早稲田大学の教育・研究・文化を発信 WASEDA ONLINE

RSS

YOMIURI ONLINE

ホーム > キャンパスナウ > 新年号 My study, My career

キャンパスナウ

▼新年号

My study, My career

早稲田で活躍する女性研究者を紹介します。

2032年の創立150周年に向けて本学のあるべき姿を考える「Waseda Vision 150」。
そのVisionのひとつ「世界の平和と人類の幸福の実現に貢献する早稲田の研究」を推進するため、女性研究者の活躍を通じた新たな視点と思考の導入も期待されています。4回目となる今回は、畑惠子先生にお話を伺いました。

畑 惠子(はた・けいこ) 社会科学総合学術院教授
略歴はこちらから

すべてにおいて
多角的な視点を持つことが大切

畑 惠子/社会科学総合学術院教授

私の人生を変えた
一冊の本との出会い

 学生時代、人類学者のオスカー・ルイスの「貧困の文化―メキシコの〈五つの家族〉」という本を読み、ラテンアメリカに関心を持ちました。メキシコの貧困層の様子を淡々と綴(つづ)ったその本は、私に「貧困」への強烈な印象を与えました。しかし私の通っていた大学にはラテンアメリカを専門に研究している先生がいなかったため、大学院は他大に進みメキシコの農地改革や農民運動を研究しました。

 修士課程修了後、筑波大学のラテンアメリカ特別プロジェクトに準研究員として在籍し、メキシコの政治史(19世紀末から1930年代)について研究しました。政府の奨学金で1年間メキシコへ留学する機会もあり、有意義な日々を送りました。しかし私が日本に帰国するタイミングで特別プロジェクトは終了。そんな時に上智大学のイベロアメリカ研究所で助手を探しているとの話があり、お世話になることになりました。こうして、通常とは違う形でしたが、自然と研究者の道を歩みはじめたのです。

 当時、ラテンアメリカ研究は学問領域として確立途上にあったこと、そして1982年の債務危機などにより、この地域に対する日本での関心が高まっていたことがプラスに影響し、比較的研究者になりやすかったのかもしれません。法律学・経済学などすでに体系が整っている他の分野とは異なり、マイナー分野のためか女性研究者が多く、苦労といえるものはほとんどなかったと思います。

研究者としての姿勢を定めた
フィールドワーク

調査で訪れたメキシコの村の小学校で生徒たちと一緒に撮影(2012年8月)

 メキシコの魅力は、ちょっとつっぱったスタンスを持っているところです。地理的に隣国アメリカの影響を受けやすいにも関わらず、それをはねのけて農地改革を行ったり、独自の外交姿勢を貫いたりしてきました。また、メキシコの人々には貧困の中にあっても相手を思いやる心の豊かさがあります。地域研究は現地感覚が非常に重要ですので、極力年1回は現地に行くように心掛けてきました。最近もメキシコの先住民の生活調査に行き、現地の人の温かい心に触れました。取材した26歳の女性が「遠い日本から来てくれたのに、何のもてなしもできなかったから」と、後日私のためにトウモロコシで作った伝統料理を持ってきてくれたのです。しかも4kmの山道を徒歩で4人の子供たちを連れてです。すでにその地を離れていたため後に知人からその話を聞き、相手を思いやる心の温かさや誇り高さに感動しました。同時に、研究に対する自らの姿勢をしっかり定めようと誓いました。

教育・研究にも大学運営にも
多角的な視点を

 地域研究は学問領域を横断する多角的なアプローチや現地の視点を重視します。これまで私はメキシコの政治史を軸に、農地改革や農民運動、女性運動、市民社会組織、社会政策などを研究テーマにしてきましたが、そこに通底しているのは「貧困」です。農地改革は貧困を是正する政策の一つですし、貧困や不公正があるから農民運動が起こる。つまり学生時代に衝撃を受けた「貧困の文化」を原点に、さまざまなテーマを通してメキシコの貧困につながる背景を研究してきたことになります。

いつの間にかたまってしまったメキシコの伝統的な織物や民芸品。色使い、形の面白さが魅力

 遠い地域の事象でも、複合的な視点から自分たちの問題と関連付けながら考えることの大切さを学生たちに強調しています。ゼミでは、しばしば現地で私が感じたこと、現地発の情報やさまざまな意見・解釈を提示するだけでなく、なぜそのテーマに焦点を当てるのか、各自の問題意識も掘り下げていきます。学生たちにもその点は理解されていると実感しています。ゼミの研究発表の場では4年生が後輩に「現地の声も取り入れた方が良い」「日本ではどうなのだろうか」とアドバイスをしたりしていますし、「現状をみてみたい」と現地まで出かける学生もいます。こうした姿を見るとうれしく感じます。一方で、学生は私が詳しくないラテンアメリカの音楽やスポーツ、ビジネスなどに興味があったりするので、逆にその魅力を教えてもらうことで、自分の視野を広げさせてもらっています。

 このたび社会科学総合学術院長に選任され、教育と研究に加え大学運営の一端に携わるようになりました。そこで感じることは、多角的な視点は教育・研究だけでなく、全てにおいて重要だということです。例えば男性だけで議論した場合と女性の観点が入った場合では、結論が異なることがよくあります。特段、女性を意識する必要はないでしょうが、さまざまな決定に複数の視点が入ることは良いことだと思います。最近は育児をしながら教育・研究活動をされている女性研究者も増えていますが、それを当然のこととして応援し、若い研究者がもっと活躍できる環境を整えていければと考えています。それはまた、学生にもう一つの将来の選択肢を示すことにもつながるでしょう。

畑 惠子(はた・けいこ)/社会科学総合学術院教授

津田塾大学学芸学部卒業、上智大学大学院外国語学研究科修士課程修了。上智大学助手、中部大学助教授を経て、1993年早稲田大学社会科学部助教授、1995年より同教授。専門はメキシコを中心としたラテンアメリカ地域研究。主な共編著に「ラテンアメリカの国際関係」(新評論)、「ラテンアメリカ世界のことばと文化」(成文堂)、「ラテンアメリカ・オセアニア(世界政治叢書6)」(ミネルヴァ書房)ほか。