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第二世紀へのメッセージ

竹内 佐和子さん 略歴はこちらから

学ぶべきことをみつけるために
大学という枠をもっと自由に

竹内 佐和子さん/京都大学客員教授 日産リーダーシッププログラム・ディレクター

医療、環境、国際協力など、人類が抱えている課題を解決するために、世界中の知を集積する仕組みを考えたり、次世代のリーダーを養成するプログラムを作ったりするなど、多方面で活躍されている竹内佐和子さんに、今後の大学のあり方についてご意見を伺いました。

技術、人、法律を融合的に動かす仕組みが必要

――現在、取り組んでいるテーマは何ですか。

今、世の中には、地球温暖化などさまざまな課題がありますが、大事なのは議論をすることではなく、解決策を提案することです。そのために必要なのは、技術、人、法律を融合的に動かす仕組みづくりです。でも日本の大学は、法律、経済、理工と学部単位の縦割で、学際的ではありません。たとえば、理工学部を卒業して技術を身につけても、社会の課題は何なのか、解決策は何かを考える機会は十分ではありません。それは若者が将来リーダーとして活躍できる可能性を狭めていることになります。

 そこで日産科学振興財団の支援を受けて始めたのが、文理融合型の若手のリーダーシップ育成プログラムです。海外には大学卒業後30代前半で学び直す場が多くありますが、日本にはまだそうした場が少ない。そこで、30代くらいの中堅層向けに革新的なアイデアを具体的提案としてまとめる知的構想力を強化する国際プログラムをスタートさせました。

人類の能力を高めるための新しいネットワーク作りを目指す

――大学教授や国際機関のチェアマンなど、実にさまざまなお仕事をされていますね。

 組織や肩書きにはこだわらず、国際社会でインテリジャンスを発揮しなければならないようなテーマにいち早く着手し、具体的なリーダーシップを発揮できるような仕事をしたいと思っています。たとえば、新しい国際機関を作るとか。既存の国際機関は20世紀のしがらみや西欧型論理優先のためヒューマニティやサステイナビリティというテーマから離れているように感じます。そこで、新しい国際ネットワークをゼロから作り、問題を解決する場を作りたいと考えています。柔らかい頭を持った人々の知恵を結集して、人類の能力を高めるための場です。現状を見ると、人間自身が可能性の壁を作って人類の能力を狭めているように見えます。

――国際的な視点はいつ頃からお持ちでしたか。

 早稲田では、島田征夫先生の国際法を専攻していたのですが、今でも国際機関で議長をしたりすることに関心があるのはその時の影響が大きいと思います。学者になって古い文献を掘り起こすよりは、国際社会を相手にする仕事をしたいと考えていました。ただ外交論よりは、何か専門性を身につけたかったので大学院に進学し、経済学を専攻しました。それでも足りず、30過ぎてからフランスに行ったら、フランスのトップの学生たちがリーダーシップの自覚をもって、科学的根拠や哲学的な含蓄のある発言をするのを目の当たりにして愕然としました。日本では自ら個性が強いほうだと思っていたのですが、フランスでは太刀打ちできないと感じて、そこからまた猛勉強しました。

――フランスの大学と日本の大学を比較すると、どのような違いを感じますか。

 フランスには総合大学と、主に哲学や工学の分野のエリートを育てるグランゼ・コールという少数精鋭の学校があります。グランゼ・コールの学生たちは、「自分は世の中に対して何ができるんだろう」と常に考え、3年間のうち1年間は、企業や国際機関、あるいは人が行かないような遠隔の地に行って、自分が勉強すべきテーマを探します。日本の大学は、学生を大学という枠にはめすぎていて、大学の外になかなか出ていけないシステムになっていると思います。また、知識を獲得することに重点が置かれ、知識を応用することにあまり時間を割いていません。これでは、学生に能力があっても伸ばすことができないのではないでしょうか。

大学生には、学ぶべきことを探す時間が必要

――早稲田大学が、世界から選ばれる大学になるために必要なことは何でしょうか。

 日本に来る留学生を増やすという考え方はもう古い。ヨーロッパでは、3カ国以上の大学で単位を修得する連携型ユニバーシティが始まっています。世界のネットワークを常に感じるような教育の方法論が必要です。日本の知力はすでに衰退しかかっている。だから、まずはアジア地域のさまざまな現場から、問題提起をし合う知的ハブになることです。 早稲田は、まだまだ国際化できる余地が十分にありますので、外交スクールをつくるとか、世界リーダー会議などを定期的に企画してはどうですか。

――国際的に活躍されている竹内さんのパワーの源は何でしょうか。

 人間の能力や尊厳を大事にする社会をつくりたい。女性だから日本人だからという偏見に対する悔しさが原動力の一つかもしれません。あとは、普段の生活で、水泳したり、ピアノを演奏したり、茶の湯をやっているとエネルギーが湧きます。脳がリラックスしていると、アイデアがどんどん浮かんできます。仕事優先でなく、知を楽しむ人生をすごしたいと考えていることが、よい影響を与えるのではないでしょうか。

竹内 佐和子(たけうち・さわこ)さん/京都大学客員教授 日産リーダーシッププログラム・ディレクター

京都大学工学研究科客員教授(2005年~)。75年早稲田大学法学部卒業。フランス応用数理経済研究所を経て88年フランス国立ポンゼショセ工科大学国際経営大学院副所長、帰国後東京大学大学院工学系研究科助教授、東京大学大学院MOT講義を担当。世界銀行で中国プロジェクト審査を担当したあと、現在世銀災害リスク専門委員会議長。外務省では大使として経済外交政策の立案を担当。工学博士、経済学博士。日産リーダーシッププログラム・ディレクターを兼ねる。