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キャンパスナウ

▼2013 早春号

My study, My career

早稲田で活躍する女性研究者を紹介します。

2032年の創立150周年に向けて本学のあるべき姿を考える「Waseda Vision 150」。
そのVisionのひとつ「世界の平和と人類の幸福の実現に貢献する早稲田の研究」を推進するため、女性研究者の活躍を通じた新たな視点と思考の導入も期待されています。5回目となる今回は、渡辺愛子先生にお話を伺いました。

渡辺 愛子(わたなべ・あいこ) 文学学術院教授
略歴はこちらから

研究と子育てを両立させ
新たな研究領域に踏み込みたい

渡辺 愛子/文学学術院教授

卒業前に呼び覚まされた学びへの衝動

 文学と聞くと情緒や審美的な面を想像される方が多いでしょう。私もその一人。もともと医者を目指していた私は皮肉にも英語で受験に失敗し、馴染みのなかった英文学科へ進学しました。大学卒業間近のこと、卒業論文のテーマを当時唯一イギリス関係で興味のあった「ビートルズ」にすると教授に申し出たところ、「大学院への進学を考えているなら、文学をテーマにした方が良い」と勧められました。そのときには就職先も決まっており進学など考えてもいませんでしたが、不本意ながらもテーマを変更。第二次世界大戦や旧ソ連に関する政治的なモチーフをなぞらえた寓話小説『動物農場』の著者であるジョージ・オーウェルを選びました。ところがそれがきっかけで文学作品に伏在する著者の意図を解き明かす面白さを知り、もっと学びたいとの欲求が沸き、教授の思惑通り研究の道へと踏み出したのです。

 大学院では「文学とは何か」「主体やテクスト、そして社会との関連」などを追究する文学理論に出会い、本格的に研究するため、日本より研究の進んでいたイギリスのウォリック大学に留学しました。そこで学際的なカルチュラル・スタディーズ(文化研究論)を学んだことで、研究領域はさらに拡散。最終的に落ち着いたのが、現代イギリス地域研究です。多角的な知識が必要な地域研究は、興味の幅が広い私の性格に合っていました。

知らないままで終わるのはもったいない

家族で参加したゼミ合宿

 私の担当するゼミにはUKロックなどイギリスの若者文化に関心があって入ってくる学生が多く、まずはそうした学生の興味の枠を広げることが必要だと考えています。私がそうであったように、知らないままで通り過ぎるのはもったいないですから。そこで特に3年生のゼミでは歴史、文学、芸術、建築、スポーツ、音楽などテーマ別に数名のグループを作り、イギリスや英連邦諸国のさまざまな側面を研究・発表してもらうのです。学生同士で採点した結果が成績につながるとあって、皆で必死に調べ、工夫していますね。研究・発表を通して多くの知識を身に付け、それまで知らなかったイギリス地域の魅力を知ることができるでしょう。またプレゼンスキルは、将来、社会で活躍する際にも力を発揮します。自分は周りからどのように見られているか、相手を納得させられる論理を展開するにはどうすれば良いかを考える力を身に付けてほしいと考えています。

「子ども1人、論文10本」

 現在は20世紀イギリスの文化外交史を中心に研究しています。文化と外交という2つの分野の隙間を埋める比較的新しい研究領域です。文化を利用したイメージ戦略は国と国の関係を円滑にし、経済はもちろん、平和のツールとしても重要な役割を果たします。特にイギリスでは1990年代半ばから“クール・ブリタニア”を謳い、文化の力を外交のツールとして積極的に活用してきましたが、その萌芽は実は両大戦間期にまでさかのぼれます。そこで2011年度にサバティカルでケンブリッジ大学へ在外研究に赴いた際も、ロンドンの公文書館に足しげく通ってイギリスの文化外交に関する膨大な一次史料にあたりました。また、ケンブリッジ大学ではバックグラウンドの異なる研究者たちとの親睦を通してイギリスの伝統的な社交文化に触れたことは貴重な体験です。

ケンブリッジ大学コレッジのパーティにて

 ただし、研究と子育ての二足のわらじ生活のため、思うように研究が進まないという苦労があります。ずいぶん前に子どものいる女性研究者が呟いた「子ども1人、論文10本」という一言。当時は独身だったためピンときませんでしたが、今就学前の2児の子育てに翻弄され満足に研究時間を確保できない日々の中で、この言葉の意味を痛感しています。とはいえ、この境遇を嘆いているわけではありません。まさに今が正念場ですが、子育てを通して身に付いた寛容さや広い視野は、これからの研究生活に良い影響を与えてくれると信じています。

※サバティカル:研究休暇制度。教員の研究活動を促進するため、数年に一度、約一年間にわたり在外研究などに時間を活用できる制度。

渡辺 愛子(わたなべ・あいこ)/文学学術院教授

1996年英国ウォリック大学大学院英文科修士課程修了。1997年同大学大学院イギリスおよび比較文化研究所修士課程修了。2002年東京大学大学院総合文化研究科博士課程満期退学。2004年本学文学部専任講師、2007年文学学術院准教授を経て、2012年より現職。