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復興支援研究プロジェクト

東日本大震災復興研究拠点

(1)医療・健康系復興研究プロジェクト —代表:浅野茂隆教授

大震災がもたらす健康被害の予防へ向けた科学的・社会的対応のためのニーズ調査研究

研究代表者:浅野茂隆(理工学術院教授)

①災害時の適正なリスクコミュニケーションの確立とコミュニティ形成

 本震災現場で流通した、健康リスクに関係するデータ・情報を調査・研究し、かつ阪神・淡路大震災より得られた知見等を総括することを通じ、地震、津波、原発事故時に求められる適切なリスクコミュニケーションの確立に向けた研究を進める。また、災害そのものから避難等により難を逃れた被災者が、避難所生活の状況によっては心的外傷による慢性ストレス(感情麻痺、集中困難、不眠、過剰な警戒反応)及びその合併症(感情麻痺、集中困難、不眠。過剰な警戒反応)を発症することが問題となっている。それら外傷記憶による長期的な高次脳機能病態の解明と災害後の長期避難所内で個人性を考慮した望ましいコミュニティ形成について調査研究を行う。

②災害時医療体制の確保と国際的連携の促進

 大災害では、医療機関そのものが被災することでその医療を担う機能が破綻をきたすことが大きな問題となる。これを解決するべく最新鋭国際健康医療支援船に関するエコー型推進原動力、船体構造、医療機器の具体的な在り方について調査研究を行い、その計画を国家プロジェクトとして提言する。今回の大震災により、その建造推進の機運が急速に高まった。また、災害時の実態から得られた知見に基づき、アジアを中心とする国際協力体制の充実化をはかり、安全・安心を希求する国際社会の負託に応えうる国際医療人の育成を行う。

③災害時に有用なデバイス機器開発

 現代生活用品に広く利用され災害時に流出・拡散しやすいあるいは工場・研究所の倒壊や火災などによって飛散する有害化学物質や原子力発電所の事故などにより、浸出や飛散する放射性物質に対する高感度検知デバイスや自己診断が可能なオンサイト型チップの開発と、それらの物質に有効な中和・吸着剤等を開発する。さらに、避難生活に特有の人的密集・衛生度低下等により罹患しやすい感染症(風邪、インフルエンザ、肺炎などの呼吸器感染症やノロウイルス、ロタウイルス感染による下痢や嘔吐、など)について、災害時における電源不足・電波障害等が発生しても早期検出・予防可能なオンサイト型チップ等を開発する。

④災害時に拡散しうる各種有害化学物質が健康に及ぼす作用機構の解明・治療法の開発

 作用機序や健康被害等について既知の報告が少ない閾値線量の非常に低い放射線による確率論的影響(合計の被曝量が増えるに従って影響が出る可能性が高くなること)について調査し、これら疾患の予防・治療法として、特に抗酸化剤とG-CSF の併用による新治療戦略を確立する。災害時に流出・拡散しやすい有害化学物質の毒性検査ならびにそれらに対応する創薬を目指した幹細胞(ES 細胞、とくに原始間葉系幹細胞を使用)・個体レベルでの作用機構を解明する。

(2)インフラ・防災系復興研究プロジェクト —代表:柴山知也教授

東北地方太平洋沖地震津波の被災分析と復興方略研究

研究代表者:柴山知也(理工学術院教授)

 本研究では、全国レベルでの課題として、防災対策の策定において想定されている津波の規模を見直すとともに、想定値に縛られずに、それを超える津波が来襲した場合にも対応可能な避難計画をあらかじめ作成しておくなど、日本全国にわたる防災計画の練り直しを提案し、その方法を考案する。 今回の津波の被災のメカニズムを解明し、今後の防災システムへの提言を行う。その際、既存の湾口防波堤、津波防潮堤、避難ビルなどの効果を検証し、これらの性能をどのレベルに設定するべきかについての結論を得る。また、今後津波来襲が予想される地区での津波対策を提示する。高地への移転、避難ビルの建設などを防災機能強化の方法として検討し、新しい街づくり、漁村づくりを支えて行くための支援システムを提案する。

東日本大震災復旧・復興に向けた環境診断および対策技術の提言

連携研究者:香村一夫(理工学術院教授)

①津波によってもたらされたヘドロを含む堆積物や瓦礫の撤去作業に伴う有害物質を含む粉じんの飛散
②津波によって陸に打ち上げられた船舶の解体作業に伴って発生するアスベストの飛散
③原子炉事故によって大気中に放出された放射性物質の広域拡散
④放射性物質による土壌汚染とそれに伴う農作物汚染
⑤高塩濃度の高レベル放射性物質を含む大量排水
⑥地震に伴う地盤沈下と液状化
⑦津波による土壌の塩水化
⑧災害廃棄物のリサイクル

