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キャンパスナウ

▼2015 新緑号

NEWS REPORT

科学・技術による社会貢献

「研究の早稲田」から最先端の研究成果を報告

『ブラック・ジャック』舞台化に協力
「ピノコ」をロボットで再現

誕生シーンの“演技”をする「ピノコ」ロボット

 総合芸術集団「HAT(Human Art Theater)」が手掛けた手塚治虫の名作を舞台化。漫画と演劇の融合を掲げるこの企画に、本学理工学術院の高西研究室が協力し、『ブラック・ジャック』の作品中に登場する人気キャラクター「ピノコ」をロボットとして再現しました。

 ピノコが登場するのはエピソード「畸形嚢腫」(きけいのうしゅ)。双子の姉のコブの中で脳や手足、臓器などがばらばらに収まった状態で生きるピノコを、天才的な腕を持つ無免許の外科医ブラック・ジャックが手術で取り出し、小さな女の子の身体を与えるというものです。

 高西研はピノコを再現するために、各臓器や脚部、また胴体部から腕部を着脱可能に設計。目にCCDカメラを搭載しているため、ピノコ視点の映像をプロジェクタで投影することもできます。全身に25個のモーターを使用し、愛らしいピノコの完全再現を試みました。

ピノコの寸法と構造図

 舞台のスクリーンには漫画のワンシーンとともに、ブラック・ジャックの目線で見た手術シーンの映像が臨場感たっぷりに映し出され、手術を施された直後、ピノコは与えられた身体に戸惑いつつも、確かめるように首や手足を動かし、外の世界を初めて見る様子を“演技”します。

 演劇とロボットを組み合わせるシアターロボティクスに取り組む高西研の橋本健二講師は「昨年春から準備を始め、学部3年生と修士1年生の授業の一環としてピノコロボットの製作にあたりました。演出通りに動作するよう設計しましたが、研究室のメンバーではない役者さんが本番中にロボットを組み立てるという、通常はしないことをしているため、うまくいってよかったです」と、胸をなでおろしていました。

震災復興の思いを込めて
災害用ロボット「オクトパス」開発

2本の腕とクローラを駆使して段差を乗り越える「オクトパス」

 早稲田大学次世代ロボット研究機構(機構長:藤江正克理工学術院教授)は、3月13日、㈱菊池製作所との共同研究で、4本の腕と4輪(台座部分除く)のクローラで動作する小型無人作業ロボット「Octopus(オクトパス)」を開発し、原発事故避難指示区域にある同社南相馬工場で披露しました。

 8本の手足を駆使するタコから連想して名付けられた「オクトパス」は高さ1.7m、重さ700kgのロボットです。岩石切断用のファイバーレーザーや、瓦礫や廃棄物などをつかむグラップルなどを装備可能で、地震、津波、噴火などの災害現場で崩壊した建物から人を救うことや、原子力発電所の廃炉作業など、幅広い用途を想定して開発しました。

災害現場での活躍のイメージ図
(作画:早稲田大学漫画研究会)

 従来のこうしたロボットは大規模作業向けで、平坦地での単一作業が中心でしたが、オクトパスは4輪のクローラを駆使し、狭くて段差が複雑な瓦礫の山を移動、油圧ポンプ出力で4本の腕を同時に使い、瓦礫分別処理や消火作業、倒木除去など、複雑な作業を行えます。4本の腕を同時に動かすことができるロボットは世界的にも珍しく、現状では2名で遠隔操縦しますが、将来的には1名で操縦できるようになります。

 オクトパスのプレゼンテーションを行った藤江教授は「菊池製作所の南相馬工場には機構の研究室分室を設ける予定です。ロボットで災害や超高齢社会の課題を打破し、福島県の新しい産業基盤の創出に貢献したいです」と話しました。

現場の物証を非破壊・非接触で回収する最新鋭システム
見えなかった指紋が浮かぶ新装置を開発

ハイパー・フォレンシック・イメージャー

 宗田孝之理工学術院教授は、JFEテクノリサーチ(株)と科学警察研究所との共同研究で、建物の壁や公共交通機関などの切符の磁気面などからの指掌紋検出、重なった指掌紋の分離検出を可能とする「ハイパー・フォレンシック・イメージャー」を開発しました。本装置は、現場に残されたヒト由来成分、すなわち指掌紋や体液などに含まれる脂肪やたんぱく質(アミノ酸)を非破壊かつ非接触に分析することが可能であり、スーツケース程度にコンパクト収納できるため可搬性にも優れています。

 指掌紋は、DNA型鑑定精度が飛躍的に向上した現在でも、さまざまな犯罪・事故現場において被疑者などの特定につながる有力な現場鑑識資料です。本装置は鑑識能力の質を高め、被疑者特定・検挙に大いに威力を発揮する可能性があり、犯罪者に対する抑止力という波及効果をもたらし、安全・安心な社会の実現に資することが見込まれます。多数の犠牲者が出る自然災害でも、本装置にさらなる改良を加えることで遺体の指紋を正確に撮像し二次元展開することができ、指紋による身元確認時間を著しく短縮できると推測されます。さらに潜在指掌紋が発する蛍光スペクトルから印象時期を特定できる可能性も秘めており、今後の挑戦課題としています。本装置は2014年10月末より、科学警察研究所などとの合同実証実験を開始しています。

壁に潜在する重複している指掌紋の蛍光スペクトル画像(a)、わずかなスペクトルの差異(d)に基づき分離に成功した(b)指紋と(c)掌紋画像。光源は高出力緑色レーザー

細胞分裂装置(収縮環)の形成メカニズムの一端を解明
がん細胞の分裂抑制や再生医療への貢献に期待

収縮環様のリング構造の自己組織化と収縮。
白い点線は液滴と油の境界を表す

 理工学術院の宮崎牧人(みやざき・まきと)次席研究員と石渡信一(いしわた・しんいち)教授(早稲田大学バイオサイエンスシンガポール研究所所長)らの研究グループは、細胞から単離・精製したタンパク質を混ぜ合わせて細胞を模したカプセルに封入し、収縮環様のリング構造を再構築することに世界に先駆けて成功しました。さらに、細胞質分裂を担う収縮環の自己組織化と、その収縮に必要な最小限の構成要素と物理的条件を明らかにしました。

 この成果は、細胞分裂の仕組みの全容を解く重要な手掛かりになると期待されます。細胞分裂の仕組みの詳細が明らかになれば、将来的には細胞分裂を自在に制御することが可能となり、がん細胞の分裂の抑制や正常細胞の分裂促進による各種疾患治療、再生医療などさまざまな医療分野への貢献が見込まれます。また、今回の研究成果を応用することで、自己増殖機能を備えた人工細胞をつくりだせる可能性もあります。

 今後は、細胞分裂に関与していると考えられているタンパク質がそれぞれどのような機能を持っているのか、ボトムアップ的手法を用いて一つずつ明らかにしていくことが課題です。

※ この研究結果は、英国科学誌『Nature Cell Biology』4月号に掲載されました。