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キャリアの羅針盤 学生と進路選択

猪狩 廣美(いがり・ひろみ)荒川区管理部 人事戦略担当部長 略歴はこちらから

求めているのは、一人ひとりの区民の幸せをつくり出せる人材

猪狩 廣美/荒川区管理部 人事戦略担当部長

採用担当者に就職活動の最新事情や、普段どのような意識で採用活動に携わっているかをお聞きします。今回は東京都荒川区役所の猪狩廣美さんにお話を伺いました。

「区政は区民を幸せにするシステム」

 区役所と聞くと、紋切り型のいわゆる「お役所仕事」を想像される方もいらっしゃるかもしれません。しかし、荒川区役所についてはこうしたイメージは当てはまらないと思います。私たちは「正確」「迅速」「公平」という公務員としての原則を踏まえた上で、区民の方々を「お客様」と定義し、一人ひとりのお客様それぞれに最適なサービスの提供を心掛けているからです。こうした変化は2002年頃から芽生え始め、現在の西川太一郎区長が就任した2004年から本格化していきました。

 アジアの小国ブータンでは、GDP(国内総生産:Gross Domestic Product)ではなく、GNH(国民総幸福量:Gross National Happiness)という指標を軸に政策を実施していることをご存じでしょうか。これは経済的な豊かさだけを追求するのではなく、精神的な豊かさや幸せを目指す考え方。実は荒川区でも同じ方針で区政に取り組んでおり、GガーAH(Gross Arakawa Happiness)という指標を策定しています。区役所は、区民の幸せを実現するためのシステムなのです。余談ですが、ブータン語で「幸福」を意味する言葉も「ガー」。なんとも不思議な偶然ですね。

区民の期待に応える「感性」を磨く

 企業ではターゲットとするある程度特定の顧客層が存在するのに対し、区役所では全区民が無条件でお客様となります。また公務員は、目覚ましい成果を上げても待遇が大幅に変わることはありません。自分に対するストレートな評価を重視する人は、民間が合うのではないでしょうか。また同じ公務員でも、都という広域自治体がより概念化した「都民」を対象とした制度作りを、国が「国民」「国家の利益」というさらに抽象化したものを考えた法律作りを主な仕事とするのとは異なり、区役所で働く魅力は、自分の仕事が区民に直接届いて喜んでもらえるということです。公園でひなたぼっこをしている年配の方、楽しそうに遊ぶ子どもたち。そうした一人ひとりの区民の幸せづくりに貢献することに充足感を感じられる人は、区や市といった基礎自治体の公務員に向いていると思います。

 こうした前提を踏まえて最も必要とされる能力を考えると、さまざまな価値観を持つ区民の多様な期待を敏感に感じ取れる「感性」に行き着きます。法律やルールに書いていない「本当に必要なこと」を汲み取れなければ有意義な仕事はできません。また、気付いたことへの対応策を考え実現するには、広い見識や深い洞察力、企画力、実行力、マネジメント力等々が必要ですし、組織としての力も上げていかなければなりません。そこで荒川区役所では、業務中に取り組む能力開発型の研修に加え、荒川区職員ビジネスカレッジ(ABC)を設置しています。識者の講演やゼミ形式の研修を実施しており、知識や視野を広げ感性を磨き、業務に生かしてもらうことが狙いです。区役所も一般企業と同じく、要は「人」。荒川区は23区内でも研修体制が充実していると自負しています。

さまざまな経験をしてこそ、人のこころが分かる

職種柄、大幅に待遇が変わることはありませんが、好業績を残した職員はきちんと評価されます。写真のバッジは区民からお礼を寄せられるなど、ブリリアントな活動をした職員を表彰するMBA(Most Brilliant Action)という制度で配られるもの。左から表彰回数が5回の赤色、10回のシルバー、15回のゴールド、1回の丸バッジとなっています。

 区役所など地方自治体を志望する学生には、大学時代にいろいろな経験を積んでほしいと感じています。大学での勉強はもちろん、アルバイト、ボランティア、それから恋愛だって経験していただきたいし、失敗もたくさんしてほしい。なぜなら、私たちが普段接している区民の皆さんは、同じように普通の生活を送られているからです。仕事のつらさや失恋の悲しみ。そうした心の傷みを感じてこそ、区民の方々の思いに応えられる機会もあるはずです。学生時代の経験で無駄になることは一つもありません。早稲田の学生さんは、アクティブで自分の個性をちゃんと表現できている人が多い。ぜひ多くのことに挑戦して、実り多い学生生活を過ごしてほしいと思います。

キャリアセンターより
今春は68名が23区職員に

 キャリアセンターでは荒川区の協力を得て、西川太一郎区長(校友)の講演会開催やインターンシッププログラム実施により、学生に地方自治体の仕事の魅力を伝えてきました。その効果もあってか、今春は68名の早大生が東京特別区職員となりました。内定した学生と話す機会がありましたが、それぞれに「公共のために貢献したい」「心のこもった住民サービスを実現したい」という思いを熱く語っていました。

猪狩 廣美(いがり・ひろみ)/荒川区管理部 人事戦略担当部長

1957年生まれ。1979年上智大学法学部卒。(株)富士銀行に4年間勤務した後、1983年荒川区入庁。企画、財政、教育、総務部門を経て、2006年から現職。2009年からは、聖学院大学の非常勤講師も務める。

荒川区役所
東京23区の北東部に位置し、およそ20万人(約9万5千世帯)が生活する荒川区。約1,500名(常勤)の荒川区職員は、区政を執行する区長の補助機関としてさまざまな事務事業を行い、区民へのサービス提供に努めている。