三菱みらい育成財団は、三菱グループ創業150周年の記念事業として2019年10月に「未来を切り拓く次世代人材の育成」を目的に設立されました。全国の高等学校、大学、NPO法人などの教育活動を支援するために、三菱グループ25社が10年間で100億円を拠出し、5つのカテゴリーの教育プログラムに助成しています。また、女子高校生を対象としたオンラインセミナー「RIKEI BLOSSOM」の開催や、助成先同士の交流会を実施し、より良い未来に向けての交流の場づくりも積極的に行っています。



助成先所在地マップ



 「RIKEI BLOSSOM」は理系の道を志す女子高校生たちに社会で活躍する将来像を思い描いてもらうために、三菱みらい育成財団が2022年からオンラインで開催しているセミナーです。2024年7月13日に開催された「第3回 理系ブロッサム」には、パネルトークで、宇宙飛行士の山崎直子さんと琉球大学工学部教授の玉城絵美さんが出演しました。ワークショップには、「物理」「化学」「数学」「機械」「建築」「生物」など様々な理系分野出身の三菱グループの女性社員が参加し活発なディスカッションを行われました。






山崎 まず、理系に興味を持って、そして自分から行動に移して、私たちの話を聞きに来てくれたこと。とても素晴らしく、嬉しく思います。私が宇宙に興味を持ったのは、本当に小さな頃で、「大人になったら、みんなスペースコロニーに住んでいるのかな?」なんて考えていました。高校は女子高で、文系と理系が半々くらいだったので、「理系に女性が少ない」というイメージはありませんでした。また、帰国子女のクラスメイトと接するうちに、海外の文化にも興味を抱くようになりました。こうした色々な要素が、後になって振り返ると、点と点が線になるように今につながっているような気がしています。
玉城 私が理系を志したきっかけは、英語が苦手だったことです。ただ、人間とコンピューターの距離を縮める“ボディシェアリング”に対して明確な興味があったので、大学で工学系に進みました。学生時代は引きこもり気味だったのですが、メタバース空間で研究ができるのも理系の良さかもしれません(笑)。
山崎 今、社会全体で理系に進学する女性を後押ししようという動きが活発になっています。企業側からも「理系の女性を採用したい」という声が多くあり、みなさんの活躍を社会が待ち望んでいます。ですから、理系の女性が少ないのはリスクではなく、むしろチャンスと考えてもらっていいと思います。
玉城 社会の生産性というものは、さまざまな視点が入ることで上がっていきます。文系、理系、アート系といった学術的な分野はもちろん、さまざまなジェンダーの人々がバランスよく連携することが大切。ですから、みなさんの活躍が社会の明日につながっていくはずです。



山崎 国際宇宙ステーションにはロシアの方が多いので、宇宙飛行士を目指すのであればロシア語が必修です。ただ、どこがというより、まず異文化に触れたり、興味を持つことが役立つと思います。
玉城 付け加えるなら、母国語である日本語を深めてほしいと思います。なぜなら、論理的思考を身につけるためには、国語の理解度が重要だからです。



玉城 パソコンの父と言われる計算機学者、アラン・ケイの言葉に「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」というものがあります。未来を発明できるのが、理系の醍醐味です。また、同じ研究でも、大学と企業の研究では、異なる面白さがあります。大学の場合は、多くの知見が集まり、広がっていくことで、世界が変わっていく様子が見える。企業の場合、ユーザーの反響とともに、生活様式が変わり、文化が変わっていく。最終的には、人間の考え方そのものが変わっていく。そうしたダイナミズムを感じることができます。
山崎 理系というのは表現のひとつだと、私は考えています。ものをつくったり、数字や数式によって夢や思いを表現したりしながら、科学のフロンティアを少しずつ切り拓いていく。これは何にも代えることのできない喜びです。



玉城 大切なのは、得手不得手よりも、長く続けられるかどうかです。迷っているときは、続けられるかどうかをひとつの基準にするといいと思います。得意でもワクワクしなかったり、明確な目標がなければ続きません。それに、学習する分野は途中からいくらでも切り替えられます。
山崎 振り返ると自分も色々と悩んでいました。でも、一度決めたらそれがすべてではありません。世の中はどんどん変わっていきます。ですから、後から振り返って良かったと思えるように、自分で道をつくるくらいの気持ちで進んでください。応援しています!







苦手なことでも、チャレンジしてみよう


   東京海上日動火災保険
  久下 遼子さん


 入社5年目の久下遼子さんは、現在、営業やマーケティング手法の研究・開発に携わっている。
「もともと経済に興味があったけれど、数学の教員にもなりたくて、大学の進路選択は迷いました。それで調べてみたら、理工学部の管理工学科だと経済も学べることを知り、理系を選択したんです。大学で学ぶ経済はすごく楽しくて、金融業界に就職しました」 大学で学んだ知識に加えて、システム関係の実践的なスキルを職場で身につけた。そんな久下さんのキーワードは、「人に相談する」。
「迷ったときは、いろんな人に相談したり、話を聞いたりしてみると、自分が知らなかった可能性や進路が見えてきます。社会人になってからも、周りの人は助けてくれますし、学ぶ機会はたくさんあるので、苦手な教科があっても、とりあえずチャレンジが大切です」



