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本学の資金運用の方針と現状について

 米国サブプライムローン問題に端を発した昨秋以降の世界的金融危機を背景に、このところ新聞紙上等で「大学の資金運用」が話題になっています。そこで本学の資金運用の方針と現状についてご説明します。

1.本学の資金運用の歴史と背景

 資金運用の対象となる資金は、奨学金、研究助成および国際交流などのための第3号基本金引当資産、施設整備資金等引当資産、退職給与引当資産、特定目的引当資産などの主に各種引当資産として保有しているものです。その資金運用による運用収益(運用果実)は学内給付奨学金、研究助成、国際交流など教育研究環境の充実に有益に使われています。

 本学の資金運用の歴史は長く、1991年7月には「資金運用内規」を策定しました。当時は、日本の長期国債(10年債)の金利は6%近辺と高く、国内債中心のシンプルな資金運用が可能で、敢えてそれ以上のリスクをとる必要はありませんでした。しかし、1990年の日本のバブル崩壊以降の“失われた10年”のデフレ時代に金利は急低下し、現在でも10年国債でおおむね1%台(2003年6月一時0.435%)という歴史的な低金利局面が続いています。こうした状況下、2000年以降は、1991年頃購入した高金利の長期国債が次々と満期償還を迎える一方、償還資金は低金利での再運用を余儀なくされました。この頃から本学では、金融機関から経験豊かな資金運用の専門家を採用し、国際分散投資による収益向上を目指した本格的な資金運用を開始しました。

2.有価証券ポートフォリオ(運用資産構成)の推移

 10年前の1999年3月末の有価証券残高は288億円で、うち円債・短期商品(MMF、CP等)が239億円(構成比83%)、外債12億円(4%)、現物寄付を主とした株式が37億円(13%)と非常にシンプルでリスク管理しやすいポートフォリオでした。その後、日本の歴史的な低金利の中では収益維持が難しくなったため、内外金利差に着目し、5~6%クーポンの米国10年国債を中心とした外債投資を本格的に開始し、徐々にカナダ・オーストラリア・英国などの先進主要国の国債などに分散した外債投信、不動産証券化商品および主要先進国政府機関・国際機関が発行体の仕組み債などリスクリターンのバランスを考慮しつつポートフォリオの多様化・分散化を図ってきています。

 2009年3月末の有価証券残高は617億円で、うち円債・短期商品(MMF、MRF等)が332億円(構成比54%)、外債168億円(27%)、株式45億円(7%)、不動産証券化商品72億円(12%)です。

3.過去5年間の運用実績と収益の使途

 1990年のバブル崩壊後は、銀行の倒産など預金さえ安心できない時代でしたが、ようやく2005年4月にペイオフ解禁ができるほど金融環境が安定してきたため、銀行預金から債券投資に資金シフトし、運用収入は大きく伸びました。2004年度から2008年度までの直近5年間に実現した有価証券運用収益は123億円にのぼり、この間リスクを取らずほぼゼロ金利の銀行預金に置いてあった場合と比較すると大きな運用成果だったと言えます。

 この運用果実は、学内給付奨学金に45億円、研究助成に5億円、国際交流に4億円、その他の大学諸事業に69億円など教育研究環境の整備・充実に有益に使われています。特に、運用収益の一部を原資に2007年度に新設された「創立125周年記念奨学金」は、学部で5億円、大学院で1億円の合計6億円の大型給付奨学金で、従来のような大学一律の奨学金ではなく各学部・大学院の実情に即した31種の奨学金として誕生しました。

 本学では、この他にも大学や校友会などによる各種奨学金制度の充実を図ってきたことから、現在、国内大学有数の学内給付奨学金制度を有し、2008年度には学生約7,200人に対して総額22億4,700万円の奨学金を支給しました。今後とも一層充実させていきたいと考えています。

4.運用方針とリスクマネジメント

 資金運用には当然リスクが伴い、リスクを取らなければリターンは望めません。重要なことはリスクとリターンのバランスをどのように考えるかということです。その前にまず、リスクについて触れたいと思います。リスクは大きく分けて、「信用リスク」と「市場リスク(金利変動、流動性、為替変動など)」がありますが、信用リスクは最優先で回避すべきであり、市場リスクについては、各種運用商品のリスクリターンを分析して許容範囲(許容度)を図りながら、大きなリスクにならないようにマネジメントしていきます。

(1)リスク要因

[1]信用リスク(元本リスク)

