
血栓症を予防する抗血栓薬
ろれつがまわらない、言葉や人の名前が出てこない。片側の手足に力が入らない。顔面まひ。激しい頭痛。片目が見えない。視野が欠ける。まっすぐ歩けない。このような症状が突然現れると脳卒中かもしれません。致死率が高く、寝たきりになる疾患としては第一位、介護が必要になる疾患でも認知症に続いて第二位です。寝たきりを防ぐには脳卒中を予防する必要があります。
脳卒中の大きな原因は、動脈硬化や、心房細動から起こる血栓症であるため、これを予防する抗血栓薬を飲む必要があります。抗血栓薬には抗血小板薬と抗凝固薬の二種類あります。抗血小板薬は、血小板の働きを抑えて血液をさらさらにします。抗凝固薬は、血液を固まらなくさせる薬です。
抗血栓薬は、血栓を予防する大事な薬ですが、出血すると血が止まりにくくなってしまいます。ですから、薬の量や回数を自分で変えず、主治医の指示に従って服用することが大事です。
抗血栓薬服用者は、頭をぶつけたら軽傷でも病院へ
高齢者には転倒・転落という問題があります。高齢者の不慮の事故による死亡は、転倒・転落が最も多く、交通事故の3倍にもなっています。
転倒・転落がどこで起こるのでしょうか。東京消防庁の調べによりますと、住宅が半分以上、その中で屋内が約90%ぐらいですので、まず転倒するのは自分の家の中だということをご認識ください。
高齢の頭部外傷者をみると、そのうち31%が抗血栓薬を飲んでいます。この薬を飲んでいると血が止まりにくくなるので、脳が入っている頭蓋内に出血すると血が止まりにくく、頭蓋内の圧力が高くなって亡くなってしまう方もいます。
私たちは「Think FAST」(シンク・ファスト)キャンペーンを展開しています。これは頭にけがをした高齢者を見たら、最初に、抗血小板薬、抗凝固薬を飲んでいるかどうかを調べ、対応をしなさいという意味です。
まず医療界です。軽傷であっても抗血栓薬を飲んでいる方が受診してくる可能性がありますので、速やかに画像診断をしてください。出血を認める場合は軽傷であっても、慎重に神経症状などの観察が必要です。最も大事なのは血を止める作用を回復させることです。
次に患者となる可能性がある皆さんです。抗血栓薬を飲んでいる人が頭をぶつけたら、たとえ軽傷だと思っても、すぐに病院を受診してください。
抗血栓薬には、血を止める作用を回復させる「中和剤」があります。薬剤によって中和剤がそれぞれ違います。お薬手帳や服薬カードを持ち歩いていれば、不慮の事故にあっても、救急隊がその薬を見て中和剤を判断できます。「転ばぬ先の杖」として転倒・転落を予防しましょう。転んだ後の知恵として、「血をさらさらにして血栓ができないようにする抗血栓薬を飲んでいても、中和剤で血止めができます」ということを覚えておいてください。そして「Think FAST」(シンク・ファスト)キャンペーンについてもご理解をいただければ幸いです。