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早稲田大学 東日本大震災復興研究拠点の設立
─大規模災害からの復興と新社会システムの構築に向けて─

早稲田大学東日本大震災復興研究拠点 責任者
深澤 良彰(早稲田大学理事)

早稲田大学としての取り組み

 早稲田大学は、地震直後に災害対策本部を設置し、学生・校友・教職員の被災状況の把握に努めるとともに「被害状況による学費等の減免」などの緊急対応や節電対策などに取り組んでいる。

 また、緊急対応とは区別し、理事や学術院長の他、学内外の専門家を必要に応じてメンバーに加えた「東日本大震災復興支援室」(室長:鎌田薫 総長)を4月8日に設置し、奨学金制度を中心とした「被災学生の就学支援」、ボランティア活動や義援金などを中心とした「被災地域への支援」、「研究を通じた復興支援」の三つの支援方針を掲げ、多方面にわたり全学的な取り組みを進めている。

 5月6日に設立した「東日本大震災復興研究拠点」は、「研究を通じた復興支援」を全学一体で具体的に活動する1つの核と位置付け、研究活動には、WASEDAサポーターズ倶楽部(※)からの援助も受けて、大学が年間最大2000万円を3年間助成する。

※「WASEDAサポーターズ倶楽部」は、各種事業への財政的支援のため、校友、在学生父母の方々や趣旨にご賛同いただいた社会一般の方々に、毎年度一定額を寄付金として拠出していただき、本学から各種サービスをご提供する制度。

東日本大震災復興研究拠点の設立

 すでに本学では、東日本大震災復興研究拠点の設立前より、研究者個人、グループの自発的な活動、新たな研究チームの形成の検討など、学内随所で復興に向けた多様な取り組みが活発に行われ、これらの一層の進展を促すための全学的な体制整備と支援を急いできた。

 一方、「重点領域研究」という独自の制度を2009年度より実行してきた。この制度は、先進的な学術・研究を通して地球規模の課題解決に貢献するために、全学的な視点で研究者が結集し、本学の「強み」を生かし、「弱み」を「強み」に変え得る研究を「重点領域研究」として設定し、大学が重点的な支援を行うものである。

本研究拠点の設立に当たっては、学内の復興に向けた研究者個人、グループ、組織それぞれの自発的な活動に対し、全学的に推進してきた前記の「重点領域研究」制度を活用して、緊急の学内公募を行い、多様な分野の研究課題、研究者で構成された三つの研究プロジェクトを編成するに至った。

 復興研究という性格上、迅速な初動が求められる研究活動もあるため、短期間での研究課題の選定と研究体制づくりが求められる。これに対し、全学的な合意を得ながら1カ月半という短期間で本研究拠点の設立に至ったのは、「重点領域研究」制度が利用できた点や学内関係者の理解、何よりも、研究者個々の復旧・復興に向けた自発的な活動が大きな原動力となったからと言える。

研究拠点を構成する研究プロジェクト

 本研究拠点は、3~5年を見据えた中長期の研究プロジェクトとして人文科学、社会科学、理工学の分野の研究者が連携・融合し「医療・健康系」「インフラ・防災系」「都市計画・社会システム系」の三つの研究プロジェクト(7研究課題)から構成されている。分野を横断して研究者が連携し研究プロジェクトを編成している点は、総合大学である本学の大きな特長と言える。

 三つの研究プロジェクトは、学術的価値の創出のみならず、学術的知見を活用した復興支援活動により社会的効果を創出すると同時に同様な災害が起きた場合の被害の最小化などにも役立つことを目的としている。

東日本大震災復興研究拠点 研究プロジェクト
①医療・健康系研究プロジェクト:震災復興・先端環境医工科学研究所
研究所長:浅野茂隆(理工学術院教授)
研究課題:大震災がもたらす健康被害の予防へ向けた科学的・社会的対応のためのニーズ調査研究
②インフラ・防災系研究プロジェクト:震災復興・複合災害研究所
研究所長:柴山知也(理工学術院教授)
研究課題:東北地方太平洋沖地震津波の被災分析と復興方略研究
連携研究者:香村一夫(理工学術院教授)
研究課題:東日本大震災復旧・復興に向けた環境診断および対策技術の提言
連携研究者:松岡俊二(国際学術院教授)
研究課題:複合巨大クライシスの原因・影響・対策・復興に関する研究—原子力災害とリスクガバナンス
③都市計画・社会システム系研究プロジェクト:震災復興・自然文化安全都市研究所
研究所長:中川武(理工学術院教授)
研究課題:文化遺産から学ぶ自然思想と調和した未来型復興住宅・都市計画に関する総合研究
連携研究者:浦川道太郎(法学学術院教授)
研究課題:早稲田大学東日本大震災復興支援法務プロジェクト
連携研究者:早田宰(社会科学総合学術院教授)
研究課題:大規模災害への復元力のある新たなグローバル社会システムの再構築

今後の展望

 本研究拠点は、長中期にわたるプロジェクトとして、復興支援に資する研究活動の第一歩を踏み出した。今後、時々刻々と明らかになる被災状況や環境の変化に即し、柔軟に対応していくとともに、復興研究が、学術的知見にとどまらず多方面にわたり復興支援に貢献できるようさらに幅広く重厚なものにしていかなければならない。そのために、学内の研究資金を融通していくと同時に、文部科学省をはじめとする公的機関が進める復興事業への積極的な参画、民間機関との連携強化が不可欠である。

 この大震災により、複雑高度な科学技術や社会システムの上に成り立っている現代社会の豊かさや快適さが自然の脅威で容易に崩れてしまうことを私たちは痛切に思い知らされている。また、わが国への経済や社会に大打撃を与えただけでなく、温暖化対策など地球社会全体に関わることがらへも多大の影響を及ぼすことが懸念されている。

 本学は、本研究拠点の活動を通し、自然と人との関わり方、科学技術や社会システムの在り方などについて深く考察し、進取の精神をもって、被災地域の復興支援と新たな社会システムの構築に寄与していきたい。また、これは一大学のみで成し得ることはできず、研究大学を指向する大学間連携など、ネットワークを形成しながらALL JAPANとして取り組む必要があると考えている。本研究拠点がその一端を担えるよう活動していきたい。

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