早稲田大学の教育・研究・文化を発信 WASEDA ONLINE

RSS

YOMIURI ONLINE

ホーム > キャンパスナウ > 2014 早春号  第二世紀へのメッセージ

キャンパスナウ

▼2014 早春号

第二世紀へのメッセージ

早稲田大学に関係のある方にお話を伺い、客観的な視点により、早稲田大学の魅力や課題を浮き彫りにします。

株式会社東京証券取引所 常務取締役
静 正樹さん
略歴はこちらから

こだわりを持って努力し続ける人。
それがグローバルで活躍できる人材

静 正樹さん/株式会社東京証券取引所 常務取締役

東京証券取引所で経済情報の最前線に立ち、日本経済の変動を目の当たりにしてきた静さん。
上場制度やディスクロージャー制度の改革、あるいは新興市場の立ち上げなどに従事されてきました。
歴史の動く姿を現場で見たいとの思いを強くしたきっかけや、大学での思い出、これからの早稲田大学に対する期待を伺いました。

「歴史に参加する」ための勉強に勤しんだ学生時代

――どのような学生時代を過ごされましたか。

 私は中学から大学までの10年間、早稲田に通っていました。いまでも覚えているのは高校2年時の世界史の先生が話してくださった「歴史を学ぶのは、覚えたり真似するためではなく、いずれ君たちが歴史に参加するためだ」という言葉です。その後の学生生活や授業の聞き方、社会人としての生き方などに大きく影響しています。歴史の動く姿を現場で見たいとの思いから、当時はジャーナリストを志していました。

 しかし大学は法学部に進学。多くの同級生が法曹を目指して司法試験の勉強をしている中で、志望が異なる私は寂しさを覚えることも多く、仲間集めに精を出していました。試験前の勉強会や、当時あった法学部祭での模擬裁判など、自らさまざまな機会を設けては仲間を集めました。また、いろいろな人の意見を聞くことは社会勉強になると考えていたので、学者の思考を知ろうとさまざまな授業に出席しました。いま思えば「歴史に参加する」ための勉強という意識が高かったのかもしれません。ありがちな学生生活かもしれませんが、私にとって早稲田での10年間はとても有意義な日々でした。

情報の最前線で日本経済の変動に接する日々

――これまでの経験で、歴史の変化に触れることができたと感じた出来事はありますか。

 東京証券取引所(以下、東証)に入所したのは、とても真面目な人事担当者に出会い、この会社なら真剣に議論できると感じたからです。やはり仕事に興味をもって一生やり続けるためには、真面目に取り組むことができる、あるいは誰かのために働くといった明確な理念を持っていることが重要だと思います。入所後は1996年から約20年にわたり上場関係の仕事に携わり、さまざまな歴史の動きを最前線で見ることができました。ちょうど不良債権問題が山場を迎え、国の経済も疲弊していた時期です。北海道拓殖銀行、日本長期信用銀行、山一証券など、それまで一流とされていた企業が次々と倒れていく姿を目の当たりにし、さまざまな感情を抱きました。とりわけ上場企業と投資家の情報ギャップに対しては苦心しました。

 当時は投資家や一般に向けた会社情報の適時開示は企業判断に委ねられていた時代です。一方で上場企業から取引所への情報の伝達はルール化されており、私の元には企業からさまざまな情報が入って来るのに、社会には公表されていない。そうした情報ギャップの矛盾が繰り返される状況に危機感を覚えていました。改革の意志を決定づけたのは1998年の長銀破綻時です。国会で金融再生法が審議され、長銀が適用第1号となってその株券がただの紙切れになるのも時間の問題という段階に来ているにも関わらず、市場ではそれが高値で取引されているという事態が生じました。毎日、長銀の担当者に会って情報開示すべきだと説得するのですがなかなか難しい。そこで「このままではダメだ。上場制度を改正し、ディスクロージャー制度を確立させなければ」と、改革に踏み出しました。適時開示の義務化が決定したのは翌1999年。1949年の設立から半世紀続いた東証の歴史の、ひとつの転換点に参加することができたとうれしく思っています。「これぞ俺のやりたかった仕事だ」とひしひしと感じることができました。今はこれに変わって社外取締役の普及がライフワークのようになっています。

