2022年度法科大学院入試に向けて

1.進学相談会に臨んで

 新型コロナウィルス感染防止のため、各大学・大学院はオンラインでの授業等工夫をこらして学生・院生の感染防止に努めています。オンラインは便利で安全である一面、相手の態度・顔色や場の雰囲気から得られる情報、双方向のやりとりのし易さなどは、やはり直接対面に如くはありません。今回の進学相談会は、聞きたいことが聞ける貴重な機会です。自分にあった法科大学院選びは、あなたの将来に関わる非常に重大なことです。パンフレットやオンラインでは得られない情報、対面だからこそ聞けること等、どうか積極的に利用してください。

 法科大学院をとりまく情報について予備知識を持っていない方もいらっしゃることと存じます。本稿では基本事項を確認した上で、将来の選択肢の一つとして法曹となることを念頭に置いている皆様に、法科大学院入試、予備試験、司法試験の情報をお伝えしていきます。

 法科大学院を中核とする法曹養成制度は改革が続いています。制度が複雑なので、まずは基本事項を確認します。

 法科大学院は、主に大学卒業者が入学する専門職大学院で、3年課程の「未修者コース」と2年課程の「既修者コース」があります。大学院によっては、4年以上の長期履修を認めていたり、社会人を念頭に夜間に授業を開講している所もあります。大学と同じように4月に入学し、3月に修了するのが基本的なタームです。法科大学院の修了は、司法試験の受験資格となります。

 予備試験(正式名称は「司法試験予備試験」)とは、法科大学院に通学することができない人のために、これに合格すると司法試験の受験資格が認められる制度です。高校を卒業しなかった人のために、合格すると大学受験資格を得られる高卒認定試験(旧大検)と同じような制度です。予備試験は、5月の短答試験に合格すると7月の論文試験を受けることができ、それに合格すると10月の口述試験を受けることができます。これらすべてに合格しないと最終合格となりません。なお、予備試験は誰でも受けることができます。

 司法試験は、法科大学院修了か予備試験合格が受験資格となっており、5月に4日間をかけて論文試験と短答試験を受験者全員が受験し、6月に短答試験の合格ラインが発表され9月に最終発表があります(現状)。1年に1回実施される国家試験で、法科大学院の修了後5年5回あるいは予備試験合格後5年5回受験することができます。5年5回の内に合格できない場合は、もう一度法科大学院に入学して修了するか予備試験に合格する必要があります。司法試験に合格すると最高裁判所司法研修所での約1年間の司法修習を経て法曹(裁判官・検察官・弁護士)となることができます。

 次に制度改革の状況です。法科大学院ルートを前提とした場合、今までは司法試験受験までに大学4年間+法科大学院(既修者コース)2年間の6年間が多くの受験生にとっての最短コースでしたが、2019年以降の大学入学者には「法曹コース」として大学3年間+法科大学院(既修者コース)2年間の5年間のコースができました。中でも目玉となるコース(特別選抜枠)では学部成績等での選抜のみで法科大学院へ入学でき、学部と法科大学院の連続性が強くなっています(ただ、当該制度を導入した一部の大学に限られます。大学と大学院とが連携協定を結んでいることが前提となります。)。皆さんがこれから大学に入学する場合や大学1、2年生の場合などは、ご自分の大学にこの法曹コースが設けられているかどうか調べてみてください。どこの大学とどこの法科大学院が連携関係にあるかも当該大学あるいは行きたい法科大学院に確認してみてください。現在は制度導入時期で毎年連携が増えているところです。

 法曹コースは制度ができて間もないために、来年の法科大学院入学を検討されている方の多くは法曹コース利用者ではないと思います。しかし、法曹コースでなくとも来年から法科大学院に入学する方には知っておいて欲しい改革があります。それは法科大学院在学中に司法試験を受験できるようになり、司法修習を修了するまで時間の無駄がなくなることです。

 たとえば既修者コースの場合で司法試験に1回で合格できたとすると、現在の制度下では以下のように時間が流れます。

 2022年 4月法科大学院入学
 2024年 3月法科大学院修了
 2024年 5月司法試験受験
 2024年 9月司法試験合格発表
 2024年11月司法研修所入所

 随分と間が空いています。司法試験の受験者は、9月の合格発表まで時間が空くので、多くの方はこの間、弁護士事務所の説明会等に参加して一種の「就職活動」をして発表を待ち11月から司法修習に入ります。不合格の場合は多くの方が次年度の司法試験に備えることになります。

