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長崎大学卓越大学院プログラム
オンラインで結ぶ日英公開シンポジウム2022


「現在進行形の新興感染症COVID-19
~オミクロン株と展望、
試される国際社会の連携~」


日時

2022年3月6日

発信会場

エルガーラホール多目的ホール
福岡市中央区天神1−4−2

オンライン開催

福岡〜英・ロンドン〜豪・メルボルン〜フィリピン・マニラ〜仙台〜京都〜東京〜長崎を結んで

国立大学法人 長崎大学

長崎大学は3月6日、福岡市のエルガーラホールを発信会場に、ロンドン、メルボルン、マニラ、仙台、京都などをオンラインで結んで「現在進行形の新興感染症COVID-19〜オミクロン株と展望、試される国際社会の連携~」をテーマに、日英公開シンポジウム(同時通訳付き)を開催しました。日本医学ジャーナリスト協会西日本支部が共催し、796人(日本語593人、英語203人)が視聴参加しました。7日には501人(英語のみ)が視聴参加し、分科会を行いました。医事ジャーナリストの大西正夫氏がシンポジウムをレポートします。

長崎大学感染症疫学専門家が取りまとめたレポートも こちら から確認できます。(文責 遠藤彰)


座長

ロンドン大学
衛生・熱帯医学大学院教授
 シュンメイ・ユン氏

長崎大学大学院
熱帯医学・グローバルヘルス研究科
副研究科長・教授
 有吉紅也氏(福岡・発信会場)


プレゼンター

ロンドン大学
衛生・熱帯医学大学院教授
 ジョン・エドモンズ氏

東北大学大学院
医学系研究科微生物学分野教授
 押谷 仁氏

メルボルン大学教授
 キム・マルホランド氏

京都大学大学院
社会健康医学系専攻長、医療経済学分野教授
 今中雄一氏

フィリピンの国立感染症専門病院
サンラザロ病院医師
 リア・サヨ氏


2020年1月に感染例が初めて確認された新型コロナウイルス(COVID-19)によるパンデミックは、一体いつ収束に向かうのだろうか。ワクチンの開発・普及や、臨床現場での治療実績を手にしつつある中、新たな変異株の出現で世界各国の社会・経済的側面も含めたコロナ対応が多様化している。昨年3月の前回シンポジウムに引き続く今回、新たな視点から国内外の専門家による報告と討議が行われた。そのエッセンスを紹介する。

医事ジャーナリスト(元読売新聞調査研究本部主任研究員) 大西正夫

開会スピーチ

ワクチンのブースター接種 “出口”議論に道開くか
各国の取り組みに多様性 将来の備え

有吉紅也氏

シンポジウム全体の運営を統括した有吉紅也・長崎大学熱帯医学・グローバルヘルス研究科教授は、開催の狙いについて、①ワクチンの1回・2回後の複数回(ブースター)接種が世界各国で行われた成果を社会の「進化」と捉え、出口の議論を始めることが可能となった②世界各国の取り組みが以前にもまして多様性を帯びている③将来のパンデミックに向けた備えについての議論――の三つのポイントを挙げた。


第1部

【基調講演】

「日本で、世界で何が起きているか検証する」

ジョン・エドモンズ氏

ロンドン大学
衛生・熱帯医学大学院教授

押谷 仁氏(仙台)

東北大学大学院
医学系研究科微生物学分野教授


都市封鎖で自宅隔離の英国 家庭内感染で感染拡大
明確な戦略に欠けていた一面

ジョン・エドモンズ氏

前回も講演したジョン・エドモンズ教授(ロンドン大学、数理統計学者)は、パンデミック出現まもない20年3月から21年までに計3回実施されたロックダウン(都市封鎖)を取り上げ、解除された後の対応にも問題があったと指摘。経済再生や学校再開を理由に厳しい規制緩和の後で、市民層の間にストレスからの解放や緩みが出て感染数の急上昇につながったと述べた。

英国では感染が判明しても自宅隔離を中心としたため、家庭内感染や入院した高齢者を早く退院させた結果、高齢者施設を軸に拡大していった状況もあったという。その点、日本は入院隔離するので、感染拡大を防ぐ“隔離対策”がうまく機能したと述べた。英国では、何をすべきかが定まらず、長期的で明確な戦略に欠けていたことにも言及した。


