東京女子医科大学 脳神経外科 臨床教授
機能性脳外科学部門 部門長
平 孝臣
たいら たかおみ/1988年に英バーミンガム大学脳神経外科に、1991年に蘭アムステルダム大学脳神経外科に留学。日本脳神経外科学会学術評議員、日本脳神経外科コングレス運営委員・国際関係委員長などを務める。テレビ出演、著書多数。2021年8月に『そのふるえ・イップス心因性ではありません』(法研)出版
Q.1 最近、母親から、「手がふるえてしまって困っている」と連絡がありました。食事で箸を使うのも不自由になってきているようです。母のふるえは高齢によるものなのでしょうか?
A.1 ふるえの原因は大きく分けて2つあります。1つは緊張した時や寒さなどからくる生理的な現象としてのふるえで、問題のないふるえです。
一方、ふるえが何かの病気が原因で起きるものがあります。脳卒中などの影響によるものもありますが、代表的なものとしては「パーキンソン病」と「本態性振戦」があります。
Q.2 パーキンソン病は、よく名前を聞きます。どのような病気ですか?
A.2 脳内の黒質にあるドパミン神経細胞の障害により、「動きが緩慢になる」「体のバランスが悪くなる」「何もしていないときに手や足がふるえる」という病気です。パーキンソン病では、うつ病や認知などを発症するケースも見られます。若年性のものもありますが、60歳以上で発症するケースが多い病気です。
Q.3 本態性振戦(ほんたいせいしんせん)はあまり聞いたことがありません。どのような病気ですか?
A.3 ふるえは医学用語で振戦(しんせん)といいます。パーキンソン病は何もしていないときのふるえの症状に対して、何かの動作をしたときにふるえが起こること(動作時振戦)があります。原因はわからないがふるえが起きてしまう病気が本態性振戦です。手のふるえによって、箸やコップが持てない、字が書けないといった日常生活に支障が出てしまう方、仕事に影響が出る方等、高齢・若年問わず、ふるえの症状に悩んでいる方は多くいます。
Q.4 ふるえは治療によって改善はできるのでしょうか?
A.4 ふるえに対しては、最初は薬による治療から開始します。パーキンソン病によるふるえは、ドパミン製剤の処方から始まります。一方で、本態性振戦では交感神経遮断剤や抗てんかん薬が処方されます。ただ、両疾患とも進行性の病気のため、薬の効き目が弱くなったり、効いている時間が短くなったりします。そうなると、手術療法による改善を検討します。
Q.5 どんな手術療法があるのでしょうか?
A.5 ふるえの治療では、脳内の深いところにある視床に対して処置をします。手術は、いくつか種類があります。頭蓋骨に穴を開けて凝固針を刺入し組織を熱凝固するRF(高周波凝固術)。高周波の電気刺激を発生する電極とペースメーカーをそれぞれ頭蓋内と体内に埋め込んでふるえを軽減するDBS(脳深部刺激療法)。頭蓋骨に穴を開けずに、病巣部に多方向から照射した超音波を一点に集めて組織を熱凝固する集束超音波治療(FUS)といったものがあります。中でも注目されているFUSは、患者を麻酔で眠らせず、治療中も医師との会話や、治療効果の確認作業を通して、改善度や副作用を確認しながら治療を行うことができます。最近、公的保険も適用され、高額療養費制度の対象にもなっていますので、受けやすい治療になりました。いずれにしても3種類とも手術ですので、手術に伴うリスク、患者様の体力、見込める治療効果などを考慮に入れながら、脳神経内科や脳神経外科の専門の医師とよく相談し、最善の方法を検討してみるのが良いですね。
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