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キャンパスナウ

▼2017 新緑号

研究最前線 frontline of the study

社会に貢献する最新の研究についてお話を聞きました。

中林 美恵子
社会科学総合学術院教授
略歴はこちらから

揺れ動く米国政治を見つめ
より良い日米関係に貢献したい

中林 美恵子/社会科学総合学術院教授

 米国は欧州に比べて新しい国ですが、戦後から今日まで世界を主導し、世界の仕組みに大きな影響を与えてきました。日本にとっても関わりの深い国であり、それだけに理解しようとする努力は欠かせないでしょう。私は米国連邦議会の上院予算委員会補佐官を約10年間務めた経験を生かし、ライフワークとして「日米をつなぐ」ことに力を注いでいます。その中のひとつが研究、もうひとつがグローバルな人材育成です。

米国の政治機構や財政についての文献


中林教授の研究室。米連邦公務員時代の書類をはじめ、多くの資料がそろっている

 私の研究テーマは、国際公共政策研究の中でも米国の財政、予算です。予算とは、国がどの政策に力を入れるのか目に見えて分かるものです。予算は民主政治の過程の中で「民意が国政にどう反映されているのか」を分析することにもつながります。予算編成はまさに政治そのものといえるでしょう。最近の話題の中では、今年誕生したドナルド・トランプ政権と議会が絡んだ予算編成過程も研究テーマです。日米の比較も視野に入れながら、議会資料などを基に調査・分析しています。大統領選は日本でも注目されましたが、そこで選ばれたトランプ大統領が国の方向性をどう示すのか、もちろん私の中でも大きな関心事です。日々政治の局面は変化するので、時差があっても編集されていない生中継で節目節目の展開を追うこともしばしばです。

 調査・分析が主となる研究ですが、その中で大切にしているのは、研究者ながら衆議院議員だった経験も生かしつつ、研究と政治現場の乖離(かいり)にも目を配ること。さらに言えば、私自身が政治の現場からかけ離れないようにすることです。米国には「public intellectual」という言葉があり、これは公的な議論の場に出たり、政策決定に関わったりする研究者や知識人のことをいいます。米国にはpublic intellectualが多くいますが、日本の研究者の場合、それを良しとしない風潮もあります。米国が絶対に良いわけではありませんが、私は研究を机上の空論にしないためにも、できるだけ現場に出るようにしています。「現場の感覚を大切にする」という私のスタイルを含め、研究を通して日本がさらに良くなるヒントが見つかればと考えています。

世界で活躍するリーダーを育成する「グローバル・リーダーシップ・フェローズ・プログラム」で、沖縄の米軍基地の現場を見学

 こうした研究の中で蓄積された日米の政治経済、市民社会などの知識は、多様な知見を持つ人材育成のため、授業の中で学生に伝えています。さらに、国際社会をリードするグローバル・リーダーを育てようと、アメリカの名門大学との協働で2012年度からスタートした「グローバル・リーダーシップ・フェローズ・プログラム」も今年3月まで携わりました。これは毎年別々の元総理大臣を教室に招いてディスカッションしたり、米国の名門大学に留学したりと国内外のトップに触れられるプログラムです。2月にはフィールドトリップで沖縄の米軍基地の現場にも訪れました。実際に現地に行くことで、「基地問題」とまとめられたニュースだけでは分からないものが見え、学生にとって日米の理解が格段に進んだようです。学生には若い感性を生かして視野を広げ、人とつながり、世界に羽ばたくチャンスをたくさん経験してほしい。私自身も学生時代、米国への留学をきっかけに自分の世界が広がり、米国の政治の中枢に関わる経験ができたのです。4月からは社会科学部の現代日本学プログラムで日本と世界の橋渡しに取り組んでいますが、どの学部においても大学生活は今後の人生も左右する大事な期間で、学問や体験を通して判断力を養える期間だと思います。私は授業やプログラムを通して、学生に多くのきっかけを提供していくつもりです。


トランプ政権への関心の高まりからメディアに出演する機会も多く、日米での講演や書籍執筆も行っています。これを機に世界の政治を学ぶ人が増えてほしいと考えています

中林 美恵子(なかばやし・みえこ)/社会科学総合学術院教授

大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程修了、博士(国際公共政策)。米ワシントン州立大学大学院政治学部修士課程修了、修士(政治学)。米国在住14年間のうち、永住権を得て1992年から米国連邦議会・上院予算委員会補佐官(共和党)。2002年に帰国し、独立行政法人・経済産業研究所研究員、衆議院議員、早稲田大学留学センター准教授などを経て、2017年4月より現職。