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キャンパスナウ

▼2015 盛夏号

第二世紀へのメッセージ

早稲田大学に関係のある方にお話を伺い、客観的な視点により、早稲田大学の魅力や課題を浮き彫りにします。

弁護士
国際連合 女性差別撤廃委員会委員長
林 陽子さん
略歴はこちらから

世界中どこでも必要とされる力を身に付けられる大学に

林 陽子さん/弁護士・国際連合 女性差別撤廃委員会委員長

長年にわたって弁護士として女性の権利問題に取り組み、今年、日本人の女性としては初めて国際連合人権条約機関の委員長に就任された林さん。学生時代の思い出や早稲田大学に期待することなどをお聞きしました。

女性問題への関心から弁護士を志す

――弁護士を志したきっかけを教えてください。

 私が高校生の時、日産自動車で、女性の定年が男性よりも5年早い男女別定年制の適法性が争われた裁判が大きく報道されました。女性の仮処分の申し立てが却下されたのですが、そのときの裁判官の理由が、「女性の55歳の生理的年齢は男性の70歳に相当する」というものだったのです。そのことに大きな疑問を感じ、法律を始めとする社会科学に関心を持つようになりました。私が入学した当時の早稲田大学の法学部は司法試験対策に力をいれていて、周りに試験勉強をしている人が多い中で、私も自然と弁護士を目指すようになりました。良い刺激を受けながら、勉強の方法論を先輩や友人から学ぶことができたので、司法試験を受けるには非常に良い環境だったと思います。

――どのような学生時代を過ごされましたか。

早稲田ウィークリーに「あーもんず」が紹介された記事。反響があって、男子学生からも応援してもらいました。写真後列・中央が林氏

 1年生のときに、他学部の女子たちとフェミニズムの古典を読む「あーもんず」という読書会のサークルを立ち上げ、合宿をしながら、ベーベルの「婦人論」やボーヴォワールの「第二の性」などを読んでいました。「第二の性」の日本語版は、「人は女に生まれない、女になるのだ」という名言から始まるとされていますが、実は原書ではこの言葉は冒頭にありません。フランス語が堪能なメンバーがいたので、日本語訳の順番が違うこと、一部の訳が違うことについて出版社に申し入れ書を送ったことがありました。「あーもんず」は「早稲田ウィークリー」に取材されたこともありました。

――弁護士としてだけでなく、市民運動の現場でも活躍されてきましたが、どのようなことが印象に残っていますか。

 学生時代から、市川房枝さんが世話人を務めていた「行動する女たちの会」という市民グループに出入りしていました。拠点は中島通子弁護士の事務所に置かれていたのですが、自分の持つ知恵や施設などのリソースをそうした活動に提供できる弁護士の仕事は素晴らしいと思ったことが、法曹を目指した理由の一つです。思い出に残る出来事としては、日本政府に男女雇用機会均等法を作らせようということで、12月24日に、クリスマスイブとウーマンリブをかけて「イブリブリレー」と称したイベントを実施したことです。「男女平等法」の要請書を入れたバトンを持って、日比谷公園をリレーで一周し、現在の厚生労働省に届けました。私も走ったのですが、その姿がNHKで放映されました。颯爽と走っていたつもりが、日頃の運動不足がたたり、テレビを見た人たちからは「辛そうだったね」と口々に言われました。

女性差別の課題は未だに山積み

――長年、女性の地位向上に向けて活動されてきましたが、日本の女性の社会参画についてどうお感じになっていますか。問題点は何でしょうか。

 いわゆる男女平等先進国と言われている北欧やEUの国々では、クオータ制(役職の一定割合を女性に割り当てる制度)などの採用により、女性の政治家が増え、積極的に女性の地位向上のために活動しています。日本の女性の政治・経済活動や意思決定への参画の度合いを示すジェンダー・ギャップ指数は、142カ国中104位と先進国では最低レベル。もっと他国の政策を研究し、検討する余地はあると思いますので、世界で見聞きしたことを日本に伝えていくことが私の役割だと思っています。

――今年、国連の女性差別撤廃委員会の委員長に就任されましたが、さまざまな国籍の23人の委員をまとめていく上で心掛けていらっしゃることは何ですか。

 条約上、委員は政府から独立した個人資格として参加していますが、委員は出身国で要職についている人も多く、完全に自国から自由というわけでもありません。そのため、それぞれの立場を考えつつ意見をまとめています。また、ある国の問題点を指摘する場合にも、まずその国の良いところに敬意を払った上で発言するなど、相手の立場を配慮することを心掛けています。

日本人が知らないグローバリゼーションの本当の厳しさ

――2004~2009年、本学の法務研究科(ロースクール)で教鞭をとられていましたが、どのような思いで指導をされていましたか。

 全国一斉にロースクールが立ち上がった年で、幅広い教養を持った法曹を育成するという理想に、教員も学生も燃えていました。創設時の教員として関わらせていただいたことを光栄に思っています。早稲田大学のロースクールは学生の自主活動が盛んで、公認団体の「ジェンダー法研究会」では多くの議論をしました。ロースクールの修了生は今、弁護士となって活躍していますので、今では随分仕事を助けてもらっています。

――早稲田大学に期待することをお聞かせください。

 グローバリゼーションとは、能力がある人は世界中どこにいても高い収入が得られる代わりに、努力をしない人は、アメリカや日本のような先進国に住んでいてもチャンスが巡ってこないということだと思います。日本はいろいろな意味で規制に守られている国なので、日本人はまだグローバリゼーションの本当の厳しさを知らないのではないでしょうか。今後ますます大学間の国際競争は厳しくなります。早稲田大学に行けば有益なことが学べるという評判を高め、まず英語圏の人々にもっと認知してもらい、世界有数の大学になってほしいと願っています。

林 陽子(はやし・ようこ)さん/弁護士・国際連合 女性差別撤廃委員会委員長

1979年早稲田大学法学部卒業。1983年に弁護士登録。職場の中での女性差別、婚外子差別訴訟など女性の権利に関連する訴訟代理人を務めるかたわら、外国人女性のシェルターや性暴力被害者のためのホットラインのアドバイザーとして活動。公益社団法人自由人権協会(JCLU)事務局長、女性法律家協会副会長、内閣府男女共同参画会議「女性に対する暴力専門調査会」委員などの要職のほか、2004年〜2009年、早稲田大学大学院法務研究科客員教授を務める。2008年より国際連合女性差別撤廃委員会委員、2015年2月より同委員会委員長に就任。