 これらの困難な課題を解決すべく、大気環境工学,環境化学,水処理工学,資源循環工学,応用鉱物学,廃棄物工学,物理探査,地盤工学,石油工学,素材プロセス工学などの研究者が有機的に連携して、総合的なフィールド調査と多岐に渡る対策技術の検討を行い、東日本大震災からの復旧・復興対策を提言する。

複合巨大クライシスの原因・影響・対策・復興に関する研究

連携研究者:松岡俊二(国際学術院教授)

 本研究は、大震災による福島第一原子力発電所事故を主な対象とし、こうした巨大原子力災害の「原因」・「影響」・「対策」・「復興」という4つのプロセスについて、社会科学と技術工学の観点から学際的・総合的に研究を実施し、今後の日本社会の復興にとって不可欠な政策提言を行う。

 具体的には、原子力災害の「原因」・「影響」・「対策」・「復興」という4局面と、①政治・行政・経営システム、②原子力エネルギー・技術システム、③持続可なエネルギー・技術システム、④地域復興システムという4研究クラスターから、「4×4」のマトリクス研究構造を形成し、課題へアプローチする。

 こうした「4×4」のマトリクス研究構造によって同時並行性と相互関連性を持った総合的リスク・ガバナンス研究が可能となる。また特に「復興」研究においては、従来の「環境政策統合(EPI:Environmental Policy Integration)研究」を発展させ、防災計画(リスクマネジメント)、土地利用計画、エネルギー政策、産業・農業・漁業政策、福祉政策、環境政策などの様々な復興政策を「持続可能な地域形成」に向けてどのような手段・方法で「政策統合」を行うのかを検討し、こうした政策統合の効果的実施を可能とするガバナンスのあり方を明らかにする。

(3)都市計画・社会システム系復興研究プロジェクト —代表:中川武教授

文化遺産から学ぶ自然思想と調和した未来型復興住宅・都市計画に関する総合研究

研究代表者:中川武(理工学術院教授)

 今回の津波の被災地には古来からの文化財建造物がそれほど多く含まれていない。また高台の居住地と海沿いの番(船)小屋をうまく使いこなしてきた古くからの漁村集落の中には、深刻な被害を免れた例も少なくない。何度も大津波が押し寄せている長い歴史的体験の中で、自然と寄り添ってきた人々の知恵が、文化財建造物の立地の考え方や祭りなどの無形文化遺産の楽しみ方の中に安全思想としてしみ込んでいることに、私たちは眼をみはる思いである。文化遺産に象徴される安全かつ創造的に住むための自然との調和思想を、現代的な町づくりのために蓄積されてきた科学的、技術的、経済的システムに繋げることが私たちの研究目的である。

早稲田大学東日本大震災復興支援法務プロジェクト

連携研究者:浦川道太郎(法学学術院教授)

 本研究PJは、大学の法律研究者と実務家が一体となって、東日本大震災の復興過程において発生する解決困難な法的問題に対して調査・研究し、第一線・現場で被災者に対する法的サービスを提供している法律家等に必要な情報、問題解決の指針を提示し、国・行政機関に対して立法提案を含む具体的な提言をすることを目的にしている。東日本大震災の被害の特質である農村漁村の村落の消失から再建の過程で発生する多様な法律問題に柔軟に対応して、適切な解決策を提示することができるであろうし、また、わが国が未だ経験しなかった福島第一・第二原発事故による原子力災害に起因する未知の法律問題に対する解決指針も提示することが可能となろう。

大規模災害への復元力のある新たなグローバル社会システムの再構築

連携研究者:早田宰(社会科学総合学術院教授)

 東日本大震災が阪神淡路大震災と異なる論点は、グローバル化の影響である。自動車産業の国内部品調達が停滞し海外工場で生産中止に追い込まれたこと、海外で日本海産物の購買忌避などがおきている。このような中では、単純に現地を復旧するのではなく、東北ならびに日本の製造業再編、新たな産業クラスターの構築、交通・物流ネットワーク強化、都市機能の再配置などを検討する必要がある。政府、学者、民間の専門家らが双方向で議論し機動的に動くためには、新たな社会システムの構築と計画情報のコミュニケーションと柔軟な法制度が必要である。回復=復元メカニズムをもつグローバル社会システムの設計、被災地のみならずきたるべき東京等他地区の災害にそなえる研究とすることを目的とする。