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第二世紀へのメッセージ

小松 親次郎さん 略歴はこちらから

新しい社会の在り方について早稲田大学からの提唱を期待。

小松 親次郎さん/文部科学省 高等教育局私学部長

 文部科学省で教育・研究行政全般に関わってこられ、現在は私学部長を務めている小松さん。文部科学省を志した理由のほか、現在のお立場から、私立大学の課題や早稲田大学に期待することをお聞きしました。

政治経済の視点から世の中の仕組みを学ばせてもらった4年間

――どのような学生時代を過ごされましたか。

 通常の学業とサークルやアルバイト、旅行などで過ごす当時の平凡、典型的な学生だったと思います。専攻は国際政治学で、吉村健蔵先生のゼミに入り、米国を中心に各国の政策を勉強しました。テニスサークルでは楽しい思い出を作りましたし、家庭教師のアルバイトでは、子どもの成長に深く心を動かされたことを覚えています。

 早稲田大学は、本当に多様な人間の集まりで、一筋縄ではいかないような友人もいましたね。エネルギーが次々沸いてくる場だなあと、いつも目を見張る思いでした。印象に残っているのは、入学式のときに祝辞に立った名誉教授の先生が、「測り縄はわがために良き地に落ちたり」という聖書の言葉を引用され、早稲田大学に来たことは、結局何か大きな力によるのであって、君たちにとって最善の結果であると話されたことです。「測り縄」というのは、古代に所有地を決めるために思い切り投げてみてその落ちたところを自分に選ばれた地面とするものなのだそうです。お話の時はぴんと来ませんでしたが、振り返ってみて、その言葉は本当だったと納得される学生生活でした。

――文部省を志したのは、なぜでしょうか。

 その理由を大学生活との関係で説明するためには、大学の進路選択の話から始めなければなりません。高校時代は文学など人文の方面に関心が強く、そういう仲間と「人間とは?」などといろいろ議論するのが好きでした。しかし、このまま話が合う仲間とばかりつき合っていては、視野が偏って世の中の本質が見えなくなってしまうかもしれないと自分に危機感を覚え、大学では、社会科学、政治や経済の面から物事の仕組みを学んでみたいと考えました。

 ところが、各国の政策決定過程などを勉強するにつれ、多くの人間の多彩で流動的な感情や遠い過去からの世代毎の記憶などの大きな影響力をかえって痛感するようになり、改めて、理屈では説明できない人間の心、精神などと制度や政策、法規、社会慣習などとの相関関係に問題意識が戻ってきたのです。そこで卒業後は、「職業」として、一面、恐ろしくもありましたが、政治や、経済、法律といった社会科学と、人間の喜怒哀楽や成長欲求など、魂そのものを扱う人文学が交差する場所で働きたいと考え、行き着いたのが文教行政、文部省の仕事でした。

建学の精神を軸に大学の魅力向上を

――日本の大学は、国公私立を問わず、厳しい国際競争にさらされていますが、この競争に勝ち残るために必要なことは何だと思われますか。

 大学は本来、国際的な存在です。その原点に返って、世界の中でどのような位置づけを目指すのかを考えることが大切だと思います。世界における存在感を増すために必要なことは、国際交流や語学教育の充実や先端研究の推進だけではなく、学生が旅行先の情報をインターネットで調べたり、原書により親しんだりするような身近なことまで、国際化を進める方法は幅広くあります。また、日本の大学は良くも悪くも自由で、漫然と過ごしても「主体的に過ごした」という言い訳ができてしまったり、何も学んでいなくても出席率が高ければ「勤勉」という評価が通用してしまう部分がある。大学としては、学生が自然と実のある勉強をするように仕掛けていって、その取り組みと成果を世界に積極的に情報発信し、安定した信頼感を獲得することが必要だと思います。

 早稲田大学に関して言えば、継続的に努力していて成果も随分挙がりつつあるように思われますが、さらに密度の濃い学びの場を提供して、大学教育の在り方をリードしていけるポテンシャルも十分あるのではないでしょうか。

――一方、国内の私立大学の現状は、学生にとっては就職難や重い経済負担、大学にとっては学力格差への対応や定員割れなどさまざまな課題が山積みです。私立大学に求められることは何でしょうか。

 私学は、「建学の精神」を軸に各々特色を出し、それを社会変化に合わせながら魅力を増していく、という工夫に尽きるのではないでしょうか。早稲田大学の場合、注目したいのは、校歌の1番の「現世を忘れぬ 久遠の理想」です。特に、「久遠の理想」を本気で追う志操を支えるのは、「現世を忘れぬ」地道な努力だという点でしょうか。同じことを、社会政策の権威だった平田富太郎先生が、ご自分のモットーとして「目は高く、手は堅く」と学内広報誌に書かれていたのを思い出します。大きな理想を決して失わない一方、それが実学、実務を軽んじた大言壮語に堕さないという、そのバランスは非常に難しいことですが、その精神を鍛え続ける大学の姿が世に示されればと思います。

 もう一つ言えることは、もはや教育対象は、18歳や日本人だけではないということです。社会に出た人にも学習機会を提供し、世界中からも学生を集めていくことが求められています。

広い視野に立ち、専門性に裏打ちされた意見を発信すべき

――早稲田大学に期待することをお聞かせください。

 東日本大震災を経て、社会の在り方が変わったと言われますが、実は、すでに大きく変わっていた社会の姿が浮き彫りになってきたという面もあると思います。日本人がどうしたらよいか戸惑い、世界も日本の対応に注目する中、新しい社会の在り方や仕組みの提唱を利害関係や意見調整の限界に縛られず引き受けることができ、また、そう期待されている社会セクターは、大学以外にはありません。企業にも政府にもマスメディアにもできないことです。広い視野から、大学ならではの専門性に裏打ちされた発信が待たれます。早稲田大学は、その挑戦をもう始められたと伺っていますが、混迷する世の中で、大学への期待は高まる一方です。多様性とバイタリティにあふれた早稲田大学だからこそ、大学セクターの先頭に立って、新しくて迫力のあるパラダイムをさまざまに提唱されることを願っています。

小松 親次郎(こまつ・しんじろう)さん/文部科学省 高等教育局私学部長

1956年生まれ。1981年本学政治経済学部卒業。同年文部省入省。大臣官房、生涯学習局、初等中等教育局、高等教育局、学術国際局、石川県庁、日本学術振興会等勤務を経て、2011年より現職。