 これが2023年の司法試験から、一定の条件の下で法科大学院在学中に司法試験を受験できるようになります。司法試験の実施時期が変わるのです。同じく既修者コースの場合で司法試験に1回で合格する場合を考えます(現在の予定であり変更される可能性があります。)

 2022年4月法科大学院入学
 2023年7月司法試験受験
 2024年3月法科大学院修了
 2024年3月司法研修所入所

 司法研修所入所のタイミングが大幅に前倒しされて無駄な期間がなくなっていることが分かることと思います。

 従来、法科大学院ルートと予備試験ルートを比較し、予備試験の方が時間とお金が節約になると考える人がいました。しかし、これらの改革により予備試験ルートの時間的な優位は薄れることになります。その反面、法科大学院ルートでも修了前に司法試験合格レベルの実力を身に付ける必要があります。司法試験に1回で合格できなければ、やはり大きな時間のロスとなるのです。

 こうした法科大学院ルートの魅力を増す改革がなされているのは、法科大学院入学者の減少が今も続いているからです。当初74校あった法科大学院も現在募集を継続しているのは35校となり、半数以上が入学者の募集を停止しました。一方で、予備試験受験者数は堅調に推移しており法曹志願者全体が極端に減少しているとは考えられません。そこで、改革により利用しやすい制度を整え、法科大学院入学者数を増やそうとしているのです。各法科大学院とも門戸を広く開いて皆さんの入学を待っています。

 後に表でまとめていますが、司法試験の合格者数はこのところ1,500人程度を目安に推移しています。一方で受験者数は減少し続けているため、合格率は年々上昇しています。競争相手が減少している今は、法曹資格を得やすい絶好の機会ともいえます。

 法科大学院の選択にあたっては、進学相談会や説明会で話を聞くという受け身になるだけではなく、司法試験対策まで見据えた学修環境としてあなたが重視することを予め考えて積極的に質問できるようにするなど、比較検討のポイントを絞ると話がしやすいと思います。

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2.先を見る心構え

 法科大学院入学を考える際には司法試験への対策も早くから意識しましょう。

 「司法試験はまだ先の事。まず法科大学院に入ること、そしてゆっくり2~3年をかけてしっかり勉強し、その過程で司法試験の内容についても追々見ていこう・・・。」と、考えている方が多いかもしれません。それは堅実な考え方かもしれませんが、法科大学院生活は忙しいものです。予習と課題に追われて、2年や3年はあっという間です。また、前述のように司法試験が法科大学院在学中に受験できるようになると、それまでに司法試験の受験準備もしておかねばなりません。司法試験受験までの時間短縮が今回の改革の主眼だけに、受験準備期間も短縮されることになります。また従来の制度上で言っても、法科大学院を3月に修了し、2か月後の5月に司法試験を受験するということになるため、あまり悠長に構えることはできないのです。

 たとえば、「各科目の勉強が一通り終わったら司法試験の過去問を解いてみよう。」と考えるのではなく、まだ勉強が進んでいなくとも、分からなくても、司法試験の問題を読んでみてはどうでしょうか。問題を読むのにどれ位かかるか、時間も測ってみてください。まったくの未修の方も含め、司法試験はどんな試験なのか※本稿末参照、法科大学院入学後1.5~3年でどんな問題を解けるようにならなければならないのか、そのためには何が必要かをできるだけ早くから考え、現時点では何をすべきかを自ら積極的に模索し、実行することが大切です。これを考えた後に、あるいは考えながら法科大学院のプログラムに対峙するのとそうでないのとでは、司法試験受験時点で大きな差がついていることでしょう。せっかくの法科大学院の授業を有意義なものにできるかどうかは、目標意識と明確な合格イメージがあるかないかで大きく変わることと思います。

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3.法科大学院と司法試験

 司法試験の合格実績を求められている法科大学院ですが、一方で、法科大学院は法曹養成のための専門職大学院であって司法試験のための受験予備校ではない、という理念もあり、各校とも司法試験の受験指導に偏ったカリキュラム編成にはなっていません。「法科大学院に入れば司法試験に合格できるだろう。」とすべてを「法科大学院任せ」にすることはできません。基本的に司法試験対策を考えるのは受験生の個人責任なのです。ただし、法科大学院内で院生同士がゼミを組んだり、課外講座があったりと司法試験に関する知見が全く手に入らないということではありません。司法試験を経験している弁護士等の実務家教員がいることも法科大学院の強みであり、多くの助けを得られるでしょう。また、定期試験の問題も司法試験の出題形式を意識した形になっていることが多いようです。

