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キャンパスナウ

▼2015 錦秋号

研究最前線 frontline of the study

社会に貢献する最新の研究を取り上げて紹介します。

ファーラー・グラシア
国際学術院 大学院アジア太平洋研究科教授
略歴はこちらから

国際移動によって生まれる多様性が社会を活性化する

ファーラー・グラシア/国際学術院 大学院アジア太平洋研究科教授

グローバル化時代の国際移動と移民を研究

 現在日本には、中国人、韓国人、フィリピン人、ブラジル人を始めとする外国人が200万人以上暮らしていますが、この割合は全体の1. 7%に過ぎません。世界に目を転じると、単一民族という印象の強いドイツでも10%以上が移民で、ヨーロッパでの国際移動は増える一方です。グローバル化が進む中、日本の状況も大きく変わっていくことが予想されます。

 私は中国で生まれ、アメリカで博士号を取得しました。自らの経験から、国際移動に関心があり、社会学者として移民について研究を続けています。長年調査しているのは、中国から日本への移民です。中国人が、どのように日本社会に溶け込んでいるのか? 例えば、彼らが日本企業の中で、立場と国境を越えて作っているキャリアパターンについて研究したこともあります。また、さまざまな国から来た外国人が、それぞれ日本でどのように経済的、社会的、政治的な関係を作っているかについての比較研究も行っています。 

 最近注力しているのは、12歳以下で日本に移住した1.5世代、日本で生まれた2世代の子どもたちのアイデンティティについての研究です。移民の子どもたちは、学校でいじめられることを避けるため、通称名で過ごす子もいますが、日本語を話し、日本人の友だちと遊び、日本社会に溶け込んでいます。しかし、成長するにつれて自らのルーツに自信を持ち、アイデンティティを再考するようになります。彼らの多くは自分のことを、中国人、韓国人というより、国際人と認識し、国際的な人間になりたいと考えています。

社会学者として、現場に足を運んで人々の話しを聞き、事実を忠実にまとめることを重視している。フィールドワークは研究の原点だ

日本各地に移民のコミュニティが生まれている

日本は移民国家になりうるか

 その他、移民国家であるオーストラリアと日本を比較し、日本は移民国家になりうるかどうかを研究しました。80年代半ば、中国では国家の出入国政策が緩和され、個人が簡単に海外に出られるようになりました。語学留学をする若者が増え、日本やオーストラリアで学び、そのまま就職して、ほぼ同時期にそれぞれの地で移民になった人々がいます。多文化国家のオーストラリアとそうではない日本の受け入れ環境の違いに注目し、移民の子どもが通う中華学校でフィールドワークを行いました。その結果、分かったことは、日本ではいじめを受けないように中国人であることを隠していることが多いのに対し、オーストラリアでは自分に自信を持ち、積極的に中国語を習う子どもが多いということです。オーストラリアでは、中国語で受験することも認められ、中国系オーストラリア人というアイデンティティが確立しています。来年には、移民に対して同じような感覚を持つイタリアと日本の比較研究を行う予定です。

就職を目的とする留学生の在留資格変更許可数の推移(全体中の中国人の割合)
Chinese students who obtainedemployment visas vs. the totalvisas granted to internationalstudents(1983-2012) 2009年はリーマンショック後の関係で、採用数が急減した

中国人留学生新規入国推移
New entry ofChinese studentsbetween 1991 and 2011
2011年からは、就学生と留学生の区別がなくなった

永住許可を得た中国人数と日本国籍を取った中国人数の推移
The newly naturalizedChinese population andthose who obtainedpermanent residency inJapan(1993-2013)

企業のグローバル化の実態を調査

 今年スタートした基盤研究では、グローバル化を目指す日本企業が外国人従業員を増やすことで、どのような変化を経験しているか、また従業員たちの関係にどのような影響を与えているかについて調査を進めています。日本企業のグローバル化は、社内の公用語に英語を使うのか、外国人従業員を増やすのか、成績主義で年収が決まるのか、などさまざまな取り組みが行われているものの、明確には定義されていません。私は必ずしも、単純な市場主義に代表されるグローバル化が良いとは思っていません。例えば「石の上にも3年」というような考え方や、ある哲学を持って仕事に取り組むような、日本企業らしさにもメリットはあると考えています。単純な勝ち負けではない、従業員同士の関係性を見いだしたいと考えています。

日本の将来のためにも人の交流が必要

 日本では今、外国人労働者の問題が議論されていますが、移民を受け入れるメリットは労働力の確保だけではありません。人の移動により文化的な交流が生まれることも重要です。流れが止まると水が淀んでしまうように、社会の活性化のためには人の交流が必要です。外国の文化を取り入れるだけでなく、日本の素晴らしい文化を享受した外国人が、自国に紹介し広めることもあるでしょう。日本人の子どもたちにも、海外に行くという選択肢をもっと与えることが必要ではないでしょうか。

現場に足を運び、社会学者として成長

シンガポール国立大学で行われた国際会議で発表したときの様子(9月)

 私が研究において重視していることは、現場に足を運んで人の話を聞き、そこで得られた事実を忠実にまとめることです。実際に見聞きしないと直感も働きませんし、研究対象の人々の感情や本音が分かりません。中国系移民の調査では、ダンスパーティや教会に通って、時間をかけて信頼関係を築き、本音を聞き出しました。研究対象者からは多くのことを学び、研究しながら自分が人間としても社会学者としても成長したことを実感しています。学生たちにも、論文を書くためにはそうした経験が必須であることを伝えています。それなしには社会学の研究者になれないと私は考えています。

 今後は、目下進めている研究で成果を出すとともに、日本の研究を世界に紹介し、海外の理論を日本に紹介し、日本と世界の架け橋になることを目指しています。学術の中心は、欧米から全世界に移動しています。アジアに移民研究の基盤を作りたいと考えています。

ファーラー・グラシア/国際学術院 大学院アジア太平洋研究科教授

東北大学社会階層と不平等研究教育拠点フェロー(2006-2007)、お茶の水女子大学助教(2008-2009)、一橋大学地球社会研究専攻客員教授(2008-2009)を経て、2009年早稲田大学大学院アジア太平洋研究科准教授、2014年より現職。主な著作に『中国系移民の余暇サブカルチャーにおける性および地位の実践』『Labor Migration from China toJapan: International Students, TransnationalMigrants』がある。2014年度早稲田大学リサーチアワード(国際研究発信力)受賞。