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▼盛夏号

教室の窓から

「教育の早稲田」と呼ぶにふさわしい質の高い教育を実践している取り組みをご紹介します。

早稲田大学では、ファカルティ・ディベロップメント(以下FD)を推進するため、2008年にFD推進センターを設立し、教育の質を高めています。今回は、教務主任として推進役を担っている政治経済学術院の川岸先生に、FDに関心を持ったきっかけや授業での工夫についてお伺いしました。

※ファカルティ・ディベロップメント(Faculty Development)……教員が授業内容・方法を改善し向上するための組織的な取り組みの総称

川岸 令和(かわぎし・のりかず)早稲田大学政治経済学術院 略歴はこちらから

留学経験を生かしてFDに取り組み
世界で存在感を発揮できる大学を目指す

川岸 令和/早稲田大学政治経済学術院

留学生たちから教えられたこと

 政治経済学部では昨年9月より、留学生を対象とした、英語による授業だけで学位を取得できるグローバル30プログラムがスタートしました。遅ればせながら、グローバル化に向けて大きな一歩を踏み出しました。留学生たちから、あらためて文化や社会の多様性を印象づけられています。

 例えば、異なる政治体制の国や地域から来た留学生の多くは、憲法とは支配のための道具であると認識しています。国家権力を統制するものであるという近代憲法の本質をきちんと説明する必要があります。日本の近代化の成功と失敗から多くの教訓が引き出せるはずですので、それらをいかに分かりやすく提示していくかが問われます。

 留学生たちは良い成績をとり、大学院への進学や良い企業への就職を実現する、といった明確な目的を持って本学で学んでいます。そのため、提出物の期限を守ることや授業に出席をすることなどが、どれだけ成績に反映されるのかについて、はっきりとした説明を求めてきました。今まで私たちがあいまいにしてきたことについて、説明責任が生まれたのです。

 これらを通じて、これまで当たり前だと思っていたルールや授業の進め方などを見直すことができ、FDにつなげるきっかけとなりました。

留学経験をもとに授業内容の改善に取り組む

学生との対話を大切にしながら授業をすすめています

 私がFDに関心を持ったのは、1992年にアメリカのイェール大学に留学したことがきっかけです。特に驚いたのは、授業に遅れてくる教員はおらず、レポートのテーマを決める段階から教員がきちんと指導に当たっていたということなどです。

 当時の日本企業は、学生たちが大学で余計な知識を得ることを求めず、大学側も勉強をしない学生たちを黙認していました。ところがアメリカでは、学生たちが良い就職を勝ち取るためには大学で良い成績を修める必要があり、教員たちも高い意識を持って授業に臨んでいました。アメリカと日本では社会の中での大学のあり方が根本的に違ったことに、私は大きなショックを受けました。

 帰国後に本学に専任講師として着任してからは、学生たちに授業に関するアンケートをとり、学ぶ意欲のある学生たちの意見を取り入れることで、取り上げるテーマの選択や説明の仕方など授業の改善をそれなりに図ってきました。

教員の指導能力を高め存在感のある大学を目指す

 現在、政治経済学部ではFDのために、3年前から取り組んでいることがあります。それは、1年生を対象とした「総合基礎演習」を担当する教員同士で、年間数回機会を設けてお互いの指導法を発表し合い、良い事例を共有するというものです。特に若い教員たちは興味深いアイデアに基づくさまざまな工夫を実践しており、大いに参考になります。こうした取り組みを標準化させることで、教員の指導能力をさらに高め、授業の質の底上げを図っていきたいと考えています。

 質の高い授業を行えば、おのずと目的意識の高い学生がこれまで以上に本学に来るはずです。教員と学生との間の刺激ある相互作用が本学を日本社会で、そして世界でさらに存在感ある大学に作り上げていくことができる、と信じています。

川岸 令和(かわぎし・のりかず)/早稲田大学政治経済学術院

1987年早稲田大学政治経済学部卒業後、同大学院政治学研究科に進学。1989年同政治経済学部助手。1992年イェール大学ロースクールに留学、1993年LL.M.(法学修士)を取得。帰国後1995年早稲田大学政治経済学部専任講師・助教授を経て、2002年同学部教授。2004年にイェール大学ロースクールにてJ.S.D(法学博士号)を取得、同年4月より早稲田大学大学院法務研究科教授を併任、現在に至る。