 法科大学院での学修から得られる大きなものは、むしろ、皆さんが法曹となったときに役立つ知識や考え方、ノウハウが多いはずです。将来自分が法曹として手がけたい専門領域が既に明確である場合は、是非その専門領域に強い講師がいる法科大学院を探してみてください。進学相談会などで直接聞いてみるのもいいと思います。司法試験対策を自主的に行うことができれば、強い興味のある科目が一つでも二つでもあることは法科大学院生活を充実したものとすることに役立つでしょう。

 司法試験対策の面では、各法科大学院の院生・修了生が持つ、切磋琢磨する雰囲気、司法試験対策をどれだけ意識しているかという雰囲気が大切です。仲間からの刺激や情報は大切にしてください。

 法科大学院進学志望者が減少していることを反映して、入学定員については毎年のように各校の定数が削減されています。また、それに伴い法科大学院修了者数も減少しており、司法試験受験者数は減少傾向にあります。

 次の表は、近年の司法試験の合格者数や合格率をまとめたものです。

司法試験実施年 2020 2019 2018 2017
受験者数 3,703 4,466 5,238 5,967
短答合格者数 2,793 3,287 3,669 3,937
最終合格者数 1,450 1,502 1,525 1,543
最終合格率 39.2% 33.6% 29.1% 25.9%

(法務省発表/作表:辰已法律研究所)

 受験者数の減少と合格率の増加が一目でわかります。合格率3~5%だった旧司法試験時代とは雲泥の差です。今や司法試験は4割ほどが合格できる試験になっており、他の国家資格試験と比較しても非常に高い数値です。この傾向がいつまで続くかはわかりませんが、今がチャンスともいえる高合格率なので、できるだけ早く確実に司法試験受験資格を得ることが重要です。

 弁護士事務所への就職難問題がマスコミに大きく取り上げられた時期もありましたが、合格者数がここまで減少してきた現在では、この問題はあまりクローズアップされなくなっているようです。法科大学院の定員数削減はかなり進んでおり、このうえ司法試験合格者数の減少傾向が続けば、調整はさらに進むものと思われます。

 毎年、司法試験の合格発表と同時に法務省のHPに法科大学院別の司法試験合格実績が掲載されています。ただ、このような統計数値だけに目を奪われてもいけません。合格率上位校に入れば必ず司法試験に合格できるというものではありませんし、統計値として合格率が低い法科大学院だからといって合格できないというものでもありません。

 また、法科大学院の定員規模はまちまちです。大規模校、小規模校それぞれの長所短所をよく考えましょう。たとえば、多くの人数を抱える法科大学院では合格者が多くでる、ゼミ仲間にも事欠かない一方で、不合格者も多く、自己管理が重要になるでしょう。小規模校の場合は、教員との距離が近く親身の指導を受けられる、奨学金も得やすい一方で、受験仲間が少なく、近くにすぐ相談できる合格者も少ないという傾向があります。この辺りの状況や対策は各法科大学院で異なるため、進学相談会でも確認してみましょう。

 司法試験合格率は年によって上昇したり下降したりします。このような数字は、各年度毎の単年の数字です。一方、司法試験は法科大学院修了から5年間(5回)受験することができるので、ある年に法科大学院を修了した層がその後の5年間でどれだけ合格できたかは別途検証が必要になります。この「累積値」については、法務省から公表されている数値を以下に挙げておきます。当然ながら、単年分だけの成績より合格率は上昇します。結局のところ、法科大学院出身者の53.75%が司法試験に合格しているという結果がでています。

法科大学院修了年度別司法試験累積合格者数・合格率
修了年度別 累積受験者実数 累積合格者 合格率
平成17年度修了者 2122人 1518人 71.54%
平成18年度修了者 4244人 2188人 51.56%
平成19年度修了者 4658人 2273人 48.80%
平成20年度修了者 4715人 2355人 49.95%
平成21年度修了者 4511人 2261人 50.12%
平成22年度修了者 4249人 2200人 51.78%
平成23年度修了者 3678人 1937人 52.66%
平成24年度修了者 3254人 1857人 57.07%
平成25年度修了者 2866人 1714人 59.80%
平成26年度修了者 2399人 1442人 60.11%
平成27年度修了者 2094人 1188人 56.73%
平成28年度修了者 1785人 1012人 56.69%
平成29年度修了者 1527人 800人 52.39%
平成30年度修了者 1373人 621人 45.23%
総  計 43,475人 23,366人 53.75%

