早稲田大学の教育・研究・文化を発信 WASEDA ONLINE

RSS

読売新聞オンライン

ホーム > キャンパスナウ > 錦秋号 教室の窓から

キャンパスナウ

▼錦秋号

教室の窓から

「教育の早稲田」と呼ぶにふさわしい質の高い教育を実践している取り組みをご紹介します。

早稲田大学では、ファカルティ・ディベロップメント(以下FD)を推進するため、2008年にFD推進センターを設立し、教育の質を高めています。今回は、人間科学学術院で情報コミュニケーション技術を活用した教育について研究をされている森田先生に、北米FD研修での経験談や授業での工夫についてお伺いしました。

※ファカルティ・ディベロップメント(Faculty Development)……教員が授業内容・方法を改善し向上するための組織的な取り組みの総称

森田 裕介/早稲田大学人間科学学術院准教授 略歴はこちらから

学習者個々の特性を踏まえ、可能性を引き出す授業

森田 裕介/早稲田大学人間科学学術院准教授

米国のリベラルアーツカレッジ※1で感じた教育フィロソフィー

 昨年、本学のFDプログラムとして実施している米国協定大学へのFD研修※2に参加しました。クラスを見学して感じたのは、教授が一方的に話を進めていくような講義ではなく、学生とのコミュニケーションを重視した双方向の授業を行っているということでした。一人ひとりの学生の知識や経験を把握し、その上に何を積み上げていくかということを明確に意識しています。授業中に学生にアドリブで問い掛けるようなことはなく、「発問」を大事にしていることも分かりました。授業を準備し、実践する姿勢に、教育者としての哲学が感じられました。

 FD研修として、私は、実際にそのカレッジで授業を行うことが求められていました。まず、学生全員の名前をすべて覚え、コミュニケーションをとるよう努めました。次に、学生一人ひとりが何に興味を持って授業に参加しているのかを理解するように努力しました。これらは、小・中学校などの教師の方にとっては、ごくごく当たり前のことです。そんな当たり前の努力を、大学でもすればいいということを再確認しました。

教えるというより、支援するというスタンス

 学生は、一人ひとり異なった個性を持っています。例えば、人前で話すことが苦にならない人もいれば、苦手な人もいます。一方的に講義を進めるのではなく、机間巡視をしながら事前に声を掛けて学生の緊張をほぐすなど、大教室の一斉授業でも学生の気持ちを考える必要があると思います。

 質の高い教育とは何かということを考えてみると、学習者の個々の特性を把握し、その学習者が自分から学びたいと思うような仕掛けを作り、自然に自分の才能を発揮できる、または伸ばしていけるような環境を提供することだと思います。教え込むというより学びを支援するというスタンスです。大学の教員にも、授業を進める上での心がまえが必要なのではないでしょうか。

確かなものを積み上げ文化を創造する大学の役割

 大学の教育は、高校までの教育とは役割が異なります。受け身で学ぶのではなく、未知の問題にチャレンジする力を育てなければなりません。大学は、現在の文化を継承しつつ、新しい文化を創造していく場所であるということを学生が自覚できるよう、導いていきたいと考えています。

左)研修先のアルビオンカレッジ
右)電子黒板を使った授業の様子

 私の授業で学生に身に付けてほしいのは、知識だけではなく、考え方です。自分が持っている情報に新しい情報を加え、整理しつつ、そのネットワークを広げていくような考え方を身に着けてほしいです。授業でも、前回教えたことと今回教えることの関係性が視覚的にわかるよう構造図を示しています。複雑に絡み合った問題の本質を見極め、自分の力で解決していけるような、そんな応用力を期待しています。

 最近、同僚の教授の方から落語のCDを借りる機会がありました。自然に引き込まれ、最後になるほど、と思わせる落語は、授業のヒントが満載です。噺家や、講義の上手な先生方の真似をすることはできませんが、自分のパーソナリティを生かしつつ、個々の学生を伸ばしてあげられるような教育を目指したいと思います。

※1 リベラルアーツカレッジとは
人文科学、自然科学、社会科学を包括する専門分野を幅広く学ぶ4年制大学。全寮制少人数教育を特徴とする。

※2 米国協定大学へのFD研修とは
国際的に通用する学習効果の高い授業運営実現を目的に、米国における先進的な取り組みを学ぶための約3週間にわたる派遣研修。毎年10名程度が参加している。

森田 裕介(もりた・ゆうすけ)/早稲田大学人間科学学術院准教授

東京学芸大学大学院教育学研究科修士課程修了、東京工業大学大学院社会理工学研究科人間行動システム専攻博士課程修了。鳴門教育大学学校教育研究センター助手、長崎大学教育学部専任講師、同助教授を経て、2007年4月より現職。主な専門分野は、教育工学。情報コミュニケーション技術を活用した教育の可能性と限界を探る実践的研究。