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キャンパスナウ

▼新年号

第二世紀へのメッセージ

早稲田大学に関係のある方にお話を伺い、客観的な視点により、早稲田大学の魅力や課題を浮き彫りにします。

経済同友会代表幹事
武田薬品工業株式会社 代表取締役社長
長谷川 閑史さん
略歴はこちらから

国際的な発展に貢献する
真のグローバル人材の育成に期待

長谷川 閑史さん/経済同友会代表幹事 武田薬品工業株式会社 代表取締役社長

日本を代表する製薬会社のトップであり、経済三団体の一つ「経済同友会」の代表幹事としても経済界をリードする長谷川さん。
ご自身の学生時代や「Waseda Vision 150」にも掲げられている「グローバル人材」についてお聞きしました。

自身の気質に合致した「進取の精神」

――早稲田大学政治経済学部を選ばれた理由をお聞かせください。

 私は山口県の生まれ、すなわち明治という近代国家形成の一角を成した長州藩の出身です。今、振り返ると、私の気質は、建学の理念である「進取の精神」に通じ、また、体制や権力に迎合しない性格は、「在野の精神」「反骨の精神」に合致していたのでしょう。早稲田大学の前身である「東京専門学校」は、政治学と経済学の融合を目指した学び舎として創設された経緯もありますので、政治経済学部を選んだのは自然な流れだったと思います。とはいえ、実は、数学が受験科目にない大学・学部で一番レベルの高いところを選んだ、という面もあります。

――どのような学生時代を過ごされましたか。

 私が入学した当時は、学園紛争の最中で、授業が無い日が続いていました。親からの仕送りもそれほど多くなかったため、当時一緒に下宿していた姉に勧められてアルバイトを始めたのですが、気がついたら、そちらが本業のようになっていました。アルバイトは家庭教師もやりましたが肉体労働がほとんどでした。しかし振り返えると、さまざまな職種を経験したことは決して無駄ではなかったと思います。大学では一番食事代が安くあがる学食にはよく行きましたが、勉強をした記憶はほとんどなく、アルバイトをしては大好きな山登りをしていました。

 現在でもそうですが、あの当時から本を読むことは好きでした。学生時代にたくさんの本を読んだことが、論理的思考力を鍛えるのに役立ったと思います。

徹底した論理的思考を得た米国時代

――武田薬品工業に入社後、ヨーロッパ、米国と、13年にわたる海外勤務の中で、得られたものは何ですか。

 米国で生活した10年間でさらに論理的思考力を高めることができました。米国人は徹底した論理的思考を持っていますので、社長の私が何か頼むと、必ず「Why?」と返ってきます。こちらは「Because, 1, 2,and 3」とディベートの鉄則に則って説明しなければなりません。サポーティングエビデンスというロジックを使わなければ、きちんと納得してもらえないのです。ロジカルに説明できないと組織も人も動かない。こうした日常の訓練が自分の論理的思考を磨くことに役立ちました。

 ヨーロッパ、米国での生活を通じて、それぞれの文化の違いを実感できました。ヨーロッパには異文化交流の歴史がありますので、違う民族、言語、宗教に対して理解があります。日本人はいろいろな面でヨーロッパの方がなじみやすいと感じています。一方、米国は一見、平等であり、明るい印象を受けますが、実は公民権運動の歴史があるように、依然として偏見や差別はあります。しかしながら、それを是正しようと努力もしています。また米国は、チャレンジの機会を何度でも与えてくれる国、英語では“One door closed, the other opens."という表現が当てはまる国です。

「Waseda Vision 150」への期待

――「Waseda Vision 150」では、グローバルに活躍する人材の育成を重視しています。長谷川さんが考えるグローバル人材とは、どのような人材でしょうか。

 国内市場が縮小していく中、企業が持続的な成長を実現していくためには、成長市場でビジネスチャンスを獲得していかなければならないのは明らかです。海外でビジネスを展開していく上で、グローバルマインドを持って外国人と対等に交渉ができ、自社の国際的な発展に貢献できる人材が求められています。英語力はもちろんのこと、異なった文化や背景、多様な考え方を持った人々と議論を交わし、そこから創造性を発揮できることも重要な要素だと考えます。また、日本のことについて語れる一般教養も必要です。

 日本は、1,000年以上移民を受け入れてこなかったため「以心伝心」という言葉に代表されるように暗黙知が多い。そんな日本が海外と渡り合うには、議論や説明をロジカルに行う過程を経て意思決定につなげる必要があります。

 学生の皆さんには、論理的思考に基づいたディベートによって相手を説得できる力を養っていただきたいですね。そして、グローバルに事業を展開する企業に就職したいのであれば、日本人学生や日本に来ている留学生だけではなく、海外の学生とも競争しているという現実を直視してほしいと思います。

 当社は、早稲田大学で英語による寄附講座を開設しています。プレゼンテーションも、その後の学生とのQ&Aセッションもすべて英語で行っています。企業側としても、学生の皆さんの前に積極的に出て行って、企業への理解と我々がいかなる人材を求めているのか理解してもらうための努力をしています。

――大学の人材育成に対して、どのようにお考えですか。

 卒業生の8~9割が企業に就職するのであれば、各企業が望む人材の育成に努めなければならないのは当然です。企業がどのような人材を求めているのか真剣にマーケットリサーチをするべきでしょう。

 大学と企業のトップ同士が率直に話す機会はありますが、双方の現場レベルで具体的なイメージを持ち、また理解するには時間がかかります。大学の就職担当者と企業の採用担当者が直接会い、企業が求める人材の育成について忌憚なく話し合う機会を持つことが必要だと思います。そうすれば、企業が求める人材と大学が育てる人材のミスマッチを改善する一助になるはずです。

――これからの早稲田大学に期待することをお聞かせください。

昨年6月に本学で行われた「東日本大震災復興支援プロジェクト」の一環として講演し学生の質問に答える長谷川氏

 「Waseda Vision 150」では、学部の学生を現在より2割減らして3万5千人とし、少人数クラスによる対話型や問題解決型の授業を増やし、全学生に留学や国際ボランティアを体験させるといったプランが挙げられています。これらの施策を、私は非常に高く評価しています。今後も留学生と一緒に英語を学ぶ機会をさらに増やし、留学生受け入れ人数No.1を維持し、グローバルリーダーの育成にさらに注力して、世界を牽引する人材を各分野に輩出していただきたいと大いに期待しています。

長谷川 閑史(はせがわ・やすちか)さん/経済同友会代表幹事 武田薬品工業株式会社 代表取締役社長

1946年生まれ。1970年本学政治経済学部卒業後、武田薬品工業入社。
1993年米アボット・ラボラトリーズとの合弁会社であるTAPファーマシューティカルズ社長、1995年TAPホールディングス社長。2003年6月武田薬品工業代表取締役社長に就任。2010年からは研究開発志向型の製薬企業の業界団体である、日本製薬工業協会の会長を務める(~2011年5月)。2011年より経済同友会代表幹事。