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キャンパスナウ

▼2017 早春号

Front Runner—活躍する若者—

学生生活のなかで身につけた視点や能力を生かして活躍している学生と若手校友をクローズアップして紹介するコーナー。
第12回は教育学部3年の木下勇馬さんと、株式会社文藝春秋の浅井茉莉子さんにお話をうかがいました。

「やらされている」仕事はしたくない。自分の“ 楽しい”を軸足に

略歴はこちらから

浅井 茉莉子さん/株式会社文藝春秋 文芸出版局第二文芸部

 2年連続で芥川賞受賞作品を担当した、と聞けば浮かぶ、大物編集者のイメージ。しかし、それを成し遂げた浅井さんは「すごいことをしたのは担当した作家の方々。私は楽しいと思った仕事をしていただけで、社会につながる仕事ができて良かったなと感じるくらいです」と、あくまで自然体を崩さない。

 浅井さんの辿ってきた道は、好きなことで貫かれている。小学生の頃から好きだった文学を学ぼうと、早稲田大学第一文学部へ。50年の歴史をもつ、念願の文芸サークル「ワセダミステリクラブ」に入会し、読書の日々を送る学生生活だった。図書館や、作家のトークショーに行くなどひとりで過ごすことも多かったが「早稲田にはいろいろな人がいて、自然と漂う“受け入れられている感”が心地よかった」という。高校生のころから漠然とあった「本を作りたい」という気持ち。「それ以外の仕事は考えられなかった」と、就職活動では出版を志し、望みどおり文藝春秋社に就職した。

小説の取材で台湾に行った時の写真。取材がてら色々な場所に行けるのも楽しさのひとつ

「就職してからは、どの部署でも悩みながら働いてきた」という浅井さん。けれど、迷いながらもその度に自分なりの道を見出してきた。最初の配属は、週刊誌の「週刊文春」。日夜取材に奔走し、疲労やストレスも溜まる生活だったが、仕事後は同僚と遊びに行き、気持ちのバランスをとった。異動先の「別冊文藝春秋」では、作家や小説との向き合い方に悩み、周りの優秀な編集者と自分を比べた。節目節目にふと思う「自分は編集者に向いていないのではないか」という不安、問い。ある時、学生時代の友人に話す機会があった。すると「(大学生の頃)すごく楽しそうに本を読んだり、それについて語ったりしていたよ。その時の気持ちは大事にした方がいい」と助言を受けた。「原点に立ち戻りました。いい意味で、ある一定の“諦め”がついて。人と比べても仕方ない。知らないなら知らないなりの仕事をしよう」。そう決めると、ごく自然体で仕事に取り組めるようになった。こうして、どこの部署でも通じる仕事の姿勢を確立していく。

『火花』の著者、又吉直樹さんとの仕事は、浅井さんなりの仕事が実を結んだ出来事のひとつだ。又吉さんの文章を読んで「文体があり、独自の視点もあって面白い文章を書く人だ」と感じた純粋な気持ちを信じ、執筆を依頼。社会現象にまでなった『火花』を一緒につくり上げた。「又吉さんは既に芸人として活躍されていたけれど、それに縛られず、純粋な思いで仕事をできたのがよかった」と振り返る。又吉さんとの仕事は、「好き」や「楽しい」に軸足を置く浅井さんが「失敗を恐れなければ、チャンスはつかめる」と実感した出来事でもあった。

 編集者になって10年。浅井さんは仕事の魅力を「編集の仕事は大変だけれど、あらゆる人に会うことでもらえる刺激も多いし、作家の原稿を世に出る前に読める瞬間はぞくぞくする。最高に楽しい仕事」と笑顔で語る。「仕事は“やらされている”と思わないようにしています。やりたい、楽しい、と思う仕事を増やすためには自分で見つけてくるしかない。それがモチベーションにもなります」。固定の媒体を持たない出版局に移った今、活躍するステージが変わっても「楽しい」を追求し続けるだろう。

浅井 茉莉子(あさい・まりこ)さん/株式会社文藝春秋 文芸出版局第二文芸部

北海道出身。2007年早稲田大学第一文学部英文学専修卒業。同年株式会社文藝春秋に入社、「週刊文春」の記者となる。「別冊文藝春秋」の編集者、「文學界」の編集者を経て、2016年6月から現職。編集を担当した『火花』(又吉直樹著、2015年)『コンビニ人間』(村田沙耶香著、2016年)がそれぞれ芥川賞を受賞。休日は映画や美術館の鑑賞のほか、毎年の国内・海外旅行を欠かさない旅好き。