(法曹養成制度改革連絡協議会(第13回) 配付資料より作表)
(平成30~27年度修了者については,受験機会が残っているので,今後合格率が上昇する可能性がある。)

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4.法科大学院入試のポイント

 法科大学院入試の実質的な競争倍率は決して高くありません。令和2年度入試では、1.69~3.61倍の間に全法科大学院がおさまっており、平均競争倍率は2.21倍で、ほとんどの大学院が2倍程度の競争率です。法科大学院は門戸を広く開けており、入学自体は難しくないといえるでしょう。以下では法科大学院入試の諸要素を見ていきます。

(1) 全体像

 従来、法科大学院入試は、スコア提出が全員に義務付けられていた「適性試験」と各法科大学院の個別入試で構成されていました。また、日弁連法務研究財団の「法学既修者試験」の成績提出を必須とする法科大学院も複数ありました。ところが、受験者数の減少を受けてこれらの試験は実施されなくなりました。また、各法科大学院が実施する既修者入試においても、試験科目は減少する傾向にあります。これらは、法科大学院入試のハードルを低くして受験者を誘引する強烈なメッセージなのです。

 法科大学院入試は、自分が受験しようとする各大学院のHPと受験要項を確認して出願・受験するという単純な構造になりました。ただ、各法科大学院毎に提出を義務付けられた書類等はしっかり揃えなければなりません。TOEFLまたはTOEICなど英語のスコア提出を求められる場合もあるので、求められた試験は忘れずに受験しておく必要があります。法科大学院の要項は、受験直前ではなく早くからしっかり読むようにしてください。

 各法科大学院は、(特に私立の場合)自校が開講するコースに合わせて1年の間に何度も入試を実施する場合が多いです。既修者コースは法律試験(短答式や論文式等様々な形態があります)、未修者コースなら小論文や面接、書類提出がメインとなります。これに加えて社会人向けの入試であったり、入試時期の違いによって異なるタイプの入試を設定したり、本当にバラエティに富んでいるのでよく確かめることが大切です。もちろん、進学説明会で確認すれば詳しく教えてくれるでしょう。

 新型コロナの影響を受ける前までは、各法科大学院の入試は、私立が先で概ね7月から始まり、11~12月の国立入試でほぼ終了するという流れであり、翌年1月以降も入試日を設定している法科大学院も少しあるというものでした。また、各校とも追加募集や追加合格を発表することも少なくありませんでした。気になる法科大学院についてはこまめにHPをチェックして対応するようにするしかありません。現在でもこれが基本的な流れですが、各校とも新型コロナ対応のために色々な施策を講じているので、HPをこまめにチェックする重要性はますます大きくなっていると考えられます。

(2) 対策について

 「売り手市場」である法科大学院入試に対して気楽に構えていいのかというと、そうではありません。2020(令和2)年度の法科大学院入学定員2,233人に対して実入学者数は1,711人となっています。大幅な定員割れ状態です。門戸を広く開けているといっても、入試における競争性を確保するために一定の成績を満たす者がいなければ合格させることはできません。受験生としては、志願者数減という状況においても慢心することなくしっかりした対策をとるべきでしょう。

 具体的には、最低限、志望校のHPに掲載されている過去の入試問題(既修コースなら各科目の法律問題、未修コースなら小論文等)を印刷して解いてみることをお勧めします。できれば信頼できる先生や先輩に答案を見せて評価してもらったり改善点のアドバイスをもらったりすると勉強になります。

 既修コースを複数校受験する場合、概ね大学4年の夏から翌年までが法科大学院入試期間となります。長期間ですからいろいろと戦略が考えられます。早い時期に「滑り止め」となりそうな法科大学院の合格を取ったうえで本命の入試に備えたり、授業料の大幅な免除を狙って奨学金試験をいくつも受けたりと、あなたの重視ポイントを考えた戦略を練りましょう。共通するのは、大学4年の夏までに法科大学院入試を乗り切る学力をつけておく必要があるということです。受験者としては、できるだけ早くに試験勉強を開始して早期の入試にも対応できるよう備えなければならないといえるでしょう。

