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キャンパスナウ

▼2013  盛夏号

My study, My career

早稲田で活躍する女性研究者を紹介します。

2032年の創立150周年に向けて本学のあるべき姿を考える「Waseda Vision 150」。そのVisionのひとつ「世界の平和と人類の幸福の実現に貢献する早稲田の研究」を推進するため、女性研究者の活躍を通じた新たな視点と思考の導入も期待されています。7回目となる今回は、ソジエ・内田恵美先生にお話を伺いました。

ソジエ・内田 恵美(すぎやま・ちづる) 政治経済学術院教授
略歴はこちらから

応用言語学の視点から
現代のさまざまな社会問題を研究

ソジエ・内田 恵美/政治経済学術院教授

自立してキャリアを築くため教員を目指す

 大学に進学するときに思い描いていたのは、英語の教員になることでした。教員なら女性が自立して男女の差なくキャリアを築くことができると考えたからです。また、日本人が中学生のときから英語を勉強しても話せるようにならないのは、日本の英語教育の方法に問題があるからではないかという意識を持っていました。そこで、教授法をさらに学び、応用言語学を追求したいという思いから、英国のエセックス大学に留学しました。最初は1年~2年程度のつもりでしたが、さまざまな国籍の学生が集まり、自由に議論を交わしているアカデミックな環境を去ることが名残惜しく、そのまま博士課程まで進学しました。

新たな出会いから研究テーマが広がる

(上)モーリシャスの北部海岸
(中)ゾウガメと遊ぶ息子さんたち。モーリシャスは自然の宝庫
(下)モーリシャスのサイバー・シティ。アフリカとアジアを結ぶITハブとして2001年に建設開始。

 私の研究者としての出発点は英語教育で、その研究は継続していますが、それ以外にも、応用言語学を軸に研究テーマは広がっています。その一つが、モーリシャス出身の夫との出会いをきっかけに関心を持った、モーリシャス共和国における言語政策です。モーリシャス共和国は、オランダ、フランス、英国による支配を経て、1968年に独立した後、奇跡的な経済成長を遂げ、今では豊かな多民族国家として発展しています。公用語は英語ですが、現地に行ってみると、実際はフランス語やクレオール語※1が一般に話されています。英語を母語とする人は人口の0.3%しかいません。しかし、小学校の授業は公用語である英語で行われています。家庭が裕福で英語教育のフォローがある子どもは、フランス語、クレオール語、英語が話せるトリリンガルになりますが、貧しい家庭の子どもは、知らないことを知らない言語で学ばなければならないので落ちこぼれてしまいます。小学校卒業試験は3割が不合格で、そこで教育が止まってしまい、職業選択の自由がない人々がいて、言語の問題が貧富の差につながっています。モーリシャスは大学まで教育が無料で、その教育制度が高く評価される一方、その影にはこのように満足な教育が受けられない人もいます。ところが、2011年には大きな展開を迎え、政府主導でクレオール語の綴りが制定され、昨年から小学校の選択授業に導入されました。科研費の支援を得て、この夏も、現地の教育機関、政府、NGOにて、調査を行います。

 もう一つの主な研究テーマは、政治ディスコース分析※2です。教授に昇進した年にオックスフォード大学で第二の修士号を取得し、新たな研究テーマとして、日本のリーダーの言説分析に取り組んでいます。民主主義の国家では、政治家のスピーチは国民を説得するための手段として重要なはずです。それなのに、なぜ日本では政治家の言葉といえば、曖昧で空っぽだと認識される傾向が強いのか、という疑問から始まりました。しかし、無党派層増大、選挙制度改革、TV政治の普及などを経て、政党と有権者の関係は変わりつつあり、政治言説が有権者に与える影響は増加していると考えられます。言語学的なアプローチを使って日本社会を分析するという新たな分野に挑戦しています。

結婚・育児を通して新たな境地へ

 大学の女性教員は増えているとはいえ、まだ少数派ですが、可能な限り声を出して積極的に提案をしてきました。子どもを産む前に教務担当の副主任を経験しましたが、政治経済学部の執行部では初めての女性だったそうです。そして大学運営についても少し学ぶ機会を得て、教員・職員がさまざまな場で工夫・努力をしていることを知りました。私は大学の外国語教育は単なる語学教育で終わらず、専門・教養科目の一部は外国語を通して学び、留学生と日本人学生が切磋琢磨する場となるべきだと訴えてきました。同時に入学選抜におけるTOEFL活用も主張してきました。現在では、同様の改革を望む多くの方々の声と共鳴し、英語のみによる学位プログラムEDESSAが成功していますし、AO入試・社会人入試などでのTOEFL活用も拡大しています。

 女性の場合、出産と育児でキャリアを中断しなければなりませんが、私は産休・育休取得のおかげで、その間に新しい研究分野を開拓することもできました。また、育児を経験して、学生の背後にご両親の姿が見えるようになり、教育者としても新たな境地を得たと思っています。

※1:植民地時代にフランス人農園主とアフリカ系奴隷の会話から発展した言葉。
※2:対話や記述などの言語分析による社会構造・観念の研究。

ソジエ・内田 恵美(ソジエ・うちだ・えみ)/政治経済学術院教授

1994年早稲田大学第一文学部英文学専修卒業、1996年英国エセックス大学応用言語学MA取得、2001年同Ph.D.取得。2002年早稲田大学政治経済学部専任講師。2010年より同教授。同年、オックスフォード大学現代日本研究MSc取得。St. Antony's Collegeにて客員研究員(2010年~2011年)。研究テーマは、英語教育、政治ディスコース分析、モーリシャス共和国における言語政策。