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第二世紀へのメッセージ

西川 岳克さん 略歴はこちらから

国内のみにとどまらない、グローバルな宇宙開発と協力活動の拡大に期待

西川 岳克さん/
宇宙航空研究開発機構(JAXA)
有人宇宙環境利用ミッション本部 JEM 運用技術センター主任開発員

 国際宇宙ステーション(ISS)に滞在する宇宙飛行士や地上管制員と連携を取りながら、筑波宇宙センターの「きぼう」運用管制室で指揮を執っているフライトディレクタの西川さん。宇宙開発の仕事に就いたきっかけ、仕事のやりがい、本学への期待などについて伺いました。

突然、宇宙開発の道へ

――お仕事内容についてお聞かせください。

 2008年と2009年の3回に分けて国際宇宙ステーション(ISS)に取り付けられた日本初の有人施設「きぼう」日本実験棟では、宇宙飛行士との運用管制員が連携を取りながら、さまざまな実験を行っています。筑波宇宙センターの運用管制室では「きぼう」に搭載されているシステム機器や日本の実験装置の状態を監視し、制御コマンドの送信、運用計画の管理などを行うほか、宇宙飛行士との交信、NASAを中心とする各国の運用管制センターとの調整を行います。フライトディレクタの仕事は「きぼう」の運用管制に関する全てに責任を持ち、「きぼう」のシステムと実験に関する専門知識を持った運用管制員を取りまとめ、作業の指揮を執ることです。現在、今年4月に山崎直子宇宙飛行士が搭乗するスペースシャトルのミッションを担当し、作業計画や運用文書などの最終確認をしています(取材時は3月16日)。

――宇宙開発の仕事に携わるきっかけは何だったのでしょうか。

 大学院時代にJAXAの前身、NASDA主催のサマースクールに参加したことです。職員には、小さい頃から宇宙やロケットが好きで、宇宙開発に夢を追いかけてきた人が多くいるのですが、私は年に一度「宇宙」という言葉を口にするかどうかという程度、宇宙開発を身近に感じることはほとんどありませんでした。学生の頃はスポーツ選手のパフォーマンスを科学的な視点でとらえることに興味があったので、大学ではバイオメカニクスを専攻。大学院では自転車のペダルにかかる力を計測する装置を設計・製作し、動作解析と筋肉の動きの測定を組み合わせ、ペダリング時における脚の動きを複合的に調べる研究をしていました。サマースクールには友達に誘われて参加。日本の人工衛星やロケット開発、ISS計画、将来の宇宙開発計画についての講義を受け、全てがとても新鮮な内容でした。なかでも、向井千秋宇宙飛行士の講演を聴き、その圧倒的なパワーに感激したことは今でも忘れません。当時、「きぼう」は製作途中で、ISSの建設もまだ開始していませんでした。他に内定をいただいた企業もありましたが、「チャレンジするならどちらか」と考え、自分にとってやりがいがありそうだと感じた宇宙開発を選びました。

世界の技術にふれられる感動

――早稲田大学を選んで良かったことはどんなことでしょうか。

 高度な研究をするための充実した設備が整っていることです。研究室には高速現象を撮影できるカメラや特殊な計測装置などがありました。私が通っていた所沢キャンパスでは、コンピュータルームや図書館をよく利用したことを思い出します。海外の文献や研究を調べるのに豊富な蔵書と検索システムが便利で、インターネットがそれほど普及していない時代、とても恵まれた環境にいたと思います。

――学生時代にやっておけば良かったことは何でしょうか。

 留学して語学をきちんと勉強し、バリエーションのある英語をもっと体験しておけば良かったです。ISS計画はアメリカ、日本、カナダ、欧州各国、ロシアの計15カ国が協力して計画を進めています。運用管制室ではNASAの運用管制員や各国の宇宙飛行士と英語でコミュニケーションをとることが必要不可欠。ひとくちに英語と言っても国によって話される英語はさまざまなため、仕事に就いてから苦労し、必死に勉強しました。役に立った教材のひとつにNASAのホームページがあります。ISS滞在中の宇宙飛行士と運用管制員との交信やミッションの解説などを聴くことができる「NASA TV」をはじめ、宇宙を題材にした理工学分野のコンテンツが豊富です。学生向けの基礎教材もありますので、宇宙について勉強しながら生きた英語を学ぶこともできます。

――フライトディレクタという職種のやりがいについてお聞かせください。

 宇宙開発の仕事は華やかで夢のある職業である一方、ミッションの始まりまでが仕事の9割を占めていると言って良いくらい、準備が多くあります。特にクリティカルな作業を行う際は、万が一に備えた対応も事前に検討しています。しかし、宇宙では予想していないことが起こりますし、各国の管制センターとの調整も簡単には進まないことがあります。短時間で状況を判断し、指示を出さなければならない緊張した場面で運用管制チームが連携し、ミッションを成功に導けたときには達成感とやりがいを感じます。また、運用管制室でNASAやロシアなどのシステム機器や実験装置の運用を見ることはとても貴重な機会であり、世界の研究や技術にふれられる国際プロジェクトのメリットのひとつだと思います。

宇宙開発の可能性は理工学分野以外にもある

――宇宙開発の仕事における夢は何でしょうか。

 いつか私も実際にISSや宇宙に行ってみたい、という思いはあります。ただ、今は「きぼう」を安全に運用することが何よりも重要です。「きぼう」の組み立てを開始してからまだ2年しか経っていませんし、今後予定している実験テーマはたくさんあります。また、社会に対してアピールできることも増えてくると思います。できるだけ長く運用を続けることで新しい技術や研究へのチャレンジと発見が増えると思うと楽しみです。

―― 早稲田大学への期待についてお聞かせください。

 ISSにおけるさまざまな分野での研究と宇宙を題材にした教育活動を推進していただきたいです。総合大学である強みを生かし、理工学分野以外の実験や研究にも参加することができると思います。JAXAは、早稲田大学理工学術院を中心とした連携活動を行ってきましたが、昨年、社会科学と人文科学分野においても新たな協力枠組みを検討することになりました。JAXAだけでなく、日本や海外の大学、企業、研究機関などとの協力活動へと拡げ、国内のみにとどまらないグローバルな研究活動を長期的に続けていただきたいです。

参考

宇宙航空研究開発機構(JAXA)
米国航空宇宙局(NASA)

2010年2月に撮影した国際宇宙ステーション(左)と「きぼう」日本実験棟(右)(提供:NASA)

西川 岳克(にしかわ・たかよし)さん/
宇宙航空研究開発機構(JAXA)
有人宇宙環境利用ミッション本部 JEM 運用技術センター主任開発員

1971年生まれ。早稲田大学人間科学部スポーツ科学科卒業。同大学大学院人間科学研究科修了後、1997年に宇宙開発事業団[NASDA](現:宇宙航空研究開発機構[JAXA])に入社。国際宇宙ステーション(ISS)に搭乗する宇宙飛行士候補者に対する基礎訓練、ISS計画の利用推進に関する国際調整、「きぼう」日本実験棟の射場作業、運用準備等に従事。 2008年11月にフライトディレクタとして認定を受け、2009年4月より第19次/第20次長期滞在ミッションを担当(若田光一宇宙飛行士が滞在)。現在、「きぼう」運用管制チームの一員として野口聡一宇宙飛行士の長期滞在ミッションに参加し、2010年4月、山崎直子宇宙飛行士が搭乗するSTS-131ミッションを担当。