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キャンパスナウ

▼2016 錦秋号

研究最前線 frontline of the study

社会に貢献する最新の研究を取り上げて紹介します。

森島 繁生
理工学術院 先進理工学部 応用物理学科 教授
略歴はこちらから

日進月歩の映像技術
世界の第一線へ道筋を作る

森島 繁生/理工学術院 先進理工学部 応用物理学科 教授

エンターテインメントからセキュリティまで

「CG(コンピューター・グラフィックス)」という言葉は一般的に広く知られていますが、「CV(コンピューター・ビジョン)」という分野も映像を研究する上で欠かせないものです。CGは画像の合成、描画のことを指しますが、CVとは、カメラの顔認識機能や物体の3次元構造復元のように、コンピューターで画像から情報を取り出して扱う技術全般のことを指します。私の研究室では、CGとCV、そして音の3つのテーマで研究を進めています。

 例えば、2005年に愛知県で開かれた博覧会「愛・地球博」では、映画の登場人物になった気分を味わえる「フューチャーキャストシステム」を発表しました。このシステムの仕組みはというと、まず、CG映画の上映前に観客の顔をスキャンします。コンピューターが顔の立体の形状を検出し、年齢や性別などの情報を取り出して、自動で映画の登場人物を作り直します。すると、映画の登場人物が観客の顔に置き換えられ、表情を変えたり動いたりして、まるで自分が映画に入り込んだような映像を楽しむことができます。博覧会の後は、2007年から長崎県のハウステンボスに常設展示され、今も人気施設となっています。

 見て楽しいだけでなく、行方不明者の捜索などセキュリティに役立つものとして、コンピューター上で人の顔の写真から未来の顔、過去の顔を推定して描画する技術も研究しています。推定といっても、単にしわを増やしたり皮膚をたるませたりするわけではなく、膨大なデータベースの中から似ている特徴の人を探し出して合成し、より現実に近い経年変化を再現する「パッチベース画像合成」という方法を用いています。同様に、骨格に基づいた体重の増減もシミュレーションできるため、年齢や体格が変わっても捜している人に近い顔のイメージを導き出せます。エンターテインメントからセキュリティまで、「役に立つ研究、人が作業する手間を少なくする研究」を中心に活動しています。

信号から映像へつないだのは「顔」

 今でこそ映像や音に特化した研究をしていますが、もともと私の専門は、CGやCVそのものではなく情報理論や信号処理でした。転機は1988年ごろ、電話回線を通じて電話の相手に顔の表情をリアルに伝える知的画像符号化の研究をしたことです。電話回線は通信できる情報量が小さく、顔の映像をそのまま送受信することはできません。そのため、表情を読み取って「笑った」という記号だけを電話回線で伝え、受信先でアバターに笑ってもらうという方法を模索。その後、通信回線の進化とともにCG・CVへと研究の中心が移っていきました。興味のきっかけが顔や表情だったため、これまで顔に関する認識や合成の研究を多くしてきました。競争の激しい分野ではありますが、車の運転中にドライバーの居眠りを防止するための表情認識システムなど、顔の研究は世の中の誰にも役に立てると思っています。

海外で発表できる研究者を育てる

 現在、映像や音の技術は世界的に関心が高く、最先端を行くアメリカのシリコンバレーでは日進月歩で最新技術が生まれています。私の研究室のある応用物理学科で一般的にイメージされる物理学は、30年単位で息の長い研究を行っていますが、CG・CVに関しては論文を書いている間に他の研究者に先行されてしまうほどで、そのスピードの違いは歴然としています。日本人は優れた発想や技術を持っていますが、語学への苦手意識から海外へ出ない人も多く、技術だけを海外に吸い取られて先行される事態が起きています。私はそれを何とかしたいと考え、研究室の人材が海外で第一線に立つための道筋を作ろうとしています。その一環として、アメリカで毎年開かれる世界最大のCG技術の国際会議「SIGGRAPH(シーグラフ)」に毎年学部学生全員に論文投稿させ、採択された学生(時には全員)を連れて行って発表を経験させています。また、その中でも優秀な論文は「ACM STUDENTRESEARCH COMPETITION」に毎年ノミネートされています。どれだけすばらしい研究をしても、世界を相手にプレゼンテーションができなければ、最新技術が世に出ることはありません。学生たちは英語での発表や質疑応答に毎回かなりの苦労をしていますが、そのかいあって、今年はUndergraduate部門で研究室の学生が1位を取ることができました。学生にとっては大きな経験になったはずです。また、国際会議で発表した学生たちには、その分野の最先端をせっかくなら全身で感じてもらいたい。そこで、PIXARやGoogleの本社の見学をしたり、学生自身が大勢の社員の前でプレゼンテーションするツアーを組みました。デスク上の研究に留まらず、内でも外でも、夢やモチベーションを膨らませられるような機会を作ってあげたいと思っています。

「SIGGRAPH」に限らず、研究室では世界で活躍するための力をつける工夫をしています。学生は配属後の半年間、月に1回プレゼンテーションをして、発表する能力を鍛えます。合宿も特徴的で、プレゼンテーションやディスカッションを行ったり、専門家を招待して学生の研究を見てもらったりするほか、レーシングカートなどのスポーツ大会を必ず開いています。これは、追い越されたら追い抜こ うとする競争心を育んでもらうため。映像や音という研究分野は流行と切り離すことができないので、若い人が主導権を握って進化させてほしい分野です。そのためには、自分が先に到達しようとする意識を大切にしてもらいたいのです。

 私自身は、アメリカに行きたかったのに日本で歯がゆい思いをしながら学生時代を過ごしていました。今の学生たちには、同じ思いをしないよう国内外でさまざまな経験をしてもらっています。自分ができなかった夢を託しているのかもしれませんね。

森島 繁生(もりしま・しげお)/理工学術院 先進理工学部 応用物理学科 教授

1987年東京大学・工・大学院電子工学専門課程修了。同年、成蹊大学工学部専任講師。2001年に同大教授。2004年より現職。この間、1994年から1995年、トロント大学コンピュータサイエンス学部客員教授、1999年より2010年に国際電気通信基礎技術研究所客員研究員。2010年より2014年NICT招聘研究員。現在、新潟大学非常勤講師、早稲田大学デジタルエンタテインメント研究所所長を併任。