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日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社
オンライン市民公開講座 もっと知ろう 血栓症と日常生活

脳卒中や、その治療で血液を固まりにくくする薬の注意点をテーマにしたオンライン市民公開講座「もっと知ろう『血栓症と日常生活』」が4月16日に開かれた。山口大学名誉教授の鈴木倫保先生、日本脳卒中協会副理事長の川勝弘之氏、九州医療センター部長の矢坂正弘先生の講演に続き、視聴者からの質疑応答などを行った。(司会は、フリーアナウンサーの安藤幸代さん)

オープニングリマークス

甘く見てはいけない転倒 “Think FAST”キャンペーンについて

鈴木 倫保先生
国立大学法人山口大学名誉教授医療法人綾和会間中病院Think FAST”キャンペーン実行委員長
鈴木 倫保先生

血栓症を予防する抗血栓薬

ろれつがまわらない、言葉や人の名前が出てこない。片側の手足に力が入らない。顔面まひ。激しい頭痛。片目が見えない。視野が欠ける。まっすぐ歩けない。このような症状が突然現れると脳卒中かもしれません。致死率が高く、寝たきりになる疾患としては第一位、介護が必要になる疾患でも認知症に続いて第二位です。寝たきりを防ぐには脳卒中を予防する必要があります。

脳卒中の大きな原因は、動脈硬化や、心房細動から起こる血栓症であるため、これを予防する抗血栓薬を飲む必要があります。抗血栓薬には抗血小板薬と抗凝固薬の二種類あります。抗血小板薬は、血小板の働きを抑えて血液をさらさらにします。抗凝固薬は、血液を固まらなくさせる薬です。

抗血栓薬は、血栓を予防する大事な薬ですが、出血すると血が止まりにくくなってしまいます。ですから、薬の量や回数を自分で変えず、主治医の指示に従って服用することが大事です。

抗血栓薬服用者は、頭をぶつけたら軽傷でも病院へ

高齢者には転倒・転落という問題があります。高齢者の不慮の事故による死亡は、転倒・転落が最も多く、交通事故の3倍にもなっています。

転倒・転落がどこで起こるのでしょうか。東京消防庁の調べによりますと、住宅が半分以上、その中で屋内が約90%ぐらいですので、まず転倒するのは自分の家の中だということをご認識ください。

高齢の頭部外傷者をみると、そのうち31%が抗血栓薬を飲んでいます。この薬を飲んでいると血が止まりにくくなるので、脳が入っている頭蓋内に出血すると血が止まりにくく、頭蓋内の圧力が高くなって亡くなってしまう方もいます。

私たちは「Think FAST」(シンク・ファスト)キャンペーンを展開しています。これは頭にけがをした高齢者を見たら、最初に、抗血小板薬、抗凝固薬を飲んでいるかどうかを調べ、対応をしなさいという意味です。

まず医療界です。軽傷であっても抗血栓薬を飲んでいる方が受診してくる可能性がありますので、速やかに画像診断をしてください。出血を認める場合は軽傷であっても、慎重に神経症状などの観察が必要です。最も大事なのは血を止める作用を回復させることです。

次に患者となる可能性がある皆さんです。抗血栓薬を飲んでいる人が頭をぶつけたら、たとえ軽傷だと思っても、すぐに病院を受診してください。

抗血栓薬には、血を止める作用を回復させる「中和剤」があります。薬剤によって中和剤がそれぞれ違います。お薬手帳や服薬カードを持ち歩いていれば、不慮の事故にあっても、救急隊がその薬を見て中和剤を判断できます。「転ばぬ先の杖」として転倒・転落を予防しましょう。転んだ後の知恵として、「血をさらさらにして血栓ができないようにする抗血栓薬を飲んでいても、中和剤で血止めができます」ということを覚えておいてください。そして「Think FAST」(シンク・ファスト)キャンペーンについてもご理解をいただければ幸いです。

基調講演

脳卒中で困らないために ~経験者から学ぶ~

川勝 弘之先生
公益社団法人 日本脳卒中協会副理事長
川勝 弘之

力が入らない ろれつが回らない 様子見してはなりません

私自身が脳卒中の中の脳梗塞の経験者であり、自分の経験から、脳梗塞に困らないためのヒントをお話しします。

皆さんは「私は今元気だから、これからもずっと元気で健康だ」と思い込んでいませんか。これは正常性バイアス。正常化の偏見といいまして、自分だけは大丈夫だという思い込みです。

