経営を行うためのバランスの良い収入構造を確立させる必要があります。

 

 国民が感情移入し情熱を燃やすものが少なくなっている昨今、北京五輪の北島選手の活躍への声援が示すように、スポーツの人気はますます増えていくと思います。北島選手を指導する平井コーチは、現在本学大学院スポーツ科学研究科の社会人学生として私の研究室で学び、新たな水泳界のあり方を模索しています。収入を得るだけでなく、同時に勝つことと、普及させることという3つのミッションを果たさなければならないスポーツビジネスを成功させることは、非常に難易度が高いことですが、その分、達成感は大きい。今早稲田大学で学ぶ学生が、将来、スポーツビジネスの担い手として活躍してくれることを期待して、講義をしています。

スポーツ心理学
広い研究分野をフィールド「スポーツ」と「心」を科学する

正木 宏明/早稲田大学スポーツ科学学術院准教授

正木 宏明/早稲田大学スポーツ科学学術院准教授

 「スポーツ」と「心」は切り離して考えられないものです。NHKのアテネオリンピック特集番組では次のようなエピソードが紹介されていました。男子平泳ぎ100m決勝で、北島康介選手のライバル、アメリカのブレンダン・ハンセン選手がスタート台に立ったときのことです。北島選手の平井伯昌コーチはその動作を見て「これは勝てる」と感じたそうです。なぜなら、ハンセン選手がいつもとは違う方向からスタート台に立ったため「相当緊張しているのでは」と感じたからでした。結果、メンタルでも勝る北島選手はハンセン選手を破って金メダルを獲得しました。北京オリンピックでの北島選手の活躍も周知のとおりです。かつて日本人はメンタルが弱いと言われていましたが、最近は日本人選手もメンタルが強くなったものだと感心します。

 北京オリンピックでの試合後のインタビューでは、不本意な結果でもアスリート達は「精一杯やりました」と自身の努力を称え、前向きに捉える姿勢が多く見られました。アスリートはインタビューの練習もするようですが、自分を卑下しないこうした言葉が自然と出るようになったことは、スポーツ心理学が浸透してきた表れではないかとも思います。試合に負けたとき能力のせいにしてしまえば「どうせ次もダメだ」とネガティブな期待を形成するでしょうが、自分でコントロールできる努力に起因させれば「努力次第で次はやれる」と前向きに動機づけることができます。

 スポーツ心理学の研究分野はとても広範囲にわたります。一般的には、「スポーツ心理学」イコール「メンタルトレーニング」と考えられがちですが、それだけではありません。例えば、スポーツ選手の性格に代表される「明朗快活、積極的、忍耐強い」など、ポジティブな特性は先天的なものなのか、それとも後天的なものなのかを調べるパーソナリティ研究もその一つです。また、どのような練習スケジュールがスキル向上に有利となるのかを追求する運動学習研究、巧みな動作は脳内でどのようにプログラムされて実行されるのかを調べる脳内情報処理研究など、研究対象は多岐にわたります。

 スポーツでは失敗しても、どのように受け止めて行動を修正していくかによって、その後成功するか、また同じ失敗をするかが決まります。今後は、失敗体験を成功体験につなげる認知と行動の仕組みを解明し、優れたスポーツ選手の輩出に貢献していきたいです。本学術院で研究を行う強みは、最先端の施設もさることながら、種目、競技レベルなどで選手に多様性がある点です。この環境を存分に活かした研究を行いたいと考えています。

スポーツ運動学とバイオメカニクスの融合
練習方法とその効果の体系化でさらなる競技技術の発展へ

土屋 純/早稲田大学スポーツ科学学術院准教授

土屋 純/早稲田大学スポーツ科学学術院准教授

 学生時代、陸上の練習で、脚のももを思い切り上げて走る「もも上げ」を行ったことがある方は多いのではないでしょうか。実は、「もも上げ」は現在ではあまり効果のないトレーニングとされており、今ではほとんど行われていません。その理由は、一流選手の疾走動作をバイオメカニクス(生体力学)的に分析した結果から、「もも上げ」が必ずしも速く走るための技術ではないことが解明されてきたからです。

 私の研究テーマは、運動を定性的に把握するスポーツ運動学と、定量的に分析するバイオメカニクスの融合です。運動を行うための「技術」を明らかにし、練習方法とその効果を体系化することで、パフォーマンスの進化を追究しています。方法としては、高度な技を行う選手の運動をスポーツ運動学的・バイオメカニクス的に分析し、運動のやり方である「技術」を明らかにして、その結果をもとに運動をマスターするための練習方法を考案することが挙げられます。考案した練習方法を練習に取り入れ、その効果を検証することも重要な研究の一つです。

 今後は、医学でいう「症例研究」のように、運動の学習者がもつ問題をどのように解決したかという、運動指導の現場で日々行われている実例を研究として蓄積させていくことが重要であると考えています。それによってより体系化された効率の良い運動指導が可能になると考えています。

本学には以下のようなスポーツ関連のプロジェクト研究所があります。
詳しい研究内容については、http://www.kikou.waseda.ac.jp/ の「研究所紹介」ページをご覧ください。

研究所名/所長名 概要
エルダリー・ヘルス研究所
村岡 功(スポーツ科学学術院教授)
高齢者向け介護予防運動プログラムの開発、医療費・介護費用削減効果の検証、プログラム推進指導者の養成、研究成果の社会還元のためのビジネスマネジメントとマーケティングリサーチに関する研究を行う。
スポーツ医学リサーチ研究所
福林 徹(スポーツ科学学術院教授)
中高年の健康づくりに対する医学的サポートに関して、フィットネスクラブと提携し、適切な内科的、整形外科的運動メニューを作成、指導する。また、競技レベルのスポーツ選手を怪我から守るための予防プログラムの開発と普及に関しての研究を行う。
スポーツ産業研究所
中村 好男(スポーツ科学学術院教授)
産業としてのスポーツビジネスに関する新たな理論枠組みを開発提案し、来るべき本格的なIT 社会におけるスポーツ産業の創造に貢献することを目的とする。授業「トップスポーツビジネスの最前線」の講師と連携し、研究成果を同名の一般書としても刊行している。
スポーツビジネス研究所
宮内 孝知(スポーツ科学学術院教授)
スポーツ環境の激変から生まれた社会的ニーズに対する解決策の提言や、新しいビジネスモデル構築・経済効果の研究・人材育成を通じ、多方面からスポーツ産業の発展のための研究を行う。
スポーツ文化研究所
寒川 恒夫(スポーツ科学学術院教授)
新しく出現しつつあるスポーツ状況に対応するため、哲学、歴史、社会学、文化人類学、教育学、倫理学、舞踊学など人文・社会科学の諸方法論によってスポーツの本質理解にかかわる研究を多様に展開し、同時にその社会還元の実現につとめることを目的とする。
トップアスリート研究所
葛西 順一(スポーツ科学学術院教授)
本学の有する既存施設と人的資産の再構築(有効活用)によって、トップアスリートに対するトータルサポートシステムを確立し、その成果を大学とトップスポーツの連携に関する「早稲田モデル(グローバルスタンダード)」として情報発信することを企図している。