(3) 未修者コースか既修者コースか

 よく誤解している方がいますが、「法学部卒業者が受ける試験が既修者コースで、法学部以外の人が受けるコースが未修者コース」、というわけではありません。各法科大学院で実施する既修者コースの試験に合格できれば既修者コースとなり、未修者コースの試験に合格できれば未修者コースに入学できます。出身学部の限定は無いのが一般です。

 公平性・開放性・多様性をスローガンに、法律を勉強したことのない未修者を理念上の原則形態として誕生した法科大学院ですが、現状は法学部卒業者が多くなっています。これは既修者コースに限らず、未修者コースでも法学部出身者が大多数になっているのです。ただ、同じ法学部出身者で構成されていても未修者コースと既修者コースでは、司法試験の合格率等で大きな格差が現れています。

司法試験合格率(直近3年) 2020 2019 2018
短答合格率(受験者全体) 75.4% 73.6% 70.1%
最終合格率 受験者全体 39.2% 33.6% 29.1%
短答合格者 51.9% 45.7% 41.6%
既修者 43.7% 40.1% 33.2%
未修者 17.6% 15.6% 15.5%

(法務省発表/作表:辰已法律研究所)

 ここに掲載した直近3年間の司法試験合格率の表では、最終合格率を「受験者全体」「短答合格者」「既修者」「未修者」毎に比較できるようしています。例えば2020年を見ると、全体の合格率は39.2%ですが、その内訳は既修者が43.7%の合格率なのに対して未修者は17.6%の合格率になっています。2倍以上の差がついているのです。これは、未修者コースには法学部以外の、法律を勉強したことが無い人がいるからということではありません。文科省の公表しているデータには、法学部出身の既修者、法学部以外出身の既修者、法学部出身の未修者、法学部以外出身の未修者と分類して司法試験の合格率を示したものがありますが、法学部出身か否かにかかわらず、常に既修者コースの方が司法試験合格成績が上なのです。※1

 未修者コースと既修者コースの標準修業年限の差は1年だけです。この1年では既修者に追い付くのは難しいという結果になっています。未修者コースにも法学部からの入学者が多いということを併せて考えると、現在あなたが法学部出身かどうかにかかわらず、早期に法律の勉強を始めてできるだけ既修者コースを目指すべきだということがいえるでしょう。

 また、最近は定員数削減とあわせて、各法科大学院による進級認定、修了認定についても厳しくなっているようです。この点についても未修者と既修者は差がでています。

 次の図は2019年度の例です。既修者は約75.6%が2年で修了できるのに対し、未修者の場合3年で修了できるのは50.4%です。修了できたとしても、司法試験でも既修者に差をつけられています。未修者コースで法科大学院に入学した場合、進級や修了にも気をつけながら、司法試験対策も考えなければなりません。

法科大学院 標準年限修了率(令和元年度) 既修者75.6% 未修者50.4%
(文部科学省発表/作図:辰已法律研究所)

 こう見てくると、既修者コースばかりを勧めるようですが、司法試験上位合格者の中には、法科大学院で初めて法律を学んだ、いわゆる「純粋未修」出身者もいます。法科大学院での学修を成功させることができれば、未修者でも大きく飛躍することができる可能性があるといえるでしょう。

 もしもあなたが法律を勉強したことがなく、未修者コースで法科大学院に入学することを考えているならば、受験をしようと思う法科大学院に、自分が法律を勉強したことがないこと(俗に「純粋未修」といいます)を伝えて、どの位純粋未修に配慮したプログラムになっているのかを聞いてみるといいでしょう。純粋未修の人こそ、本来、この制度が主に想定した入学者なのですから。

※1 文部科学省法科大学院特別委員会第102回配布資料【資料2-3】P.6参照

(4) 他の対策

 他に法科大学院入試で求められるものとしては、ステートメント(志望理由書)や、小論文試験、面接等があります。これらも法科大学院毎の個別入試です。条件は大学院毎に異なりますから、自分が目指す法科大学院の要項をよく読み、どんな準備をすればいいのか必ず確認してください。以下には、一般的なものについて概要を記します。

 ステートメントは提出書類なので、いわば「自宅で作成できる答案」です。これを軽視する方もいるようですが、自分を見つめ直す契機にもなるので、是非とも真剣に時間をかけて作成してください。

 どうして法曹になりたいのか、どのような法曹になりたいのか、これを自問自答し確固たる信念を練り上げることは、面接の際にもふらつかない回答ができることになりますし、後々法科大学院に入学した後で困難に遭遇したときや司法試験という壁に直面したとき等に、これを読み直してモチベーションを温め直すことができます。あなたが立ち返る足場を固める作業になるのです。