私が脳梗塞を発症したのは48歳のとき、2004年9月26日、日曜日の朝4時ごろ、自宅の寝室でした。のどが乾いて水を飲みたいと思い、ベッドから起き上がり、立ち上がろうとしました。そのときに左の腕に力が入らなかったのです。おかしいなあと思いましたが血も出ておらず、どこも痛くない。脳梗塞は頭が痛くなると思われがちですが、実は頭痛はほとんど起きません。止む無く両足で立ち上がろうとしたら今度は左の足がすこんと抜けた感じで、支える床がない感覚のまま左前方に倒れ込みました。正に左半身完全麻痺でした。倒れ込んでいる私に気づいた妻がそばに来て「どうしたの?」と聞きました。私は「左がおかしい」と言おうとするのですが、その言葉が消えていくんです。ろれつがまわらないとよく言いますが、私の場合、言葉が口元まで来ているのに消えてしまい伝わらないという感覚でした。

妻はすぐに当時大学2年生の長男を呼んできて、二人で私を持ち上げてベッドに座らせようとしました。ところがその瞬間、私は立ち上がることができたのです。本当に不思議でした。それを見た妻は「治った。疲れだ。寝てればいい」と言い私もそう思いました。後から知ったのですが、実はこの治ったと感じる状態は、詰まっていた血栓が一時的に溶けて一瞬血流が元に戻っただけだったのです。この状態を一過性脳虚血発作(TIA)と言い、脳梗塞の入り口でした。つまりこのときが人生の岐路でした。

その後長男が、インターネットで調べて「救急車を呼んだ方がいい」と言ってくれたので、救急車で病院に行ったのです。このような症状が出たらすぐに治ると思いがちですが、様子見してはなりません。すぐに救急車で医療機関を受診してください。

私の場合、脳梗塞の原因は、動脈硬化で頸動脈に血の塊、血栓ができて、これが流れて脳に詰まったのではないかと診断されました。

予兆や前兆はありませんでしたか?
人間ドックや健康診断は受けていなかったのですか?

経験した今なら予兆があったら分かります。しかし脳梗塞になるのは人生初体験でした。経験したことがないことが起こるから、予兆があってもそれは分かりませんでした。

私は毎年欠かさず健康診断を受けており、脳梗塞発症の1か月半前には人間ドックを受けています。過去の健康診断の結果から分かりますが、過去5年に血圧が急に上がっています。会社で多忙だったというのもあるんでしょうが、ずっと血圧が高かった。そして直前のドックでは心電図に不整脈の異常が出ました。これについてはすぐに精密検査して特に問題がないという診断が出ました。その他コレステロール値等にも異常はありませんでした。結論として血圧が高いままにしたのが反省点です。

たばこは吸っていましたか?お酒はいかがでしたか?

私は、たばこは吸ったことはありません。お酒はビールが大好きで、毎日大瓶1本くらいのペースで飲んでいました。

治療やリハビリテーションはどんなことを行ったのですか?

現在、脳梗塞の治療法は大きく二つあります。点滴でt-PAと言うお薬を静脈から投与して血栓を溶かす「血栓溶解療法」と血栓を血管から引っ張り出す「血栓回収療法」です。t-PA療法は2005年から始まっていて、私が発症した2004年時にはまだ無い治療法でしたので、私はリハビリテーションに専念しました。

ここからはリハビリテーションの意義について考えたいと思います。脳はいろんな部分で身体の担当を分けています。仮に脳の中に「左腕を動かせ」、「左足を動かせ」という指示を出しているAというエリアがあるとします。このAには心臓から送られた血液が流れ込み、新鮮な酸素と栄養素が運ばれ通常は生き生きと過ごしています。しかしある時、心臓や血管の中で出来た血栓が流れて来て突然脳の中の血管が詰まり、血液がせき止められると、脳は酸欠、栄養素不足となりアップアップ状態になります。この結果「腕を動かせ」といった担当している身体への指示ができなくなります。こうして身体の麻痺が起きます。これが脳梗塞です。

なぜリハビリテーションを行うかというと、Aで行っていた指示をA以外の脳のエリアに教え込むためです。理学療法士が患者さんの体を動かすことで、この部位の動かし方はこうだよ、と脳に教えます。すると、その指示を脳は生き生きとしているBというエリアで体得するのです。やがて動かしたいという意志が働くと、Bのエリアから神経を通じて指示が出て身体が動くようになります。これがリハビリテーションの効果です。リハビリテーションというのは筋トレではなく、神経のやり直しをやっている。脳梗塞は半身が一度、二歳児くらいに戻ってしまうようなものです。Bのエリアに人生経験を再度積み重ねて教え込む必要があるといっても過言ではありません。だから回復には時間がかかるのです。

次に薬です。6年後のMRI画像を見ると、6年たっても傷跡は残っています。この傷跡は薬を飲んでも消えません。私たちが日頃飲んでいるのは治療薬ではなく、再発予防薬です。現在、脳梗塞治療の飲み薬はありません。ですから患者さんはリハビリテーションを続け、かつ再発しないように薬を飲まなくてはいけないということが大事です。

3つの習慣で早期発見を

脳卒中(脳梗塞)経験者として今日ご参加の皆さまにどんなことをお伝えしたいですか?