“ものづくり”は、理系の醍醐味


   三菱重工業
  渡部 愛子さん


 入社5年目の渡部愛子さんは、理工学部機械工学科出身。現在、肥料プラントの配管設計に携わっている。「入社2年目にバングラデシュの肥料プロジェクトの資材業務を担当することになり、3年目に現地に赴任しました。英語で海外の技術者とコミュニケーションが取れたときには、すごく嬉しかったです」“ものづくり”は理系の醍醐味のひとつ。「自分が設計したものが実際に目の前に出来上がったときは、やりがいを感じます。プラントを人体に例えると、配管は『血管』のようなもの。そうした私たちの生活に欠かせないものをつくりだせるのが、理系の仕事の大きな魅力だと思います」



理系に進むと、人生の選択肢が増える


   キリンホールディングス
  桑場 潮音さん


 入社4年目の桑場潮音さんは、大学院で生命科学研究科を修了後、職場でプラズマ乳酸菌の研究やプロモーションに携わっている。
「生まれつき病弱な兄がいて医療に興味があったのですが、医学部への進学は難しくて悩んだとき、医師以外でも健康を支える道はないかと理学部の生物学科に進みました」
 視野を広げることで、夢を実現する選択肢が増えると桑場さん。
「文系への就職は珍しくないので、理系は選択肢が増えやすいと思います。同じ理系の中でも、専攻を変えていくこともできます。なにより社会人になってからも学ぶことがたくさんあるので、基礎となる論理的思考が身につくのが、理系の強みだと思います」



文明や文化の発展に立ち会える仕事


   三菱ガス化学
  渡辺 理紗さん


 入社6年目の渡辺理紗さんは、大学院の理工学研究科で分子物質化学を専攻し、現在は脱酸素剤の研究・開発に携わっている。
「両親が化学系の研究職で、その影響が大きかったです。特に化学は、新しい物質を生み出すことのできる分野。そこにすごく興味がありました」
 子どものころの興味を深堀りした結果が、いまの仕事にそのままつながっている。
「文明や文化は、科学技術の進歩と密接につながっています。理系職は、そうした社会の大きな発展や変化を生み出せる可能性がある仕事。私もこれから新しい製品を開発して、その変化を生み出していけたらと夢を抱いています」








仕事でも、数学も物理も化学も
ちゃんと使います


株式会社 三菱UFJ銀行
 コーポレートバンキング企画部 企画グループ 調査役

笠原 希美さん


  当行子会社の経営管理チームに所属し、リース会社2社を担当しています。決算関係だけでなく事業計画などにも関わり、銀行のお客さまにどうアプローチしたらよいかを一緒に考え、時には同行訪問をするなど、業務推進のサポートをしています。銀行には、お客さまの事業に熱く思いを寄せ、それを金融としてサポートできるよう取り組んでいる人が多いと感じています。私は、文理選択では、特に生物を追求したいと思って理系を選び、大学進学にあたっては、さらに学びたい分野の農学部を選びました。生物の考察授業などで影響を受けた“探究心”は、今も仕事を突き詰める原動力になっています。理系に進んでも、学んだ分野の仕事にこだわらなくていいと思います。高校生の皆さんには、今を大事に、視野を広げて、未来はたくさんある、ということをお伝えしたいですね。




理系出身だからこそ
活躍の場はたくさんある


三菱マテリアル株式会社
 イノベーションセンター 開発Cプロジェクト

若松 真理子さん


  入社して6年間、主に耐火プラスチックの研究開発に携わっています。耐火プラスチックは非常に燃えにくく、炎で溶融変形しにくい新素材です。仮説を立て、実験と考察を繰り返す日々は「前例のないものを創るという挑戦」であり、毎日ワクワクしています。高校時代、好きなことを突き詰めた結果、病院で働くことと、研究者になることに憧れを抱き、どちらの道にもつながる薬学部に進みました。大学の研究室で新規医療用麻薬の有機合成研究を3年かけてやり遂げた経験は研究者としての支えになっていますし、研究の楽しさを実感し、この道に進む原動力になりました。皆さんもまずは将来の自分を仮説的に思い描いて楽しそうだと感じる方へ進んでください。進学先で好きなことに精一杯取り組めば、それまで思いもよらなかった分野へと続く新たな道が見えてくると思います。




「苦手」が理由で「好き」を
諦めるのはもったいない


株式会社ニコン
 ヘルスケア事業部 技術統括部 設計部 バイオ技術開発課

尾野 里穂さん


  私は、脳の研究などに用いる最先端の顕微鏡を開発しています。期待したデータが取れた時や、ポジティブな評価をいただいた時にやりがいを感じます。高校時代、進路で唯一ピンときたのが医学部の生命科学分野でした。結局大学院まで進み、脳神経を研究しましたが、脳に興味があったというよりは、特殊な顕微鏡で“生きた脳が視られる”ことに面白さを感じていました。就活でもその観点から光学機器メーカーのニコンを受け、今に至っています。研究室で当たり前に顕微鏡を使っていた経験がまさか就職にも仕事にも大きく関わるなんて、わからないものですね。きっと皆さんも将来像を絞りすぎなくていいし、今できることを一所懸命やれば選択肢はたくさん出てくると思います。またどんな道でも、理系で養われる論理的思考力と、数字やデータへの慣れは強みになるはずです。