難病や慢性疾患などで長期的な治療・療養生活が必要な子どもたちは国内に約25万人いるとされています。「Being ALIVE Japan」では、日常生活で制限されがちなスポーツに安心して取り組み、仲間との出会いの機会を提供しようと、治療や体調などの事情に合わせた様々なプログラムを用意。大学やプロのチームへの入団体験を通じて成長を育む「入団プログラム」、入院中でも運動に親しめる「病院プログラム」、今回のように地域社会でチームスポーツを通して絆を深める「地域プログラム」の3本柱で活動を展開しています。
スポーツキャンプは1泊2日の日程で行われ、兵庫、大阪、奈良から参加した9家族がフラッグフットボールやラクロス、ラグビーなどに初挑戦しました。「Being ALIVE Japan」の北野理事長、小野薬品工業の辻󠄀中聡浩取締役専務執行役員による挨拶の後、プログラムがスタート。趣旨に賛同した関西学院大学の運動部やジャパンラグビーリーグワン「レッドハリケーンズ大阪」の選手らが手ほどきし、チームに分かれてミニゲームを実践。最初は戸惑いがちだった子どもたちも、徐々に息のあった動きでボールをつなぎ、円陣やハイタッチで互いのプレーを盛り上げるまでになりました。夕食を囲むころには昔からの友達のようにすっかり打ち解け、そばで見守る家族も生き生きとした姿に目を細めていました。
スポーツで汗を流した後には、小野薬品工業による薬のワークショップ「薬のヒミツ・マナブ」が開かれました。子どもたちは白衣姿で実験に臨み、錠剤が液体の中でどのように溶けるかを観察しました。また「薬は正しく服用することが大切」「病気を治療する新しい薬をつくるため、研究者たちが日々奮闘している」などの話に、子どもたちは熱心に聞き入っていました。参加した子どもたちからは「実験が楽しかった!」「薬のことがよく分かった」との声が溢れていました。
初めて挑戦する競技も多い今回のキャンプを、夏休み前から指折り数えて楽しみにしていた陽翔君。家族と一緒にプレーするフラッグフットボールでは、積極的に声がけを実践。フラッグを取ろうと近づくお父さんをかわし、ボールを見事にゴールまで運びました。
陽翔君は「お父さん、めっちゃ本気やった。いつもは一緒にスポーツをすることがないので、すごく嬉しかった」と大喜び。母親の弥優さんは「いろんな病気を乗り越えてきた友達と時間を共にして、自分ひとりじゃない、仲間はいっぱいいるって励まされたと思います」と優しい眼差しを向けていました。
今回が初めての家族旅行になった理恩ジェイコブ君。ホテルに泊まること自体も楽しみで、ワクワクと胸を躍らせていたといいます。「家族でのお泊まりがとても嬉しい。新しい友達といろんな話もできた。いっぱい体を動かしたから、ご飯がいつもよりおいしかった」と満面の笑みを見せてくれました。
母親の幸子さんは「家とはまた違った嬉しそうな表情を見ることができ、親としては感謝しかありません。できることに光を当て、体験を積み重ねることで、自信につなげていってほしいです」と感無量の様子でした。
妹の木乃実さんと初めて姉妹でイベントに参加した瑚青さん(写真右)。花火大会などのレクリエーションでは、本気になって一緒に遊んでくれるボランティアら大人と大はしゃぎ。「いろんな人が優しくしてくれて、妹と一緒に思いっきり楽しめた」と目を輝かせていました。
母親の薫さんは「ラクロスなど初めての競技にも積極的で、みんなで何かをすることが大好きなんだなと改めて感じました。スタッフの方々との交流も楽しみにしていたようで、本当に嬉しそうでした」と話していました。
私自身、5歳で原因不明の難病と診断され、15年間にわたり入退院を繰り返しました。周囲が常にできることにフォーカスしてくれたおかげで、「病気だから」と可能性に線を引かずにすみました。活動の原点はアメリカで入院中の子どもたちがスポーツをする取り組みに出会ったことです。できないプレーは当然ありますが、周囲にサポートを求めるなかでコミュニケーション能力が養われ、仲間ができることで自信を深めていく姿を見て、スポーツは病気の子どもにとっても可能性や選択肢を増やす力があると感じました。
病気でもできることはたくさんあるという価値観にマインドセットできれば、治療への向き合い方が変わってきます。大人になった時、最初に語りたくなる体験が青春だと思います。病気でもかなえられる青春づくりを通して、子どもたちが治療の先にある夢を信じ、生き生きと輝けるためのきっかけをつくっていきたいです。
医学研究科
発生成育小児医療学
活動の広がりに期待
子どもの仕事とは「食べる、寝る、遊ぶ、笑う」です。目いっぱいこれらの仕事をさせてあげると、子どもたちはすこやかに育ちます。なかでも「笑う」はとても大切な仕事です。小児科病棟などにスポーツ選手やボランティアの人たちが訪問してくれると、単調な入院生活に変化やリズムができ、子どもたちは元気と勇気をもらえます。非日常の楽しい時間は病気を忘れさせてくれ、治療に前向きな気持ちをもたらします。一方、退院後も通院や薬の服用が必要な子どもたちも少なくありません。今回のような活動がさらに広がり、子どもたちが自分の病気のことを当たり前に話せる社会が訪れることを期待します。
(いとう・しゅういち)横浜市立大学医学部を卒業後、国立成育医療研究センター腎臓科医長などを経て、横浜市立大学大学院医学研究科発生成育小児医療学(小児科学)主任教授に就任。小児の腎臓やリウマチ疾患を専門とし、薬剤開発や治療法の確立に力を注ぐ