図1:脳卒中予防十か条(日本脳卒中協会)

図1:脳卒中予防十か条(日本脳卒中協会)

一番伝えたいことは、脳卒中という病気を正しく知ってほしいということです。脳卒中は命も奪いますが、命が助かっても、生活を奪う一大事です。麻痺や失語症などで患者本人だけでなく、家族や同僚、周りの皆さんの生活が一変します。だから、ならないことが重要。

脳卒中は予防できます。日本脳卒中協会では脳卒中予防十か条を定めています。これを指針として予防知識を得てほしいのです。

まず高血圧が最大の危険因子です。糖尿病、脂質異常症や不整脈も注意してください。それからたばこはやめてください。アルコールは控えめに。日頃から適度な運動をすること。太りすぎに注意してください。そして、発症したと感じたらすぐに病院へ行ってください。

次に残念ながら私たちの身体の血管内は、これまでの脂分や塩分の多い食生活で傷んでいます。このため私たちは血管が傷つき血栓ができ、そして脳に詰まる脳梗塞になる可能性があります。だから、その発症に備えることが大事です。(図1)

発症に備えて、身につけたい習慣があります。「ACT-FAST」(アクト・ファスト)です。顔(Face)は、前歯に青のりがついていないか鏡を見る時の表情をして、顔の左右のどちらかがゆがんでいたらおかしいということです。腕(Arm)は、両手の手のひらを上にして前にならえ、の姿勢で目をつぶり、ゆっくり五つ数えます。片方の腕だけが下がると神経指示が届いていない可能性があります。それから、言葉 (Speech)です。「太郎が花子にリンゴをあげた」と話します。脳梗塞発症直前には「ラ行」が言いにくくなるようですから、たろうやりんごが言いにくくなります。日頃きちんと言えている人がある日、ろれつが回らないようになったら異常ありでしょう。このようなチェックを定期的にやっていただきたい。なお自分は大丈夫と思い込んでいますから一人で行わず、家族など複数の同じ人と毎日行ってください。もし一つでも異常があれば、自信をもってすぐに救急車を呼んでほしいと思います。そしてこのときの発症時間(Time)をメモしておくと、治療時間制限のあるt-PA治療などに役立ちすぐに治療に入れますので、医療機関も助かります。

特別講演

人生100年時代 あなたの脳とご家族を守るために “Think FAST”キャンペーン

矢坂 正弘先生
国立病院機構九州医療センター脳血管・神経内科臨床研究推進部長Think FAST”キャンペーン実行委員
矢坂 正弘先生

要介護者の半分に脳血管のトラブル

65歳以上で介護が必要になった主な原因を見ますと、脳血管疾患(脳卒中)が15.1%を占めています。認知症についても、脳血管障害が関係しているものがかなりあります。また脳卒中に罹患していると、高齢による衰弱にもなりやすく、また、もしめまいがあると転倒・骨折も起こしやすい。そう考えていきますと、介護の約半分に脳血管障害が関連しているということになります。(図1)

図1:令和元年版高齢社会白書(全体版)-2 健康・福祉|内閣府

図1:国民生活基礎調査(平成28年)厚生労働省
※熊本県を除いたもの

脳卒中は、脳の血管のトラブルで起こる病気の総称です。血管は管ですから水道管と同じ。水道管のトラブルは、詰まる、破れるということです。脳の血管も詰まったり破れたりすると、脳の組織の一部が死んでしまうのです。

血管が詰まるタイプの脳卒中を「脳梗塞」と呼びます。大きい血管が詰まると、大きい脳梗塞を起こします。また、詰まった血管が早期に再開通して血液が流れると、脳梗塞にならずに良くなる。この状態を一時的に脳の血流が足りないために起こる発作、「一過性脳虚血発作」と呼びます。この場合も放置すると3、4割はそのうち脳梗塞になるので、救急病院を受診することが原則です。

血管が破れるタイプの脳卒中は大きく分けて二つあります。一つは頭の中の細い血管が破れる「脳出血」。そして頭の底の脳に入る手前で血管のこぶ(動脈瘤)ができ、それが破れる「くも膜下出血」が知られています。

