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キャンパスナウ

▼2014 盛夏号

研究最前線 frontline of the study

社会に貢献する最新の研究を取り上げて紹介します

玉城 絵美
人間科学学術院助教
略歴はこちらから

人の手を“ロボット化”する「ポゼストハンド」で
世界中の人々と感覚を共有する未来へ

玉城 絵美/人間科学学術院助教

人間とコンピューターの情報交換を科学するHCI

 パソコンを使用する上で今や不可欠となったキーボードとマウス。さらに、急速に普及するスマートフォンに搭載されているタッチパネルや音声認識機能など、コンピュータをより便利に利用するためのツールが世の中にはたくさん存在します。このような仕組みを研究・開発する分野はHCI(Human Computer Interaction)と呼ばれ、人間とコンピュータの相互関係や情報共有について、新たな可能性を探っています。

 私の研究テーマである「機能的電気刺激を用いて手に情報を伝達するシステムとその応用」も、このHCIに分類されます。全く新しい研究領域であるため、工学系をメインにしつつも、情報科学や認知科学、基礎心理学、経営学まで、あらゆる分野を横断しながら研究に取り組んでいます。

 博士課程在学中の2010年に、コンピュータによって人の手をコントロールする「ポゼストハンド」を開発しました。その仕組みは、筋肉に電気刺激を加えることにより、指や手の平にある16の関節を動作させて、親指、人差し指、中指をそれぞれ独立させて動かせるというもの。同様の装置として、皮膚に針を刺すタイプの「侵襲性電極」などが存在しますが、そちらは医師でなければ扱えません。それに対して「ポゼストハンド」は、2つのベルトを腕に巻き付けるだけなので、誰でも簡単に操作できます。こうしたユーザビリティの高さは、HCIの根源的テーマといえます。

 「ポゼストハンド」は米『TIME』誌はじめ、海外メディアに数多く取り上げられたため、脳の機能などを研究する生理学や医療のリハビリテーションなど、世界各国さまざまな分野から問い合わせをいただき、現在新たな研究テーマとして立ち上がってきています。予想だにしなかった反響の大きさに、私自身が非常に驚いています。

玉城助教が2010年から2013年にかけて開発した「ポゼストハンド」。電気刺激により、指先の動きを自由にコントロールできる。米『TIME』誌の「世界の発明50」に選出されるなど、世界から脚光を浴びている。

「ベッドから世界に触れたい」入院体験が開発の原点

「ポゼストハンド」のデバイス。USBをパソコンに接続し電極を腕に巻き付ける。大学の研究所や医療機関向けに、販売も行っている

 そもそも私が「ポゼストハンド」を開発した目的は、“感覚”を伝達することにあります。この構想を描くようになったのは、高校時代の経験がきっかけです。当時、心臓疾患の治療のため入退院を繰り返していた私は、「べッドにいても外の世界に触れることができれば楽しいだろうな」と、計画を巡らせていました。調べてみると、ウェアラブル型のディスプレイやイヤフォンなど既存ツールを応用すれば、視覚や聴覚は伝達できるものの、触覚までは不可能であることが分かりました。「もし、また体調を崩しても充実した時間を過ごせるよう、触覚も伝達できる疑似体験ツールを自分で開発しよう」。その時の思いが、昔も今も私の大きな原動力となっています。

 それから大学の工学部でHCIと出会い、これこそ自分の夢を実現できる領域だと直感しました。まずは、触覚の重要な構成要素である“動作”を伝達するためのシステム開発を目標に、学部で複雑系工学や画像処理など関連する分野を研究しました。その延長線で博士課程ではロボットハンドの研究に取り組みましたが、途中で発想を転換し、コンピュータや他者と人の手そのものを共有するという観点で研究を進めました。こうしたプロセスを経て、開発に至ったのが「ポゼストハンド」です。

現在、新たに研究を進めている質感伝達のシステム。特定の磁場エリアで、爪につけた装置が振動することにより、質感を再現しようとしている

 現在は、手の動作伝達に関する研究と開発に一区切りがつき、新たに、ツルツル、ザラザラといった“質感”を伝達する仕組みの研究を進めています。そうやって触覚の再現力を高め、行く行くは触覚と視覚、聴覚をトータルで伝達できるようにしたいと考えています。そうなれば、海外にいる「ポゼストハンド」を装着した人々と身体感覚を共有し、世界中を一瞬で旅して回る疑似体験が可能になります。私が生きている間は叶わないかもしれませんが、最終的には味覚や嗅覚、果ては時間感覚の伝達をも実現することが理想です。

女性研究者が増えることを願って

工学部出身で根っからのものづくり好きという玉城助教。プライベートでも、はんだごてとパソコンを片手に、新たなツールの開発に勤しんでいる。画像は、玉城助教の留守中に愛鳥“フィンコ”の様子を伝えるシステム。フィンコの動きを読み取るセンサーに連動して、ツイッター上につぶやきがアップされる。このような自前システムが自宅にはあふれている

 私は早稲田大学で、助教として学生の指導に当たっていますが、その際、意識的に伝えているのがなるべく早期に目標を設定することです。学生はよく、「やりたいことが見つからない」と言いますが、本当は何か一つくらいは夢を持っているものではないでしょうか。「人にいうのが恥ずかしい」「自分には無理かもしれない」といった恐れから、本音を隠している人が多いと感じます。まずは、願望や希望を言葉にして自ら受容する。それが前に進む第一歩となるはずです。

 もし研究者を志す場合は、独創性を大切にしてほしいと思います。誰もやったことのない新しい世界を切り開いてこそ、価値ある研究と認められるからです。私の場合、幼い頃から人とは必ず違う選択をする癖がありました。どこでもそれを徹底するので、気づくと崖っぷちに立っていたり、命を危険にさらすこともありました(笑)。そこまで極端な行動をとる必要はありませんが、常に人と違った物の見方を心がけるのは、一つの手段といえます。

 また最近、理学系で徐々に増えつつある女性研究者ですが、工学系では極めて珍しい存在です。ただ、マイノリティーであることは決して不利とはなりません。というのも、入院生活がポゼストハンドを開発するきっかけとなったように、自分の経験が色濃く反映されるのが、この分野の特徴だからです。マジョリティーである男性とは違う感性、体験を積み重ねてきた女性研究者は、新境地を開拓する可能性を秘めているといえるかもしれません。私も積極的に応援していくつもりなので、この世界に女性が増えることを期待しています。

玉城 絵美(たまき・えみ)/人間科学学術院助教

2006年琉球大学工学部情報工学科卒業、2008年筑波大学大学院システム情報工学研究科修士課程修了、2011年東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。2011年同大学院総合文化研究科特任研究員。2012年「ポゼストハンド」の販売およびライセンス管理を行うH2L株式会社を設立し、代表取締役に就任。2013年より本学助教(H2Lの代表取締役は退任し、技術指導を行う)。