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キャンパスナウ

▼2015 盛夏号

研究最前線 frontline of the study

社会に貢献する最新の研究を取り上げて紹介します。

早田 宰
社会科学総合学術院教授
略歴はこちらから

社会再生アプローチで
伴走しながら地域を元気にする

早田 宰/社会科学総合学術院教授

精神的な面から地域を立て直す
社会再生アプローチ

 今、世界には、都市化の負の影響や自然災害により、一度壊れてしまい、再生困難な状況に陥っている地域が数多くあります。この状況を放置しておくと、人々が希望する人生を送れなくなり、地域のコミュニティのバランスが崩壊してしまいます。こうした課題地区は、要因別に❶条件不利地域(資源や情報へのアクセス、差別、風俗街など)、❷衰退地域(産業が廃れて人口が減少)、❸被災地域(戦争、テロ、自然災害)に分類することができます。

社会開発の目的は、時代が進むにつれ「物理的欲求(住居、下水道、施設など)」に加え、「生理的欲求(食料・安心・子孫継承など)」、「精神的欲求」の比重が大きくなっている

 このような地域を再生するために、さまざまな分野の専門家が地域に入って、状況を改善すべく支援をしています。地域再生でよく話題に上るのは、物的支援や経済的な支援ですが、私が研究・実践しているのは、社会再生アプローチです。これは、社会の仕組みや人の気持ちにアプローチし、地域のつながりや文化、ルールなどを作り直すことによって、地域再生に寄与するというものです。

 世の中を改善するための社会開発※1の歴史を振り返ると、何百年もの間、住居、下水道、施設などの「物理的欲求」に加えて、食料・安心・子孫継承など「生理的欲求」を満たすことが目標でしたが、19世紀に入ると、「精神的欲求」の比重が大きくなり、現在では人々の欲求の半分以上を占めています。(図1)「精神的欲求」が満たされない疎外感や無力感、ストレスから地域の人々が回復するために、社会再生アプローチが必要です。

 課題地区では、もともとあった文化や規範が形骸化し、壊れつつあります。住民はその状況を自らどうすることもできずに諦めていることが多く、第三者である我々が入って、状況を整理することによってブレイクスルーを生み出すことができます。私は研究者として現場に入り、その方法論や戦略を研究する一方で、地域づくりの実践家として地域再生に取り組んでいます。

※1  社会開発:国際連合では、「経済開発の進行に伴って、国民生活に及ぼす有害な衝撃を取除き、または緩和するための全国的規模における保健衛生、住宅、労働または雇用問題、教育、社会保障に関する社会的サービスの発展」と定義されている。

研究を実践に生かすため
理論と行動の関係を検証

 地域再生のプロセスは、まずプロファイリングから始めます。医師が患者を診るように、地域のどこが悪化しているかをワークショップやヒアリングを通して探究し、地域を成立させている意味、目的、エネルギーを与える価値などを修復・再構築するためのチャート図やアクションリストを作成します。私たち地域づくりの研究者は、そうした実践を通して、地域再生プログラムの運営の技術や技法を体系化しています。さらに、技術や技法ができても、それを行動に移すことが重要ですから、“ アクション・リサーチ”※2の方法論や経験学習サイクルの理論を参考にしながら、アクション・プログラムを作成し、行動と理論をフィードバック回路でつなぎながら、検証を進めています。そうした研究の中で分かってきたことの一例を挙げると、目標主導※3の取り組みは、リーダーが変わると止まってしまいますが、協働や仲間づくり主導の取り組みなら、自主的・自律的なコミュティが形成され、長続きするということです。社会再生アプローチによる地域づくりは“、急がば回れ”が有効であることが分かっています。

※2 アクション・リサーチ:社会活動で生じる諸問題について、小集団での基礎的研究によってそのメカニズムを解明し、得られた知見を社会生活に還元し、現状を改善することを目的とした実践的研究

※3 目標主導:掲げた目標を優先することを大前提とすること

東北復興を中心に
複数のプロジェクトに参画

 私の研究スタイルは、アクション・リサーチです。立場や視点が違う人と出会い、対話することによる気づきの質と量の豊かさを研究に生かしてきました。また、コミュニティと協働しながら課題を見つけ、お仕着せでない地域再生プログラムを探究しています。

 15、16年前から取り組んでいるものの一つに埼玉県川口市の取り組みがあります。人口が急激に増加している地区とゆるやかに減少している地区が二極化し、いわゆる「穴あき都市」化が進行する中、人口減少地域への需要を呼び込み、集中・適正配分させるための土地利用やまちづくりの政策が求められています。そこで、「まちはみんなでつくるものフォーラム」というプラットフォームを作って、行政マン、住民、学生約200人を集め、川口の魅力とは何かを議論してきました。ここでの成果は、多様な地域協働のまちづくり事業のプロジェクト、最近の取り組みの例では地域の規範を盛り込んだ「川口カルタ」などの制作につながっています。

スローシティ気仙沼パンフレットの表紙

 一方で、東北復興のプロジェクトも複数動いています。宮城県気仙沼市では、脱成長の都市・地域ビジョン戦略のあり方の研究や世界の脱成長都市との比較研究を行っています。気仙沼市は、2013年に日本で最初のスローシティとして認められ、「気仙沼スローフード」都市宣言をしました。大学生と地元の高校生が参加して、スローシティ、地域社会のあり方、若者の雇用、Iターン、Uターンなどの地域とキャリアデザインを考えるワークショップを開催。その成果物として、市の魅力を世界に発信するためのパンフレットを作成しました。

 岩手県田野畑村では、条件不利地域における地域経営と公共人材育成の研究をしています。田野畑の魅力を高めるための「たのはた未来プロジェクト」を村民有志、田野畑中学校、早稲田大学、NPO、企業の協働で行い、現在は、研究室のゼミ生が住民にインタビューを実施し、地域の魅力を「田野畑BOOK」にまとめています。

 早稲田大学の周辺地域でも、昨年から江戸時代に新宿区界隈で生産されていた伝統野菜「早稲田みょうが」の定植を通じて、都市環境のミチゲーション(環境負荷軽減)や原風景再生に取り組み、都市農業振興の重要性や今後の可能性について探究しています。新宿の街に緑を増やし、ゆとりや潤いのある地域にしていくことにつなげたいですね。

 地域再生の取り組みは、焦って結果を求めても継続性のある解決には至りません。長い目で根気よく取り組んでいきたいと考えています。

早稲田みょうがの園見学会

天祖神社に奉納した早稲田みょうがの旬は、10月上旬

早田 宰(そうだ・おさむ)/社会科学総合学術院教授

1989年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、1991年同大学理工学研究科建設工学専攻修了。1993年同大学理工学研究科博士後期課程単位取得退学。東京都立大学工学部建築学科助手を経て、1995年早稲田大学社会科学部専任講師、1997年同助教授、2002年より現職。東日本大震災復興研究拠点・自然文化安全都市研究所所長、新宿NPO協働推進センター拡大運営委員会、横浜市ヨコハマ市民まち普請事業審査委員会などで社会貢献活動に取り組む。共著に『まちづくりの科学』『持続可能な都市の「かたち」と「しくみ」』、共編著に『地域協働の科学;まちの連携をマネジメントする』などがある。

早田宰研究室
http://www.f.waseda.jp/sohda/