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第二世紀へのメッセージ

秋池 玲子さん 略歴はこちらから

固定観念に縛られず、一つ目の成功事例を作る仕事をしたい

秋池 玲子さん/ボストン コンサルティング グループ パートナー&マネージング・ディレクター

 日本のメーカー、外資系コンサルタント、産業再生機構と実にさまざまな組織で働いてきた経歴をお持ちの秋池玲子さん。その根底にあるのは、経営の側から、ものづくりや事業を助けたいという思いでした。
学生時代の思い出や日本的組織運営の課題などをお聞きしました。

先生や仲間との議論から自分の働き方をみつけた

―― 学生時代の思い出をお聞かせください。

 理工学部の応用化学科だったのですが、2、3年生の頃は、毎週レポートの提出があり、早朝の締め切りに遅れないように仕上げることに心を砕いていました。一分でも遅れると受付の窓が閉まって提出することができず、何回か提出できないと単位を落としてしまうので、クラスでも協力しあって、結束力が高まっていたと思います。

 専攻は応用微生物化学でした。当時は、バイオテクノロジーが一般的にも注目されるようになった時期で、省エネルギー、食料問題、公害問題などの社会課題を解決する新技術と評価されていました。私もバイオテクノロジーで社会の役に立とう!と高い理想を掲げて勉強していたのですが、周囲に優れた学生がたくさんいて驚いたものです。

 研究室での日々はとても充実していました。研究室の教授は、生涯御恩を感じ続けている恩師です。議論を楽しむ雰囲気があり、先輩たちが卒業後も研究室を訪れ、研究者や技術者として働く上での努力や、一方で課せられる制約や利益を生み出すことの難しさなどを話してくださいました。そのことが刺激になり、企業が研究開発の成果や技術力を十二分に発揮できるよう、経営の側からお手伝いしたいと考えるようになりました。

自分の中に軸を持つことの大切さ

――これまでいくつかの外資系企業でキャリアを積んでこられました。外資系企業を志望する学生も増えていますが、日本企業との違いは何だとお考えですか。

 外資系企業といってもひとくくりにはできませんが、あえて違いを言うとすれば、外資系企業の多くは、昇進の条件となる職能や人材の要件が明確で、そこに至るための研修制度や道のりがはっきり示されているということはあるかもしれません。20年前に比べれば大きく変わったものの、そこまではっきりとは示さない日系企業と比べるとそれぞれ良い面も悪い面もあります。明文化すれば目標が見えやすくなるというメリットはありますが、すべてを予見して明文化することができないのに、明文化されていないことが意識されにくくなる矛盾も生じます。どちらがより優れているということではなく、方法論の違いだと思います。お互いに良い面を取り入れていければよいのですが、前提条件が違うところに方法論だけ持ってきてもうまくいきません。全体の仕組みの中で適合させていくことが重要です。国の政策も同じですね。海外の施策をそのまま前提の違う日本に持ってきてもうまくいかないことが多々あります。

 学生さんのご両親の世代は、外資系というと欧米の企業を思い浮かべるかもしれませんが、新興国の企業も今後大きく成長していきます。また、日系企業に就職しても、安定を求めるだけではなく、そこで旧来の組織が持つ課題を変えることに挑戦するという働き方もあります。枠組みや固定観念に縛られずに、自分なりの働き方をみつけてみてはいかがでしょうか。

――グローバル化の波を乗り切っていくには、どのような人材が求められると思いますか。

 さまざまな価値観にさらされるわけですから、自分の頭で考え、行動できる人が必要とされると思います。学生時代のように比較的時間に余裕があるときに、旅行や読書などを通じて、他の人生や考え方に触れ、自分だったらどう考えるかという思想の中核になるものを作っておくとよいと思います。学生時代に自分の思想を確立するに至らなかったとしても、将来必ず役に立つでしょう。

失敗を恐れ過ぎないことが大きな改革をし遂げる

――産業再生機構でのご経験から、日本的組織運営の課題は何だとお考えですか。

 東日本大震災の際、世界中から評価された日本人の秩序や譲り合いの精神は、日本の強みだと思います。一方でこれは、強いリーダーが出にくいということにもつながります。日本の組織は現場が強く、実は欧米などより自由です。現場の判断で動いてうまくいっていることも多い。でも、自分の裁量の範囲を超えた意思決定は現場ではできませんので、そこはリーダーの能力が問われます。

 大きな改革を成し遂げるためには、失敗を恐れ過ぎないことが重要だと思います。今までと同じことを続けていると縮小均衡に陥るリスクが以前よりも大きくなっています。リーダーだけではなく、企業はその組織を進化させることを目指して、社員も挑戦できる場でなければなりません。そのためには、例えば、リーダーが現状の延長線では成し得ないような課題を与え、思い切ったアイデアを出させる雰囲気を作ることも有効です。

自分で立てた問いに答えを見つけ出す力を

――早稲田大学に期待することをお聞かせください。

 教育は学生にとって一生の財産です。大学は、教育の場であると同時に、先生や仲間との出会いの場でもあります。大学にはすばらしい先生がたくさんいらっしゃいます。学生には、この先生に出会ったから人生が変わったと思える先生を見つけていただきたいです。また、大学側には、物事の考え方を教えていただくことを期待します。人間は自分で立てた問いに、自分で答えをみつけることでしか成長しないと思っています。社会人になると、答えがない問いに自分なりの答えを見つけていかなくてはなりません。それに耐えられる強靭な思考力を育てる場であってほしいと期待しています。

――今後、どんなことに取り組んでいきたいとお考えですか。

 ジャンルを問わず、成功事例を作ることです。産業再生機構で働いていたときに、市場が縮小し、経営難に苦しむバス業界で、再建の最初の成功事例を作りました。その後、多数の同業他社が同様の手法で再建に取り組んでいます。前例ができれば後に続く組織や人材は出てくるものです。そのような前例になる仕事にやりがいを感じています。

秋池 玲子(あきいけ・れいこ)さん/ボストン コンサルティング グループ パートナー&マネージング・ディレクター

1964年生まれ。1990年、本学大学院理工学研究科修士課程修了後、キリンビールに入社。1996年、マサチューセッツ工科大学経営学大学院修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、2003年産業再生機構に入社。九州産業交通取締役、関東自動車取締役、カネボウ化粧品社外取締役を兼任。2006年11月、ボストン コンサルティング グループ入社。金融審議委員など、政府系委員を歴任。