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第二世紀へのメッセージ

火坂 雅志さん 略歴はこちらから
写真=金子悟

大学時代は、良きリーダーになるために
人間としてのふくらみを形成する時期

火坂 雅志さん/小説家

 上杉謙信を師と仰ぎ、兜に「愛」の文字を掲げた戦国武将として知られる直江兼続の人生を描いたNHK大河ドラマ「天地人」。
その原作者であり、これまでにも本格的な歴史小説を数多く書き続けてきた小説家、火坂雅志さんに人生の夢を見つけた大学時代や歴史小説の魅力についてお伺いしました。

人生の夢を見つけた「歴史文学ロマンの会」

――どのような学生時代を過ごされましたか。

 私の学生時代は、早稲田の周りは雀荘ばかりで、夕方になるとお酒を飲んで、麻雀をしてという日々を送っていました。その頃の学生はみんなそんな感じだったのではないでしょうか。しかし、そんな生活にピリオドを打つことになった衝撃の出会いがありました。それが、「歴史文学ロマンの会」です。ある日、「君も龍馬、信長と語り合いませんか?」というキャッチフレーズが書かれたポスターをみつけたんです。私は高校生の頃に、世界史の教科書の間違いを発見したことがあるくらい、歴史は身近な存在だったので、当然のようにサークルに入会しました。読書会で、私が歴史小説家になることを決意した司馬遼太郎氏の『燃えよ剣』にも出会いましたし、サークルの人たちには感謝しています。「歴史文学ロマンの会」はその後衰退して今はもうなくなってしまったのですが、ぜひ復活してほしいですね。

 『燃えよ剣』のような小説を書きたいと一念発起してからは、図書館にこもりっぱなしになりました。明治時代以降の歴史小説を全部読むという覚悟を持って、猛烈に歴史の勉強を始めましたが、早稲田の図書館は、調べても、調べても膨大な資料が出てきました。図書館通いは社会人になってからも続けていましたが、5年くらい前に私が調べていたテーマに関して調べるものがなくなったんです。制覇したという感じがして、嬉しかったですね。早稲田の図書館がなければ、ここまでやれなかったと思います。

 その他、学生時代から古本屋通いもしていました。早稲田はもちろん、全国の古本屋をしらみつぶしに回りました。そのうち、その店に必要な本があるかどうか、店の前に立つだけで嗅覚がきくようになり、手に取ってわずか数秒で購入を決めてしまうので、業者に間違われるほどになりました。今思い返しても、あの図書館通いと古本屋めぐりが、私の原点になっています。

――今の学生さんに伝えたいことはありますか。

 学生は、夢を持つことが大切です。自分の夢をじっくり考えることができるのは、時間のある学生時代だけなんですよ。夢は、努力し続けていれば必ず叶います。夢が叶わないのは、夢を捨てているからです。さらにみんなが気付いていないのは、夢を達成した後のほうです。夢が叶った後、慢心せずに努力を続けることのほうが難しいんです。

 私の場合は、念願叶って歴史小説家になった後、なかなか本が売れませんでした。20年で60冊以上出し続けてもヒット作は出ません。しかし、そのことが逆に私のモチベーションを保っていました。好きな歴史小説を書き続けるために、どうしたら人々から目を向けてもらえる小説を書けるのかを考えて、一歩一歩進んできました。武田信玄の言葉に「六分七分の勝は十分の勝なり」というものがあります。最初から九分十分成功すると慢心してしまい、反省しなくなる。六分七分の成功が丁度いい。という意味です。ものすごい至言ですね。私の座右の銘です。

子どもたちには、自由な発想ができる環境を

直筆の色紙を手に

――歴史小説の魅力とは何でしょうか。

 少し前までは、サラリーマンがいかに成功するかを歴史に学ぶというビジネス書としての歴史読み物が幅をきかせていましたが、最近は歴史雑誌の特集も変わってきました。世の中の風潮として、出世したりお金を儲けたりすることではなく、自分らしく生き、志を貫くということに価値が置かれるようになって、歴史上の人物にもそんな視点で注目が集まるようになってきたんですね。最近“歴女”が現れましたが、彼女たちに一番人気があるのは、真田幸村。彼は最終的には戦に負けて、決して成功しているわけではありませんが、自らの生きざまを貫いた姿が愛されています。女性のほうが素直に歴史を見ているような気がします。そんな読み方も面白いと思いますよ。

――歴史では藩校が重要な役割を果たしてきたと思いますが、今、早稲田大学は高等教育機関として、どのような役割を果たしていくべきだと思われますか。

 私は教育者ではないので分かりませんが、情けのある人間を育てていくべきだと思います。現代社会に必要なのは、“仁”、弱き者を助ける気持ちです。昔からリーダーになる人間に最も必要な資質だと言われています。学生時代は、ただ学問をするだけでなく、人間としてのふくらみを形成していってほしいですね。

――火坂さんは、学生の親御さんと同年代ですが、何かメッセージをお願いします。

 自分の親のことを思い出してみると、とにかく自由にのびのびと好きなことができる環境を作ってくれたと思います。子どもは意外に親のことを考えているので、うるさく言うと萎縮してしまいます。萎縮した状態というのは、子どもにとって一番辛いことです。大人だってそうですよね。親がしてあげられることは、子どもが自分の力を発揮し、自由な発想を生み出せるような環境を作ってあげることではないでしょうか。

火坂 雅志(ひさか・まさし)さん/小説家

1956年、新潟県生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務ののち、1988年『花月秘挙行』でデビュー。2006年、「新潟日報」朝刊ほか全国13紙に、上杉謙信の義の心を受け継いだ直江兼続の生涯を描く『天地人』を連載し、同小説が2007年、第13回中山義秀文学賞を受賞。2009年に、NHK大河ドラマとして放映された。新史料をもとに描く旺盛な作家活動に定評がある。『全宗』『覇商の門』『黒衣の宰相』『虎の城』『沢彦』『臥竜の天』『美食探偵』『軍師の門』『墨染の鎧』など著書多数。