 信用リスクは、債券で言えば発行体に元利金返済能力があるかどうかのリスクです。債券の金利が高く魅力的でも、万一、倒産した場合には、元本が毀損しますので最優先で回避すべきリスクです。特に外債投資をする場合には、海外企業の情報を的確に把握することは本学の体制では難しいため、発行体については原則として米国、英国、ドイツ、フランス、ノルウェー、スウェーデン、オーストラリアなど主要先進国の政府および政府機関あるいは世界銀行、欧州投資銀行などの国際機関に限定しており、元本毀損リスクを極力抑制しています。

[2]市場リスク(金利変動、流動性、為替変動など)

 市場リスクのうち、金利リスク(=債券では金利上昇は価格下落を意味する)および流動性リスクについては、本学の債券運用が期限前に途中売却しない満期保有目的を前提にしているため、満期償還時あるいは早期償還時に額面100%で償還されることで回避します。従って、本学では為替リスクを取って、リターン向上を目指しています。

 上記グラフは、米ドル、豪ドル市場の1988年~2009年までの約20年間の推移を示しています。概観すると【1】最初の2年間円安、【2】5年間円高、【3】3年間円安、【4】2年間円高、【5】2年間円安、【6】3年間円高、【7】3年間円安、【8】今回の2007年半ば以降は円高となっていますが、今年2月以降は、円安が進行しています。このように為替相場は、円安局面と円高局面が循環的に繰り返され、その間の為替変動率は、米ドルで20%~70%、豪ドルで30%~90%と高いものになっています。なお、豪ドルは米ドルに比較して相対的に市場規模が小さいため、変動率はより大きくなっています。従って円高局面で一時的に評価損が生じても、時間さえあれば回復あるいは評価益に転じる可能性が高く、5~10年間の長期的視点に立てば、為替リスクはかなりの程度抑制できます“。運用の世界”では、長期投資で現金化を急がないことが最大のリスクヘッジでもあります(本文中の数字はグラフの該当箇所と対応しています)。

(2)運用方針

有価証券運用をしている限り、市場変動に伴うリスクをすべて回避することは不可能です。リスクマネジメントの要諦は、(1)リスクとリターンとのバランスをどのように取るか、(2)運用資金の性格は何かということです。

 5年~10年の長期的視点でハイリスクを取れば、途中の下落局面はあっても市場回復により最終的にはハイリターンになる可能性が高くなります。この例として挙げられるのは、米国ハーバード大学のハイリスク・ハイリターン型の資金運用戦略です。同大学のホームページなどによると個人を中心とした寄付金の基金残高が約3兆5千億円あり、その運用ポートフォリオは原油・鉱物資源・穀物などの商品、ヘッジファンド、プライベートエクイティー(ベンチャー投資など)、株式、不動産(山林を含む)、債券などかなりバラエティーに富んだ国際分散投資を進めており、2004年~2008年会計年度の5年間の平均年間運用利回りは17.6%(5年間で元本約2倍)にもなっています。こうして基金に蓄積された運用果実は、市場変動にかかわらず、毎年一定額が安定的に大学会計に繰り入れられます。今回の金融危機で巨額な評価損を抱えたものと思われますが、それでも過去の運用収益の範囲内と推測されます。今後、市場の回復を待ちながらも長期投資の運用戦略の見直しがあるかどうか注目されるところです。しかし、同大学も授業料など経常収入は年間の経常費用に充当するため、ローリスクの預金、短期国債(Treasury-bill 3カ月物)など安全な資産で運用しています。このように資金の性格も考慮したうえでの運用方針が重要となってきます。一方、ローリスクの運用はローリターンに帰結せざるを得ません。

 今回の金融危機により市場金利が低下したため、当面は厳しい運用環境が予想されますが、本学の運用の基本方針は、債券中心による3~4%程度の運用を目指したミドルリスク・ミドルリターン型の資金運用です。毎年、奨学金給付などのための定期収入が必要であり、株式によるキャピタルゲイン狙いよりも債券によるインカムゲイン(利息収入)中心の運用が主体とならざるを得ません。また、日本の大学の収入の大半は授業料であり、その資金の性格からハイリスク・ハイリターン型の資金運用は相応しくないと考えています。要は、どのような運用方針で臨むのかは、その大学の運用哲学、運用の歴史・ノウハウ、リスク許容度、資金性格など運用への理解度、認識度で異なり、一概にどれが良いというものでもなく、また、単純にリターンだけを比較しても意味がありません。