 できれば、作成したステートメントを、周囲の年配の方に読んで貰い、感想を聞いて推敲を重ねてください。普段接する学部の先生などにお願いできれば一番いいのですが、ご父兄など親族の方でもいいでしょう。自分の文章は、他者からの評価を聞かないとなかなか向上させることは難しいものです。自分の書きたかったことが相手に伝わっているか、読みやすいものになっているかを確認すること、これが小論文試験対策、ひいては司法試験の論文試験対策にも通ずるのです。

 小論文試験対策について、その場で作文ができればいいのだろうと、疎かに考える人がいます。しかし、少なくとも法科大学院入試における小論文試験は、単に国語能力、論述能力のみを測ろうとする試験ではありません。そこにはしっかりした出題意図、採点基準が存在します。課題文から何を読み取るのか、そこに込められた出題者の意図を把握してそれに応えることができなければ得点できません。過去に出題された小論文試験の内容を分析すると、法科大学院入試で問われる小論文のテーマは大体決まっているようです。できるだけ多くの問題を書いてみて、他者に評価、添削してもらうこと、出題意図を把握すること、これらの訓練が必要でしょう。

 特に、未修者コースの場合は法律試験が無いので、小論文試験のウエイトが高くなります。しっかり対策を立てて臨んでください。

 一方、既修者コースでは法律試験(既修者認定試験)のウエイトが高く、重ねて小論文試験や面接を課さない大学院が多いようです。

 既修者試験の難易度、出題科目は各大学院によって差があります。各法科大学院では、ホームページに過去問を掲載している場合が多いので必ずチェックしてください。数年分を見れば、その大学院の出題形式や問題の難易度がわかります。総じていえば、基礎知識を中心に基本的な出題をする大学院が多いようです。当該科目全般にわたる学修が必要なので、十分な時間をとって学修してください。ここでの学修は、法科大学院に入学してからも役立つことでしょう。

 面接については一般にあまり情報が公開されていません。法律問題について問う(既修者コースの場合)のか、一般の面接試験なのかは受験要項等に記されていることが多いのですが、その内容について詳しく知らされません。面接内容も年によってバラエティに富むようです。

 法律問題を問われる場合は、事前に勉強しておくしかありません。基本的な定義や条文、概念、判例などを中心に学修しておきましょう。論文試験のための勉強と重なりますから、論文の勉強を中心に据えつつ、定義などを声に出したりすれば口述試験(面接)の対策にもなります。受験態度は、卑屈になったり横柄に振る舞ったりせず、しっかりと返答しつつも謙虚な態度を心がけましょう。

 法律試験なら基本的な知識と正しい論理が求められます。ただし、事例問題ならば結論が決まっているわけではないので、論文試験対策と同様、法解釈の論理が間違っていないかということと判例をふまえた結論の妥当性がポイントとなります。一般面接の場合は正解を言い当てることが求められているわけではありません。肩の力を抜いてその場で素直に考え、しっかり会話できればいいのです。未修者に対する面接試験で時事問題などが設例として出題される場合も、法律試験と同様、正解(結論の当否)を探ろうとするのではなく、論理的に首尾一貫した結論を導くようにしてください。ただ、あまりにも一般常識からかけ離れた結論はセンスを疑われますので注意してください。

 小論文試験については普通に文章が書ければいいのだろう、面接については求められている答えを言い当てないとだめだろうと考えられがちなのですが、これは逆です。小論文には出題意図があり、それに応えるように書くことができれば高得点が期待できます。面接では正解を言い当てようとするのではなく(法律試験の場合は最低限の知識は求められますが)、分からないことを聞かれても黙り込まずに会話をすることが大切です。問いに対してあなたがどのように考えているのかを試験官は知りたいのです。

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5.予備試験について

 2011年から導入された予備試験の近年の出願者数は、2018年13,746人、2019年14,494人、2020年15,318人、2021年14,317人と、高い人気を保っています。予備試験に合格すると法科大学院に行かなくとも司法試験受験資格が与えられること、予備試験合格者の司法試験合格率が高いこと等から、予備試験は人気があります。確かに司法試験の合格率では、法科大学院出身者全体の平均と比較すると大きな開きがあることから※2、法科大学院を志願せずに予備試験受験に流れる気持ちもわかります。