日本では自発的協力を基本
無症候感染者の存在 追跡調査中に拡大させる要因に

押谷仁氏

もう1人の演者である押谷仁・東北大学教授(ウイルス学)は、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会委員などを務める感染症対策専門家でもあるが、「私たちは封じ込めはしなかった」と強調。「あくまでもボランタリーベースのお願いだったが、皆さんが従ってくれた」とも述べた。一方で、将来的には法律を整備して強制力を備えたロックダウンの検討も課題になるだろうと付け加える。

押谷教授はCOVD-19自体の特異性に触れ、同じコロナウイルスの仲間であり、2003年に海外で感染流行したSARSウイルスとの間に疫学的な違いがあることを強調した。重症化しやすく、死亡率が高いSARSに比べ、COVID-19は無症候のままが多い。そのためPCR検査の結果を待たねばならず、追跡調査を続ける間にも感染が広がっていく。

教授は、未知のウイルスであったCOVID-19 が登場した第1波での感染者死亡率(致死率)は5.43%で、第4波の昨年3月~6月の死亡率が1.88%、現在のオミクロン株が主流を占める第6波は0.17%と大幅な低下傾向にあるとも指摘した。


水際で日英対応異なる 日本の追跡・隔離は効果的

シュンメイ・ユン氏

共同で座長を務めたロンドン大学のシュンメイ・ユン教授は、「流行初期に水際で日本と英国の対応が異なっていた。日本の追跡・隔離政策は効果的であった」とコメントし、もう一人の座長・有吉教授も「日英で何が違っていたのかよく分かった」と言葉を継いだ。


【講演】

WHOの視点
キム・マルホランド氏

メルボルン大学教授

日本の公衆衛生
今中雄一氏

京都大学大学院社会健康医学系専攻長、医療経済学分野教授

フィリピンの病院から報告
リア・サヨ氏(マニラ)

フィリピンの国立感染症専門病院 サンラザロ病院医師

このセッションでは、豪メルボルン大学のキム・マルホランド教授(WHO新型コロナワクチン諮問委員)、今中雄一京都大学大学院教授、フィリピンの国立感染症専門病院であるサンラザロ病院のリア・サヨ医師の3人が、それぞれ「WHOの視点」、「日本の公衆衛生」、「フィリピンの病院から報告」と題し講演した。


WHOの緊急時のワクチン対応

キム・マルホランド氏

マルホランド教授は、WHOの緊急時のワクチン対応リスト「WHO Emergency Use Listing」(EUL)を示し、全世界で8種類のワクチンがそのリストに収載されている現況を解説した。その中で、世界51カ国で使われているにもかかわらず、ロシアのスプ―トニクワクチンがリストになぜ入っていないのか、教授自身も分からないと述べた。

これまでのワクチンに関して成績を付けるとすれば、開発面ではかなり好調なのでA++。だが、全体評価ではまだまだのCレベル。配分にいたってはD評価とした。標準化された尺度がなく、例えば子どもへの接種がまちまち過ぎるなどといった理由を挙げた。


国連に災害危機管理フレームワーク設置を提言

今中雄一氏

医療経済学者として知られる今中教授は、コロナ危機に際しクロスボーダー型協働社会システム構築のために、国連が戦略的な「災害危機管理フレームワーク(DRMF)」を設けることが必要だと提言した。その重要なキーワードとして、「だれ一人取り残されないきょうじんな社会」を挙げる。

その視点から、健康、経済、行動、政策を包摂した統合的社会システムにより、コロナ禍のようなヘルス・クライシスに対処しなければならないと結んだ。


世界でも類を見ない長さのロックダウン実態を報告

リア・サヨ氏

サヨ医師は、人口が約1億1千万人のフィリピンで、累計感染者が約366万人(3月3日時点)に上り、世界でも類を見ない長さのロックダウン(コミュニティ封鎖)が続いた実態を報告。この間多くの一般病床をコロナ病床とし、外来患者のためのトリアージシステムも採り入れている。

その結果、2019年に約4500人だった麻疹の入院患者が21年は1人、デング熱も同じように約3300人から141人に激減させ、コロナ診療に特化せざるを得ない状況を報告した。国民の間に経済的格差がある中で、同じレベルのヘルスケアを受けられることも課題と指摘。