――半世紀にわたる歴史を変える改革を行うには強い意志が必要だと思いますが、どういった思いで挑戦されたのでしょうか。

 企業側にしてみれば、情報公開は内容や時期など難しい面もあるかもしれません。しかし最前線でさまざまな情報ギャップを目にし、制度がないから情報開示を進めることができないという矛盾を感じていましたので、必要な情報を投資家に提供することは上場企業の義務として制度化しなければならないとの信念がありました。東証は、東証上場会社からの公式発表が最も正しい情報だという投資家の皆様の信用に支えられています。その投資家に満足していただくためには何が何でもディスクロージャー制度を整えて市場を適切に運営する、あるいは投資家が満足する市場を実現しなければならないとの使命感があったのかもしれません。経済団体にそのことを繰り返し訴えました。

 2000年の新興市場・東証マザーズの上場制度の設立などに現場の立場から携わり、内容の公正性を図るために、第三者による四半期の簡易監査基準の仕組みをつくったときも、正しい情報を伝えなければ新しい市場は育たないという思いがありました。会社に新しい人が入らなければ組織が活性化しないのと同様、株式市場も新興企業が参入しなければ活性化しません。日本経済を盛り上げるためにも、また新規産業を育成するという意味でもとても重要な意味を持っていたと思います。史上最年少の25歳で上場を果たした株式会社リブセンスの村上太一さん(2009年政経卒)のように、身近に感じる矛盾を解消するために会社を立ち上げた若手経営者など、もっと夢のある企業がどんどん活躍できるような制度が必要だと考えています。

当事者意識を持ち情熱的に挑戦し続ける人材の育成を!

――日本の歴史の変化を意識してきた立場から、人々の先頭に立ち、これからの歴史をつくるグローバル人材の育成に努めている早稲田大学、そして学生にメッセージをお願いします。

 株式市場は6割を海外投資家が占めるほどグローバル化が進んでおり、海外企業のトップと議論することもあります。そこで感じるのは、世界のことを知っている、あるいは海外で働いている人=グローバル人材ではないということです。世界の人と渡り合うためには、情熱を持ってひとつの専門分野をとことん追究し続ける意志が一番大切です。どうしても捨て置けないと思うことを発見して、こだわり続けてください。どんな分野であれ、ひとつのことをとことん追究したことのある人は、言葉や知識・分野の枠を超えて世界中の多様な人々と渡り合えます。早稲田大学には、ぜひ学生が情熱を持ち続けられるものを見つけられるよう、現実の問題発見・解決に取り組む教育に力を入れてほしいと思います。

 また、いまの学生さんはスマートになりすぎて、目の前を通り過ぎるさまざまなことを見落としている印象を受けます。海外の人と比べても自国の歴史や文化へのこだわりも薄いですよね。しかし足元のことを学ぶことはとても大切です。その上で海外の文化や歴史、言語を理解し、うまくコミュニケーションすることができれば、素晴らしいグローバル人材と言えるのではないでしょうか。私も学生時代からこれまでの人生の中で「これだ」と思ったことを諦めずにやり続けてきました。学生時代は最も自由に情熱を傾けられる時間があります。自ら道を見つけて突き進む早稲田の学生らしく、ぜひ挑戦してほしいと思います。

静 正樹(しずか・まさき)さん/株式会社東京証券取引所 常務取締役

1959年生まれ。早稲田中学・高等学校出身、1982年早稲田大学法学部卒業、東京証券取引所入所。1996年から2004年まで上場部の管理職として、外国会社向けマザーズの開設、社外取締役導入をはじめとする上場制度やディスクロージャー制度の改革に従事。その後、財務部長、経営企画部長を歴任。2007年執行役員、2011年常務執行役員。2013年6月より現職。法務省法制審議会会社法制部会委員、日本証券アナリスト協会理事なども務める。