 なお、他大学で通貨スワップなどデリバティブ取引による巨額損失の報道がありましたが、これは収益拡大を目的として想定元本を何倍にも膨らませるというレバレッジを掛けたデリバティブ取引でリスクリターンを考慮した資金運用とはとても言えず、投機と言わざるを得ません。本学ではこうしたデリバティブ取引、CDS(クレジット・デフォルト・スワツプ)およびCDO(債務担保証券)などは行っていません。

 デリバティブ取引自体はリスクヘッジに使えば極めて有効です。例えば、住宅ローンで固定金利型または変動金利型を選択出来たり、海外でクレジットカードを使うことができるのも銀行やカード会社が金利スワップや為替先物市場などでリスクヘッジすることが可能だからです。しかし、前述のようにレバレッジをかけた収益拡大策に使うとリスクの高いものになります。要は、デリバティブ取引自体が危ないのではなく、使い方に問題があるわけです。

5.2008年度有価証券運用実績
(1)運用収益および期末評価損益

運用対象となる各種引当資産などは2009年3月末現在626億円です。これに現預金263億円を加えた889億円が金融資産の合計額となります。各種引当資産にはそれぞれ引当目的があり、現預金の263億円が事実上の運転資金などとなっています。

 各種引当資産などで保有する有価証券残高は617億円で、2008年度運用収益は28億円、運用利回り4.3%でした。なお、昨秋以降の“100年に一度”といわれる世界的な金融危機に伴う急激な円高、株安で2009年3月31日現在の上場されている有価証券の評価損は、株式で6億円、債券(為替)で22億円の合計28億円となっています。しかし、これら有価証券は短期売買目的の運用ではなく長期保有目的で運用しているため、当該評価損は充分回復可能なものであり、実損につながる危険性はほとんどないと言えます。また、同評価損の有価証券残高に対する比率は、4.5%と比較的軽微なものに止まっています。

 なお、今回の2008年度決算から不動産証券化商品および複合金融商品について、「貸借対照表の注記7(1)有価証券の時価情報」の欄外に注記することとしました。いずれも非上場の有価証券であり「時価」と言えるものはありませんが参考までに記載したものです。

(2)不動産証券化商品について

 不動産証券化商品とは、不動産賃貸業務を行う特定目的会社(Special PurposeCompany 以下SPCという。)への優先出資証券であり、SPCが不動産賃貸から得た収益を本学が出資に伴う配当金として受け取るもので、当該商品への投資額は72億円です。非上場のため時価はありませんが、本物件に融資している銀行団(幹事行)による2008年12月1日現在の不動産鑑定評価額に基づく当該商品の評価額は195億円です。

(3)複合金融商品(仕組み債)について

 有価証券残高617億円には、複合金融商品(いわゆる仕組み債)が219億円含まれています。仕組み債といっても発行体とのオーダーメイド商品なので、条件は千差万別であり一概にリスクが高いとは言えません。本学の場合は一例で言えば「期限前償還条項付きパワーリバースデュアルカレンシー債(早期償還時元本=円で受取、利金=円で受取)」というものでほとんどが30年債であり、利払日に一定の為替水準であると円100%で早期繰上償還されます(2~3年間での早期償還を想定)。当該債券には為替リスクや金利リスクをヘッジするためのスワップ契約が内包されていますが、この契約は発行体と金融機関との間の契約であり、発行体である主要先進国の政府機関、国際機関などが債務不履行となる可能性は考えにくいため、本学に影響することはありません。

 当該複合金融商品を証券会社などの提示する「参考価格」で試算すると、その合計額は、138億円となりますが、この「参考価格」は、満期保有目的を前提とした場合の「合理的に算定された価額」とするには相応しくないと判断されるため、当該複合金融商品残高を「時価のない有価証券」に含めて表示しています。

 証券会社が提示する「参考価格」は、言わば今すぐ売却しなければならない場合の清算価格(投げ売り価格)を意味していますが、本学の資金状況は投げ売りしてまで資金化が必要な状態にはなく、当該金融商品が満期保有目的であること、毎年の利払日において一定の為替水準であれば、債券は円貨100%で早期繰上げ償還される条項が付与されていること、および発行体は主要先進国政府機関、国際機関などで信用リスクはほとんどないことから当該債券の元本毀損リスクは極めて低いと考えられます。

 今後とも、本学は教育研究環境の一層の整備・充実を図るべく、リスクマネジメントを徹底し、引き続きミドルリスク・ミドルリターンの慎重な資金運用を行っていく方針です。(財務部)