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キャンパスナウ

▼2016 錦秋号

第二世紀へのメッセージ

早稲田大学に関係のある方にお話を伺い、客観的な視点により、早稲田大学の魅力や課題を浮き彫りにします。

ケルヒャー ジャパン株式会社 代表取締役社長
佐藤 八郎さん
略歴はこちらから

在野の精神を育むことが、
早稲田大学の誇りになる

佐藤 八郎さん/ケルヒャー ジャパン株式会社 代表取締役社長

世界最大手の清掃機器メーカー、ケルヒャー社の日本法人の社長を務める佐藤さん。そのキャリアには、早稲田大学で身に付けた在野の精神が色濃く影響していると言います。学生時代の思い出や経営者としての心構え、早稲田大学に期待することなどをお聞きしました。

政治談議に熱くなった日々

――大学生活で最も印象に残っていることは何でしょうか。

 早稲田大学を志望したのは、早大生だった兄の奨めです。英語が好きだったので、将来は商社に入り、海外で働いてみたい、と商学部を選びました。入学してみると、学内は学生紛争のまっただ中で、カルチャーショックの連続でした。早稲田の学生は、学生運動をしている人もいれば、紳士淑女もいるし、バンカラもいる。多様な価値観が溶け合い、今でいうダイバーシティを体現した世界だったと思います。そんな中で出会う人たちに刺激を受け、政治家になることを志すようになった私は雄弁会に入りました。後に政界で活躍する錚々たる面々と対等に議論したという経験は、社会に出てから、誰に対しても物怖じしない度胸をつけたと思います。お互いの下宿を行き来し、議論が熱くなると取っ組み合いの喧嘩が始まり、お酒が入れば第二校歌の「人生劇場」や「学生小唄」を歌って、青春を謳歌しました。しかし、1969年10月21日の国際反戦デーを境に、自分の気持ちが一気に冷めてしまい、就職先は実力主義で人間関係もさほど煩わしくないイメージだった外資系企業で仕事に打ち込もうと決め、残りの学生生活は友人と穏やかに過ごしました。

 よく、学歴は関係ない、高卒でも能力があればよいと言われますが、大学の4年間は価値観を変え、人とのつながりを作る大切な時間だと思います。早稲田大学で育んだ在野の精神は、私のその後の人生に大きな影響を与えています。

――卒業後、どのようにキャリアを積んでこられましたか。

 最初の就職先では、先輩から“はっちゃん”とかわいがられながら、先輩に負けたくないという気持ちで営業成績を向上させるために無我夢中で頑張り、仕事の基本を身に付けました。営業成績もよかったですよ。3年後に貿易の仕事をしていた兄の仕事を手伝うために退社しましたが、その数年後に電動工具メーカーの日本ヒルティに転社し、米国駐在、日本人初の副社長を経て、1995年からケルヒャージャパンで働いています。このように話すと、キャリアアップのために外資系企業を渡り歩いているような印象を受けるかもしれませんが、私の場合は、“やむを得ず”。むしろ途中で辞めたことには罪悪感を感じています。幸いにして職を失うことなくここまで来ることができましたが、だからこそ、調子にのってはいけないといつも肝に銘じています。

リーダーに求められるのは「タフネス」と「エンパシー」のバランス

――経営者としてのポリシーについて教えてください。

 ケルヒャーはドイツの企業ですが、参考にすべきことが多くあります。実践しているのは、フラットな組織を作り、仕事のスピードを高めることです。大抵のものはネットで買える時代、世の中の商流は大きく変化しています。日本企業は商社を通したビジネスが多いですが、問屋も必要な場合とそうでない場合がある。意味なく過去の慣習を踏襲するのではなく、環境に合わせて変えるべきことは変えていかなければならないと考えています。

 私は「柳に雪折れなし」という言葉が好きです。柳の枝はしなやかで、根っこがしっかりしているので、どんな風が吹いても倒れません。環境に合わせて柔軟に自分を変えることは、自分をなくすことではありません。“ 井の中の蛙”にならず、世の中をよく知り、他者に尊敬を抱くことが自分の根っこを強くします。

 他者を理解することは、リーダーシップにも不可欠な要素です。社員に対する思いやりとバックグラウンドへの想像力を働かせ、同時に、力強く牽引していかなければなりません。先を見据え、その一方で足元をしっかり固めること。タフネス(厳しさ)とエンパシー(共感)のバランスが大切だと思っています。

遠近両用で世界を見よう

――学生や若者に伝えたい事は何でしょうか。

 私は、いつ自分が路頭に迷うかもしれないという危機感を常に持っています。東日本大震災を本社のある宮城で経験し、より一層その思いは高まりました。明日何があっても後悔しない生き方をして、人間関係を大切にしてほしいと思います。今自分がいる場所で、目の前のことに一生懸命に取り組んでください。その上で、将来をカラーではっきりと描くことも必要。遠近両用で世界を見るバランスが大切だと思います。

――早稲田大学に期待することをお聞かせください。

 少子化の中、大学が生き残っていくためには個性が必要です。在野の精神と反骨精神は、昔ながらの早稲田大学の個性でしょう。それらが生かされるような入試の方法やカリキュラムを充実させ、早稲田らしさを受け継いでいくことを期待しています。そうすれば、いつの時代の卒業生にとっても、いつまでも誇れる大学であり続けるのではないでしょうか。

愛犬との散歩は、かけがえのない時間

自社製品で洗車中

佐藤 八郎(さとう・はちろう)さん/ケルヒャー ジャパン株式会社 代表取締役社長

1971年早稲田大学商学部卒業後、住友スリーエム株式会社、兄が経営する貿易関係の仕事、日本ヒルティ株式会社副社長を経て、1995年にケルヒャー ジャパン株式会社に入社。同年10月に代表取締役に就任、現在に至る。