 しかし、この数字だけで考えると本質を見誤ります。先に見たように、現在、法科大学院の入学競争倍率は低い状態にあるので、法科大学院に入学すること自体は、当たり前の対策を怠らなければそれほど難しいことではないでしょう。その意味では法科大学院ルートから司法試験を受ける場合は、司法試験の合格率を重視していろいろな判断をすることは間違いではありません。

 これに対して、予備試験ルートの場合は、<予備試験に合格できるのか>という大きな問題があります。司法試験を受けた予備試験合格者は、最難関を突破してきた層であることを忘れてはなりません。ここを等閑視したまま、単に司法試験合格率だけを比較するのは間違いです。

予備試験の合格率(過去3年)
2020 2019 2018
出願者数 15,318 14,494 13,746
受験者数 10,608 11,780 11,136
短答合格者数 2,529 2,696 2,661
短答合格率 23.8% 22.9% 23.9%
論文合格者数 464 494 459
論文合格率 19.1% 19.3% 18.1%
口述合格者数 442 476 433
最終合格率 4.2% 4.0% 3.9%

(法務省発表/作表:辰已法律研究所)

 予備試験ルートについては、上の表にある通り、予備試験自体が非常に難しいことを念頭に置くべきでしょう。これだけ厳しい合格率となると、旧司法試験に似て、合格するまで何年かかるかわからない、というリスクがあります。また、予備試験合格者には、かなり多くの法科大学院生も含まれています。学部時代の予備試験学修の延長として、法科大学院に入学しても受験しているのです。また、いわば司法試験の予行演習として予備試験を受けている人もいます。法科大学院へ行かず、予備試験だけを受験している人だけで合格率を計算すると、より厳しい数字となってしまうことでしょう。

 ところで、この二つのルートは、司法試験の受験資格を得るための二つの制度であることから、どうしても「法科大学院VS予備試験」と二者択一的にとらえてしまいがちですが、それぞれに異なる制度であることから長所短所があり、それは組み合わせることもできるでしょう。

 法科大学院の長所は、なんといっても司法試験受験資格を得やすいということです。予備試験の合格率は非常に厳しいので、予備試験だけに賭けてしまうのはリスクが大きすぎます。一方、法科大学院入試は、未修者コース既修者コースとも、この予備試験のような極端に厳しい数値ではありません。進級認定、修了認定が厳しくなってきてはいますが、いつ合格できるかわからない予備試験に比較すれば、まだまだ修了時期の予定は立て易いといえるでしょう。

 これに対して予備試験の長所は、誰でも何度でも受験することができ、コストは受験料のみであり、仕事を持っている方でも受験できるということです。また、合格可能性は非常に低いのですが、これに合格すると司法試験がぐっと近づきます。予備試験と司法試験の短答式問題は、その出題の多くが共通問題化※3されており、予備試験の短答だけでも合格できる実力があれば、司法試験においてもかなり得点できることになります。予備試験の勉強がそのまま司法試験にも生きることになるのです。

 しかし、予備試験は孤独な試験です。法科大学院生のように、「同期の受験仲間」ができにくい個々の受験環境であり、相談相手や質問する先生にも困るかもしれません。加えて、2022年の予備試験(論文試験)から司法試験同様の選択科目※4が追加されます。一般教養科目の論文が廃止されますが負担は増えると考えられます。

 これに対して、法科大学院では受験仲間ができ、複数の先生と交流を持つことが出来、相談相手、質問相手にも事欠かないでしょう。その他、インターンシップなどで訪ねた法律事務所との縁が、就職に役立つかもしれません。就職の際や法曹となった際の人脈の広がりは予備試験合格者には無いものなのです。人脈も含め、法科大学院へ行けば、恵まれた学修環境が手に入ることでしょう。

 予備試験という高い目標を設定して学部時代に勉強することは、法科大学院入試の法律試験や将来の司法試験にも役立つことになります。予備試験だけを受験し続けることは相当高いリスクを取ることになってしまいますが、法科大学院入試を主眼としながら、学部時代には予備試験も受験してみることは、法科大学院入試(既修者試験)への備えにもなるでしょう。法科大学院受験・司法試験のための「学修ツール」として予備試験をとらえてはどうでしょうか。法科大学院に進学する際の学費の免除や奨学金を獲得するためにも、とにかく早期に法律学修を始めることが重要です。

