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キャンパスナウ

▼2015 錦秋号

第二世紀へのメッセージ

早稲田大学に関係のある方にお話を伺い、客観的な視点により、早稲田大学の魅力や課題を浮き彫りにします。

建築家
黒川 雅之さん
略歴はこちらから

日本の将来を真剣に考え、若者をその気にさせる教育を

黒川 雅之さん/建築家

建築家として、美しく機能的なものを生み出し続けてきた黒川さん。現在も創作ペースは衰えず、近年では中国でも脚光を浴び、国内外で後進の指導にもあたっています。学生時代の思い出や早稲田大学に期待することなどをお聞きしました。

2人のケンジを師として

――建築家を志したきっかけをお聞かせください。

 親が建築設計事務所をやっていたので、小さな頃から門前の小僧のように建築の世界に接していました。図画工作の成績が良く、中学時代は美術部で絵ばかり描いていましたから、適性があったのだと思います。

――早稲田大学大学院理工学研究科時代の思い出をお聞かせください。

 当時の早稲田大学は自由な空気があって、正統派ではなく、野生的。学生が高下駄を履いて粋がって歩いている、そんな雰囲気が好きでした。当時の建築工学専攻には、先鋭的で、社会の構造まで変えようと挑戦している吉阪隆正先生がいて、私を買ってくださったのですが、あえて年配の穏やかな今井兼次先生のゼミに入りました。というのも、個性が強い吉阪先生の下で後を継ぐよりも、自分自身の建築スタイルを確立したいと思っていたからです。

 建築工学専攻の大学院生は4人しかいなかったのですが、しばらくすると皆、現場に働きに出てしまって大学に来なくなりました。当時の学生は、会いたい人がいたらすぐに会いに行ったり、コンペの機会があれば仲間を誘って参加したりと、なにかと積極的でした。私も1年くらい経ってから、榮久庵憲司先生が主催していたGKインダストリアルデザイン研究所の研究生になり、大学院と2足の草鞋を履くようになりました。メタボリズムという建築運動の渦中で、私もプラスチック製のロッジなど、多くの作品を作りました。学生時代は、大きな夢は抱きつつも、自分の才能や将来がどうなるのか分からない不安もあったことを覚えています。

究極の美をつくるために生きている

自然曼荼羅を表現した住宅「夢蝶庵」

――建築家として、建築設計だけでなくプロダクトデザインでも、人々の印象に残るものづくりを続けていらっしゃいますが、一貫したテーマはありますか。

 よく、建築家でプロダクトデザイナーと紹介されますが、私の中ではプロダクトデザインも建築の一部です。レオナルド・ダ・ヴィンチは建築家でしたが、絵も描き、飛行機もデザインし、解剖学などあらゆることを手掛けていて、それらをすべて建築と考えていました。15~16世紀はそれが当たり前だったのですが、近代になって、効率のために役割が分かれ、建築家は建築しかやらなくなったのです。私は、29歳で事務所を起こしたとき、ダヴィンチになろう、デザインの役割を自分の中で統合しようと思い、現在に至っています。

 GKインダストリアルデザイン研究所では、産業を意識することを学び、これからの時代は都市化、産業化というテーマが建築を変えるだろうと予言していました。今や、駅そのものが都市になり、いわば縦の都市である超高層ビルが建ち、世の中は私の予言通りになっています。

 私のデザイン哲学と人生哲学はつながっています。人生の目的は何かと考えると、その答えは、美とは何かを探すため、すごい美に出会うため、究極の美をつくるためです。人を感動させる美とは何か、量産するための合理性や生産性はあるかなど、いろいろな考えを行き交わせながら、人を感動させる方法を探し、美しい形を作っています。

アジアのリーダーになろう

――日本のみならず、中国でも後進の指導にも尽力されていますが、学生や若者に伝えたいことは何でしょうか。

 現在、中国の天津大学、深圳大学、復旦大学、北京工業大学で客員教授をしているほか、ワークショップも開催しています。中国との縁が深くなったきっかけは、北京の中央芸術学院で「東アジアの美意識」という講演をしたことです。中国の人々が自分たちのアイデンティティを探していた時期で、この話が大いに受け入れられ、中国で本が出版されるようになりました。中国では、自分を日本人ではなくアジア人だと自己紹介しています。若者にも、アジアのリーダーとして、アジアの将来を考える意識を持ってほしいですね。そして、好奇心を持ち続け、チャレンジする気持ちを失ってほしくありません。

――早稲田大学に期待することをお聞かせください。

 大きな夢を持った学生が少ないように感じています。「自分はすごいデザイナーや建築家になれる」と信じている学生になかなか出会いません。信じれば夢は叶います。学生たちがその気になって、主体性を持ち、大きな夢を信じて行動できるように仕向けて行ってほしいと思います。

――読者にメッセージをお願いします。

 学生の親御さん、卒業生、心ある財界人の皆さん。日本の教育をもう一度見直し、本気で日本の将来を考えませんか。私は、自分の思想をFacebookで語っています。SNSは大勢の人が通りすぎる道で、そこで発信することは辻説法と似ています。死ぬ前に、知恵を若い人たちに託したいと思っていますので、興味がある方は、ぜひ覗いてみてください。

黒川 雅之(くろかわ・まさゆき)さん/建築家

1937年愛知生まれ。1961年名古屋工業大学建築学科を卒業。1967年早稲田大学大学院理工学研究科建築学専攻博士課程修了。同年黒川雅之建築設計事務所を設立。建築設計から工業化建築、プロダクトデザイン、インテリアデザインを総合的に手掛けてきた。毎日デザイン賞、グッドデザイン金賞など受賞多数。「反対称の物学」「八つの日本の美意識」など著書も多い。現在、中国の4つの大学で客員教授を務めている。