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キャンパスナウ

▼2015 早春号

第二世紀へのメッセージ

早稲田大学に関係のある方にお話を伺い、客観的な視点により、早稲田大学の魅力や課題を浮き彫りにします。

児童文学作家
角野 栄子さん
略歴はこちらから

豊かなイマジネーションを生かして
グローバルな活躍を

角野 栄子さん/児童文学作家

40年以上、児童文学作家として子どもたちに夢を与え続けてきた角野さん。数々の名作のなかでも、「魔女の宅急便」シリーズは24年間に全6作が出版され、1989年に製作された宮崎駿監督のアニメ映画も大ヒットしました。泉のように溢れ出るアイデアを紡ぎ、作品を生み出す角野さんに、学生時代の思い出や、作家になったきっかけなどを語っていただきました。

大らかで自由な校風が今の自分をつくった

――どのような学生時代を過ごされましたか?

 当時は戦争が終わって数年経ち、それまで封印されていた音楽や映画、文学などの外国文化が一気に流れ込んできた時代。そうしたなかで、私自身も「英語を勉強したい」「外国のことをもっと知りたい」と思うようになり、早稲田大学の教育学部英語英文学科に入学しました。『ティファニーで朝食を』の翻訳などで有名な龍口直太郎先生のゼミに入り、研究室でコーヒーを飲みながら勉強や社会問題について話し合ったり、ご自宅に伺ったりと、先生とも親しく交流させていただきました。その一方、授業には出ずに喫茶店で映画や文学について友人たちと語り合うことも多く、試験の点数はすれすれ。あまり良い生徒ではなかったかもしれません(笑)。

 私は「人を押しのけてでも上に行きたい」と思うタイプではありませんでしたが、そういう学生も受け入れてくれる大らかな早稲田の校風が肌に合い、充実した学生生活を送ることができました。当時の大学には、先生方に対しても率直に自分の考えを述べることができる雰囲気があり、そのおかげで物怖じせず人と付き合ったり、目上・目下という関係にかかわらず人に平等に接したりできるようになりました。

恩師の一言が作家になるきっかけに

――25歳でブラジルに渡り、帰国後は児童文学作家としてデビューされます。その経緯をお聞かせください。

「マイ・シューヴァルから始まって、北欧ミステリーにはまっています」。写真はマイ・シューヴァル/ペール・ヴァールー著の『笑う警官』(角川文庫)

 学生時代、作家になりたいと思ったことはありませんでした。卒業後は出版関連の仕事に就き、1年ほどで結婚。その後、どこか海外に行きたいという思いをかなえるために、移民としてブラジルで2年間過ごし、そこで貯めた資金をもとにヨーロッパ、米国、カナダを周遊しました。帰国した1961年は東京オリンピックを控え、国内に国際化の気運が高まっていたころです。すでに大学を卒業して何年も経っていたある日、龍口先生から「このタイミングでブラジルに行ってきたのなら、その話を本にしてみないか?」と声を掛けていただきました。それが児童文学作家になるきっかけとなり、ブラジルの子どもを主人公にしたノンフィクション『ルイジンニョ少年、ブラジルを訪ねて』でデビューしました。

 実は大学3年生のころ、「児童文学の翻訳がしてみたい」と龍口先生に相談したことがあります。そのときに「君は翻訳ではなく物を書くほうが向いている」と言われたのですが、私は「英語ができないから、翻訳はやめなさいということなんだ」と誤解し、落胆したのを覚えています。今思うと、先生は私自身も気付かなかったことを見抜いてくださっていたのかもしれません。

――児童文学作家としてご活躍されてきたなかで、一番うれしかったことは何でしょうか?

 一生続けても飽きない仕事を見つけたことです。1作目も2作目も、少し書いてはまた書き直すということの繰り返しでした。でも何度書き直しても、それが全く苦にならないのです。そのときに「私は書くことが本当に好きなのだ」ということに気付きました。また、それまで漠然と持っていた自分の将来に関する不安も消え、「書き続けていれば、この先の人生もしっかり歩いていける」という確信を持てるようになりました。これからも、この大好きな書くこと、物語をつくることを続けていくつもりです。

冒険心を持って外の世界へ踏み出してほしい

――社会で求められるグローバル人材とはどのようなものでしょうか。また、今の学生に期待することもお聞かせください。

 グローバルな活躍ができる人というのは、豊かな想像力を持っている人だと思います。私は全く言葉がわからないままブラジルに移住しましたが、4つほど言葉を覚えたら、それらを使ってどれだけその人に気持ちを伝えられるかを考え、想像力を駆使して会話をしていました。「この言葉とあの言葉をどうやって組み合わせよう」「どういう口調、表情にしよう」ということを、一瞬のうちに考えて相手に伝えれば、コミュニケーションは成り立ちます。想像=イマジネーションの力というのは人間が持っている力の中で最も大切なものです。この力がコミュニケーションだけでなく、もうひとつの“そうぞう”であるクリエーション(創造)にもつながり、ひいてはグローバルな力になっていくのではないでしょうか。

 また、今の学生さんには内向き志向の人が多い気がします。ぜひ冒険心を持ってほしいですね。私たちの時代には、誰もやっていないことや新しいことをやってみようという人が多くいて、大いに刺激を受けました。この平和な世の中ではそうした志を持つことは難しいかもしれませんが、何か新しいわくわくすることに取り組んでほしいと思っています。

角野 栄子(かどの・えいこ)さん/児童文学作家

1935年東京生まれ。1957年早稲田大学教育学部英語英文学科卒業後、出版社勤務。1960年からブラジルに2年滞在し、1970年に作家デビュー。1989年に第1作が刊行された『魔女の宅急便』(全6作、福音館書店)は、アニメ化、ミュージカル化、実写映画化された。同作で野間児童文芸賞など多数受賞。主な作品に『ネッシーのおむこさん』(金の星社)、『アッチ・コッチ・ソッチの小さなおばけ』シリーズ(ポプラ社)、『おおどろぼうブラブラ氏』(講談社)などがある。2000年紫綬褒章、2014年旭日小綬章を受章。