 「法曹コース」ができた後であっても構図の変化は小規模にとどまるでしょう。学部時代に予備試験の受験勉強をすることは、法曹コースのカリキュラムをこなすことにも役立つはずです。いままでなら学部時代に①予備試験にチャレンジして、合格できなかったら②法科大学院入試を受けるという流れでしたが、ここに法曹コースを組み入れるならば、学部時代に①予備試験にチャレンジしつつ、②法曹コースを志願してそのカリキュラムをこなし、大学の早期卒業を目指す。予備試験に合格できなかったら法曹コースを利用して法科大学院に進学する。自分の大学の学部に法曹コースが無かったり、あるいは法曹コースの条件をクリアできなかったりしたら、大学に4年行ったあとで③法科大学院入試を受ける、ということになるでしょう。従来よりも選択肢が一つ増えたことになります。

※2 2020年司法試験の予備試験出身者合格率は89.4%,法科大学院出身者の合格率は32.7%でした。

※3 両者に共通する試験科目(憲法、民法、刑法)についてのみ。出題問題数は異なる。

※4 倒産法、租税法、経済法、知的財産法、労働法、環境法、国際関係法(公法系)、国際関係法(私法系)から1つを選択。

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6.最後に

 これから法科大学院や予備試験を経て法曹を目指す場合に考えなければいけないポイントをまとめると以下のようになるでしょう。

  • 法科大学院に入学する目的を明確に持って臨むこと。
  • 法科大学院を選ぶ際にはパンフレットだけで決めるのではなく、オンライン説明会等を利用して直接話を聞いてみよう。就職支援など、パンフレットには書かれていない特徴や情報も確認できることがある。
  • 一般的に、国公立は私立に比べて授業料が安いのは大学入試と同じ。しかし、法科大学院の場合は各校とも奨学金制度、授業料の免除制度等に力を入れているため、一概に国公立の方が安いとはいえない。また、その中身はなかなか複雑な場合があり、パンフレットだけではわからないこともある。やはり進学説明会で聞いてみたり、電話をかけてみたりして、実際に志望校に確認してみよう。
  • 法曹になるために法科大学院に入学するのだから、司法試験受験まで見据えた計画を立てること。未修者コースよりも既修者コースの方が司法試験の合格率が高いことを考えると、どのコースを選択するにせよ、できるだけ早くから司法試験に向けた法律学修をはじめることが重要。まして法科大学院在学中に司法試験を受験できるようになることを考えると、やはり早期に司法試験対策を完了させなければならない。
  • どの法科大学院に入学しても、司法試験対策には自主性が求められる。なんでも「法科大学院まかせ」にはしないこと。
  • 予備試験を目指すのはよいが、極端に合格率が低いため、あなたが学生ならば「何が何でも予備試験だけ」と考えるのは危険。法科大学院進学を主眼にして「法曹コース」、予備試験も併せて考えるのが無難。
  • 予備試験を目指して早くから勉強をすることは、法科大学院入試で授業料の全額免除・半額免除を獲得する勉強にもつながるし、「法曹コース」に進む準備にもなる。司法試験を1回で合格する勉強にもつながる。

 最近は各省庁をはじめ、各法科大学院も積極的に情報をHPで公開するようになっています。入試情報や司法試験情報など、積極的に調べてみましょう。

 情報は溢れるようにあります。注意すべきは、情報の新旧を間違えないようにすることと、情報の意味をしっかり考えることです。志望する法科大学院を決める際には、幅広く地道に調べる必要がありますし、受験することを決めた大学院についてはとことん調べてみましょう。辰已法律研究所のHPも様々な情報を満載していますので是非ご覧になってみてください(http://www.tatsumi.co.jp)。

<編集協力 辰已法律研究所>

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7.関連サイト

※司法試験問題等の掲載場所

司法試験の問題等は、試験後に法務省HPに公開されます。
ここには、令和2年度司法試験についてのリンク先をご案内します。

●令和2年度試験問題
http://www.moj.go.jp/jinji/shihoushiken/jinji08_00016.html

●令和2年論文式試験出題趣旨
http://www.moj.go.jp/content/001339369.pdf

●令和2年司法試験の採点実感(試験実施後,採点にあたった司法試験考査委員から出される意見)
http://www.moj.go.jp/jinji/shihoushiken/jinji08_00053.html

これらを含め、司法試験全般・予備試験全般についての情報は以下の法務省HPから探すことができます。

○司法試験
http://www.moj.go.jp/shikaku_saiyo_index1.html

○予備試験
http://www.moj.go.jp/jinji/shihoushiken/shikaku_saiyo_index.html

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