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キャンパスナウ

▼10月号

第二世紀へのメッセージ

出井 伸之(いでい・のぶゆき)さん 略歴はこちらから

さらに突き抜け、強い個性のある世界の中の一流大学へ

出井 伸之さん/クオンタムリープ株式会社 代表取締役

日本の産業界をリードし、現在も国際的な舞台で精力的に活躍されている出井伸之さんに、今後の大学のあり方についてご意見を伺いました。

勉強して遊んで仲間を作った大学時代

──早稲田での学生時代に印象に残っていることは何ですか

 卒業後の人生を考えると、大学時代は最後の平和な4年間でしたね。授業は退屈だったのであまり熱心に聞いていませんでしたが、英語や興味のあることは自分で勉強していました。専攻は国際経済で、ヨーロッパ統合や国際機構について研究しました。早稲田大学高等学院は、素晴らしい先生が多くいて、フランス語や古典の授業を良く覚えています。高等学院の雰囲気は今も良いですね。一昨年、学園祭のゲストスピーカーとして伺った時には、高校生たちから質問が活発に出て、非常に頼もしく感じました。

 高校から大学にかけて写真を撮っていたのですが、コンテストで入選したこともあり、本気でプロのカメラマンになろうと思っていました。写真部に入部し、学生運動の様子など社会派の写真を撮っていたのですが、途中で才能に限界を感じ、「撮るより、撮られるほうがいい!」と生意気なことを言って退部してしまいました。現在も、写真は大切な趣味の一つです。大学時代を振り返ってみると、写真部の仲間だった妻とも出会いましたし、たくさんの友人を得て、暢気に楽しく過ごしていました。

先生も学生も一流の矜持を持とう

──海外の大学と比較すると、日本の大学には何を感じますか。

 世界の一流大学と比較すると、日本の大学はエネルギーのレベルが比較になりません。例えば、中国を代表する清華大学は理系に強い大学ですが、米国のマサチューセッツ工科大学をライバルとして、世界レベルでの一流大学を目指しています。学生の顔つきからもエリートとしての誇りが感じられます。国際化などの面でも変化のスピードが速く、大学院では、すでに全体の3分の2の授業は英語で行っているそうです。

 欧米の大学を見渡すと、スタンフォードもハーバードもキャンパスのある地域と一体となって、唯一無二の個性を発揮しています。日本の大学には、そこまでの個性が感じられません。これは、新しいことに挑戦するよりは、調和を重んじるほうを重視してきたマスプロ教育の結果ではないでしょうか。

 世の中はどんどん変化しているのに、日本の大学はいまだに、チャーリー・チャップリンの時代の教育をしていると言っても言い過ぎではないと思います。

 また、多くの日本の大学の先生たちには、常に外から評価の目にさらされているという緊張感が感じられません。大きな企業では、社内でスピーチをすると、コンサルタントがそのスピーチが分かりやすいものであったかどうかを点数にしてすぐに報告する、という取り組みをしているところもあります。ビジネスの世界では常に評価されることを意識していなければなりませんが、大学の先生という職業は、批判されることが少ないように思います。私が一流だと感じるある先生は、フットワークが軽く、いつもいろいろな人に囲まれて熱い議論を交わしています。先生たちが一流としての矜持をしっかり持ち、No.1を目指していれば、自然と学生たちにもそれが伝わり、尊敬されるようになるのではないでしょうか。

クリエイティブな心を育てる教育が求められている

──これからの時代、大学教育に求められることは何でしょうか。

 今の大学は、量や大きさばかり気にして学生集めをしているように見えます。大切なのは、次世代に役立つ人間を育成するための教育とは何かという観点です。社会に出て10年後に必要な知識とは何でしょうか。私は、物事を抽象化し、理論化する技術だと思います。ケーススタディは重要ですが、そればかり勉強しても、世の中はものすごいスピードで変化していますから、すぐに通じなくなりますよ。それよりも物事の本質を見極める力を養うべきでしょう。

 時代に求められているのは、クリエイティブな心です。江崎玲於奈博士は、クリエイティブな心は20歳から下がり続ける一方、分別心が増し、45歳くらいでそのバランスが逆転すると述べています(図)。そう考えると、柔軟な心を持った20代初めの4年間は非常に大切な時間です。20歳の人にとって大学4年間はそれまでの人生の20%ですが、70歳の人にとっての4年間はたった5~6%。その貴重な時間を無駄にしないように、さまざまなことに挑戦してほしいですね。その中で、自分のクリエイティビティを発揮できる長所を見つけ、伸ばしてほしいと思います。

江崎玲於奈博士“Change according to Age”より引用

 ピーター・ドラッガー博士はチェロの名手でしたが、ある時点で自分のレベルではオーケストラの団員になることはできてもソリストにはなれないと見極め、チェリストになることを辞めたそうです。オーケストラの団員は指揮者の指示に従って弾きますが、ソリストは自分の音楽を表現することができます。それが叶わないと考えたドラッガー博士は、学者として、クリエイティビティを発揮できる道を選んだのです。大学では、学生が自分の長所を見極め、その力を発揮できる場所を見つけられるような教育が求められているのではないでしょうか。

 また近い将来には、文科系、理科系という分け方も変わっていくと思います。米国ではダブルメジャーの学生が増えています。優秀な学生はどちらもできますし、両方に興味があるからです。そもそも、経済学も統計学も数学を学ばなければ理解できません。これからはダブルメジャーで文系、理系の垣根のない時代が来るでしょう。大学もそうした流れに対応できる仕組みを作る必要があると思います。

──早稲田大学に対して、今後の期待をお聞かせください。

 世界レベルの一流大学を目指してください。そこそこのレベルには達しているので、もっとチャレンジ精神を発揮し、さらに突き抜けていってほしいと思います。早稲田がマスプロ教育の大きな大学であることをやみくもに否定していても仕方ありません。大きな大学の中で、学生一人一人をしっかり育てられる小さな場をいかに作っていくかが今後の課題だと思います

出井 伸之(いでい・のぶゆき)/クオンタムリープ株式会社 代表取締役

クオンタムリープ株式会社代表取締役。ソニーアドバイザリーボード議長、アクセンチュア取締役、レッドヘリング取締役、百度取締役。1937年東京生まれ。早稲田大学高等学院、早稲田大学第一政治経済学部卒業。1960年ソニー株式会社入社。スイス、フランス赴任後、オーディオ事業部長、取締役を経て、1995年から2007年6月まで社長、会長兼CEO、最高顧問を歴任。2006年クオンタムリープ株式会社を設立。