第2部

ラウンド・テーブル・ディスカッション


シンポジウムのオンライン参加者から寄せられた質問や、共同座長からの問題提起で討議が行われた。その中から要点のみピックアップした。


①自然感染による免疫とワクチン接種

エドモンズ教授

感染が始まった当初、免疫が獲得されている人は全くいなかった。

マルホランド教授

接種しても時間経過とともに抗体レベルが下がって感染はするが、自然感染での免疫獲得とワクチンはコンポジット(重ね合わせ)の関係にある。ワクチンを接種していれば、感染しても死亡例は大幅に減るだろうから。

サヨ医師

フィリピンでは自然感染で抗体が得られている。人口の多くがそうだ。加えてワクチン接種者、回数も増加し、国民の半数以上に実施済み。


②今後の行方—―コロナ禍の“出口”はあるのか

押谷教授

難しい質問だが、今のオミクロン株は続いている状態であり、新たな変異株が出てくるかもしれない。パンデミックの終焉にはデコボコ道が続く。COVID-19が季節性インフルエンザのようになると言われているようだが、オミクロン株であってもそれより重症度が高い。

マルホランド教授

今後もいろいろな変異株が出てきて、問題は続くと見るべきだ。

エドモンズ教授

全く免疫がなかった2年前から、コロナワクチンの登場で今は免疫ができたステージに変わっている。世界中にワクチン供給が望まれる。


③リスク・コミュニケーション

今中教授

日本は感染を防ぐ「3密」など、結果的に良かったが、もっと多方面で取り組むべきだ。

サヨ医師

フィリピンではリスク・コミュニケーションの考え方の浸透に努力しているが、情報のハンドリングや学校教育の場ではまだまだだ。

マルホランド教授

オーストラリアではリスク・コミュニケーションを欠いたため、感染が広がった。


④今後の備え――将来像

今中教授

コロナから全く自由になることはないと強調したい。医薬品やワクチンに頼る状況は続く。感染症対策がシステムとして機能するためには学界のタテ割り主義をなくすことが大事だ。

押谷教授

次のパンデミックが出現してもいいように準備、体制を整えておくこと。広範な感染力を持つ新型インフルエンザ・パンデミックにも注意したい。

マルホランド教授

今回のパンデミックに対するWHOの役割・体制が弱体化しており、あるべき姿に戻さなければならない。国家主義にとらわれず、グローバルで公平な対応、対策が全世界で求められている。


シンポジウムを取材して

日・英・豪・比の5人の演者、日英2人の共同座長による3時間20分に及ぶシンポジウムは、片時も目と耳を外せない濃密な内容に終始した。

企画運営の統括責任者である有吉紅也・長崎大教授が開会スピーチで挙げた3つのポイント――①出口議論開始の可能性②世界各国の取り組みの多様性③将来への備え、の各論点も講演・ディスカッションで的確に論じられた。

その中で、②に関わる問題点として、英・比の2人の女性が経済・社会・文化にわたる格差の解消を強く主張したことに共感した。座長を務めたロンドン大教授のシュンメイ・ユン医師(小児科医)は,低所得や不十分なヘルスケアにおける格差問題拡大の状況がコロナ禍で明らかになったとし、グローバルレベルでのアンバランス是正を強調した。

これを受け、「公衆衛生の役割がますます大きくなっている」(押谷教授)、「教育の格差、高齢者層に目立つデジタル格差」(今中教授)と続いた流れに、このシンポジウムの進取性が表れていた。

地球規模での災禍であり続けているCOVID-19の感染拡大と縮小再生産は、一体いつまで続くか。欧州の一部で最近、特定の地域に限定される「エンデミック」に移行(格下げ?)を、との声も聞かれる。

しかし、オミクロン変異株は今も変異を続ける様相を見せ、医学的な謎の部分は次から次へとにじみ出てきている。危機管理と現状改革の必要性も今さらながら浮き彫りにされた今回のシンポジウム。時宜を得たもの、と改めて得心できた。

(大西正夫)

主催

長崎大学

共催

日本医学ジャーナリスト
協会西日本支部

後援

英国総領事館、
一般社団法人日本熱帯医学会

協賛

シオノギ製薬株式会社、
シスメックス株式会社