脳梗塞を詳しく説明すると三つのタイプがあります。一つは髪の毛みたいに細い血管が詰まる小さな脳梗塞、「ラクナ梗塞」と言い、症状が軽いのが特徴です。

次に首などの血管が動脈硬化になり、そこで血栓ができて脳内の血管に詰まると、その領域に脳梗塞を起こします。これを「アテローム血栓性脳梗塞」と言います。血圧が高い、糖尿病、コレステロール、喫煙などが大きな原因です。そして最も注目したいのは「心原性脳塞栓症」です。心臓の病気によって心臓内に血栓ができ、その血栓が流れて頭の血管で詰まって起こる脳梗塞です。

心臓の病気の代表は、心房細動という不整脈です。私たちの心臓には四つの部屋があり、上にある二つの部屋を心房と呼びます。心房では1分間に70回程度の電気刺激が規則正しく起こり心臓が収縮しますが、この電気刺激がバラバラになって、200回、300回くらいになる。これが心房細動です。そうすると心臓の動きが悪くなって心不全を起こしたり、動きの悪い部屋で血液が固まって血栓ができ脳梗塞の原因になったりするということが知られています。この心房細動、気づく方法があります。自分で脈をとってみることです。左手の親指の付け根に右手の人差し指、中指、薬指の先を置く。不規則であれば、心房細動が起こっている可能性があるので、心電図検査をすることが重要です。

心房細動による脳梗塞は予防できます。血液を固まりにくくする薬、抗凝固薬を使います。抗凝固薬にはビタミンK拮抗薬と直接経口抗凝固薬という2種類があります。

頭をぶつけたらすぐに医療機関を受診

抗血栓薬を服用中の注意点を見ていきましょう。まず、60歳以上の方は転倒しやすいということが明らかになっています。そして転倒する方の半分以上が屋内です。屋内では、敷居や畳のヘリ、お風呂場など、日常にある場所で転倒するということがよく知られているので注意が必要です。

超高齢化社会の中で高齢者が転倒して頭をけがすることがよく起こっています。その3割が抗血栓薬を飲んでいて、出血が止まりにくいため重傷になることがあります。

「Talk & Deteriorate」という言葉を使います。Talk=話す。転倒直後は元気でお話できる。ところが1、2時間たってからDeteriorate=悪化する。つまり血液サラサラの薬を飲んでいるので、頭を打つと少しの出血がなかなか止まらない。結果として、徐々に悪くなっていくのです。

このような状態を避けるために、患者とその家族にしてほしいことが三つあります。

一つ目は、抗血栓薬がどういう薬かを理解してくださいということです。血を固まりにくくして血栓ができるのを予防する薬ですので、量や回数を勝手に変更しないでください。

次に、頭をぶつけたらすぐに医療機関を受診してください。周りの方も少しおかしいんじゃないかと思ったら、医療機関を受診するように誘導してください。

三つ目は抗血栓薬の中には抗血栓作用を打ち消す中和剤がある薬もあります。自分が飲んでいる抗血栓薬に中和剤があるかどうか確認して知っておくということも大切です。そして服用している薬の名前を自分自身や家族が覚えておくようにする。と言ってもなかなか暗記するのは難しいので、急なことが起こっても医療関係者がすぐ分かるようにお薬手帳やそのコピーを持っておくことです。

最後に、視聴者の皆さんに一言ずつメッセージをいただきたいと思います。

鈴木

転ばぬ先の杖と転んだ後の知恵。杖と知恵が大事です。まず杖の予防です。脳卒中を予防しましょう、転倒・転落を予防しましょう。でも不幸にして抗血栓薬を飲んでいて、転倒した場合は、知恵が必要です。今日の公開講座を思い出して、すぐに病院に行って検査を受けてください。万が一出血したら中和剤を出していただくなど対処方法があります。今日の話を復習していただければ幸いです。

川勝

今日の講演でたくさんの知識を得たと思います。まずは出来ることから実践して欲しいです。次に良い話だったと思ったことをご家族、友人、同僚、ご近所さんなどに伝えて欲しいです。知識が広がれば予防意識も高まると思います。その結果、脳卒中にならない人が一人でも多く増えればよいと思います。どうかよろしくお願いいたします。

矢坂

抗血栓薬は、飲まずに脳梗塞を起こすリスクと飲んで出血を起こすリスク、どちらが大きいのか考えていただきたい。これは明らかに飲まずに脳梗塞を起こすリスクの方が高い。だからこそ抗血栓薬を飲んでください。それから頭を打ったときには、ちょっとでもおかしいなと思ったらすぐに病院で受診する。我慢することはよくないので、早期に病院で受診してください。