早稲田大学の教育・研究・文化を発信 WASEDA ONLINE

RSS

読売新聞オンライン

ホーム > キャンパスナウ > 錦秋号 教室の窓から

キャンパスナウ

▼錦秋号

教室の窓から

「教育の早稲田」と呼ぶにふさわしい質の高い教育を実践している取り組みをご紹介します。

早稲田大学では、ファカルティ・ディベロップメント(以下FD)を推進するため、2008年にFD推進センターを設立し、教育の質を高めています。今回は、文学学術院の山西先生に、授業で心掛けていることや工夫についてお伺いしました。

※ファカルティ・ディベロップメント(Faculty Development)……教員が授業内容・方法を改善し向上するための組織的な取り組みの総称

山西 優二(やまにし・ゆうじ)早稲田大学文学学術院 略歴はこちらから

現状を読み解き、新たなものを構想し社会に表現する

山西 優二/早稲田大学文学学術院

知ることにとどまらず 読み解くことを心掛ける

 私は国際教育論・共生社会論を軸に、「地域」「文化」「アート」「学び」といった視点から、平和・共生に向けての教育実践・教育研究を行っています。

 私が授業を通して心掛けているのは、学生たちが3つの力を身に付けていくことです。それは、(1)現状を読み解く力、(2)既存の枠を超えて新たなものを構想する力、(3)新たなものを社会に表現する力です。

 例えばある授業では、学生たちには、まず現状を知るための知識を身に付けてもらいますが、大切なのはその次です。その知識を基礎に、どのような視点で現状を読み解くのかについて、時に対話形式で、時に教場レポートで聞いています。面白いことに、いろいろな視点が出てきます。それらを全体で確認しつつ、私の視点もその一つとして提示していきます。授業に客体的に参加するのではなく、常に、批判的に創造的に現状を読み解く姿勢、そして力を身に付けてほしいと思っています。

学びの場は授業の枠内だけではない

研究の成果をまとめた冊子

 新たなものを構想するには、自分の捉え方の枠を、時に崩す必要があります。そのために有効なのは、現場と出会うことです。ゼミや演習でのグループ研究で、現場の人々の声に耳を傾け、実感のある研究を心掛けているのは、まさにそのためです。現場の人々の力強い声は学生たちを大きく揺さぶってくれます。また一方、学生たちに常に心掛けてもらっているのは、いわゆる自分たちのためのみの「収奪型研究」ではなく、現場の人々にとってもプラスとなる「協働型研究」をしようということです。フィールド調査をしたら、そこに自分たちなりの視点を加え、新たな状況を構想し、その成果を報告書などに仕上げ、現場の人たちに成果を少しでも還元するようにしています。

 また昨年は、学生たち有志13名と、クロアチアのBREZAというNGOが主催するアートフェスティバル“Land without borders”に参加しました。このフェスティバルの目的は、民族紛争の傷跡が残る中、アートを通じて子どもたちそして人々をつなぐというものです。国内団体を中心に、私たちのような海外からの団体を含め33団体が参加し、それぞれ独自のテーマで、子どもたちとともにワークショップを1週間にわたりつくりあげていき、最終日のフェスティバルへの参加は8千名を超えていました。

クロアチアのアートフェスティバルにて

 私たちのテーマは「書・折り紙・すずめ踊り」でしたが、準備を含めて1週間、言葉ではなくアートづくりを通して、学生たちは現地の子どもたち・保護者たちと夢中になってコミュニケーションすることになりました。「コミュニケーション」「アート」の枠が自然と崩れ、地域レベルでの表現活動のあり様を具体的に感じることができたように思います。

 ただ新たなものを社会に表現することは、学生時代に完結するはずはありません。2009年から、卒業生たちが自発的に「卒業生ゼミ」をスタートさせました。私を含め、卒業生の有志たちが毎月集まり、「私たちの社会の当たり前を問い直すこと」をテーマにプロジェクトをつくりあげ、今年の11月には、その成果をファンタジー物語として一冊の本にまとめて出版する予定になっています。

遊びを大切にする

 誤解を恐れずに言えば、私はいつも、学生と一緒に遊んでいる感覚でいます。仲間のような感覚で、テーマをもって遊び続けること、真剣に遊びつくすこと(この9月の山西ゼミ合宿のテーマは「2011遊びつくす」でした)が、実践・研究へのエネルギーとつながり、また閉塞感のある社会状況、人間の精神状況に揺さぶりをかけることにもつながっていくように感じています。

山西 優二(やまにし・ゆうじ)/早稲田大学文学学術院

神戸大学経済学部卒業。商社勤務の後、アメリカへ留学し、またアジア各地を放浪する。帰国後、早稲田大学へ学士入学し教育学を学ぶ一方、NGOの立場から開発教育や人権教育に携わる。専門は国際教育論・共生社会論。現在、早稲田大学文学学術院教授、開発教育協会常任理事、日本国際理解教育学会常任理事、かながわ開発教育センター代表、逗子市教育委員会教育委員など。主著に『地域から描くこれからの開発教育』(共編著、新評論)、『わかちあいの教育―地球時代の「新しい」教育の原理を求めて―』(共編著、近代文芸社)など。