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島 善高

島 善高(しま・よしたか)社会科学総合学術院教授 略歴はこちらから

歴史の片隅に埋没した人物に注目し、異なる視点で近代史、法制史を検証

島 善高/社会科学総合学術院 教授

 この「CAMPUS NOW」で2年以上もの間、コラム「早稲田今昔」をご寄稿していただいた島善高教授。早稲田にゆかりの深い人物の研究を含め、専門の日本近代史、法制史のご研究についてお話を伺いました。

歴史の表舞台から外れた人物にスポットを当てる

 私の専門は、日本近代史と日本法制史です。近代日本の成り立ちを史料に即して再検討しながら、一般的には見過ごされがちな、歴史の影に埋もれた様々の人物や史実を明らかにしたいと考えています。

 ご存知の通り、日本は明治維新を機に急速に近代化を果たしました。その成り立ちは、主として、薩摩、長州出身の政府の中枢にいた人物と事蹟を中心に語られます。しかし、こうした歴史の表舞台の影には、それを支えたり、反発したりした多くの人物が埋もれています。私が今もっとも興味を抱いているのは、副島種臣という人物。彼は私と同じ佐賀県の出身ということもあり、スポットを当ててみたいと考えました。

 副島は明治維新にも深くかかわり、外務卿として初めて清国に赴いてその手腕を発揮しましたが、明治6年に政争に敗れて下野しました。その後、侍講となりますが、政治に介入させないよう副島を排斥する画策もありました。副島も身を引こうとしますが、結局、天皇の慰留によって終生、宮中務めをしました。

 副島の邸宅には、晩年に至るまで、その卓絶した人格を慕って、数多くの人々が訪れました。

副島を慰留する明治天皇の書翰(明治13年)

副島を慰留する明治天皇の書翰(明治13年)

歴史も法も人が作り、人が動かすもの。だからこそ人物にこだわる
江藤が着用していた束帯

江藤が着用していた束帯

 私は現在、この副島種臣の全集を第3巻まで出しましたが、通巻では8~9巻位になる予定です。副島の研究もまだまだ先は遠く、あと10年くらいはかかるかもしれません。このように私が人物にこだわるのは、「歴史も法律も人が作り、人が動かす」と考えているからです。

 私は政治家になったことがありませんから、政治の機微というものをなかなか理解できませんが、しかし残された史料を丹念に解読して、できるだけその人物、その考え方に近づくことは可能です。そしてその人物の考えを会得できたとき、或いは実感できたとき、これは無上の醍醐味ですね。

 また副島の後輩であった江藤新平にも関心を持っており、江藤の御子孫宅などに残されている史料を撮影して、丹念に読んでいます。江藤は手明鑓という軽輩から、司法卿まで上り詰めた人物ですが、明治6年政変で下野をし、明治7年、佐賀の乱で処刑されました。彼の波乱に富んだ生涯を眺めていますと、いい人生勉強にもなります。

興味ある人物を丹念に調べて歴史の諸相を明らかにしたい
江藤が逮捕された時に持っていた拳銃

江藤が逮捕された時に持っていた拳銃

 もちろん歴史学においては、複数の人物の立場に立ってものを考えることが大切ですから、学部の講義では前期には明治政府の中枢にいた井上毅を扱い、彼の目で明治国家形成の過程を検証していますが、後期には、逆に自由民権運動に携わった中江兆民を取り上げ、兆民の立場になりきって、批判的に明治国家を眺めています。

 よく知られているように、明治22年発布の明治憲法については、井上毅という人物がその起草に従事し、そして枢密院での説明を行ないましたが、実はそのシナリオを既に明治7、8年の時点で作り上げていました。最近、私の研究室の院生がその史料を発見したのですが、政治家を動かし、世論に働きかけ、10数年かけて自分のシナリオを実現するといった離れ業を遂げたのです。自分の意思を貫くその情熱には、驚嘆せざるを得ません。

 政治的には反対の立場にあった兆民は、明治政府の要人を徹底して批判したことで有名ですが、井上だけは真面目な人物、物をよく考える人物だと褒めています。

 このほかにも、江戸無血開城の下地を作った山岡鉄舟、副島と天津で握手を交わした李鴻章、江藤の後に司法卿となった大木喬任など、研究したい人物はたくさんいます。まだ十分明らかにされていない人物像と史実とを求めて、これからも地道に忍耐強く研究を続けて行きたいと思います。

島 善高(しま・よしたか)/ 早稲田大学社会科学総合学術院教授 

1976年、早稲田大学法学部卒業。82年に國學院大学大学院法学研究科博士課程を修了後、名城大学助教授、早稲田大学社会科学部助教授を経て、同学部の教授に就任。専門は日本近代史、日本法制史。「近代皇室制度の形成」(成文堂)、「元老院国憲按編纂史料」(国書刊行会)、「副島種臣全集1~3」(慧文社)、「早稲田大学小史」(早稲田大学出版部)などの編著書がある。