開催レポート
日本を元気にする独創的な研究活動を支援するために生まれた「神戸賞」。その創設を記念したシンポジウムが7月8日、時事通信ホール(東京)で開催されました。第一線で活躍し、神戸賞審査委員を務める研究者らが、日本発のイノベーションを増やし、未来や社会を変えていくために何が必要かなどを議論。神戸賞アンバサダーでタレント・女優の山之内すずさんもゲストで加わり、共に考えました。
[主催] 公益財団法人 中谷医工計測技術振興財団
公益財団法人
中谷医工計測技術振興財団 代表理事
公益財団法人
中谷医工計測技術振興財団 代表理事
筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構
機構長・教授
神戸賞アンバサダー/タレント・女優
山之内 すずさん筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構
機構長・教授
京都大学大学院医学研究科
腫瘍生物学講座 教授
慶應義塾大学医学部 医化学教室 教授
佐藤 俊朗氏東北大学 多元物質科学研究所 教授
永次 史氏理化学研究所 脳神経科学研究センター
多階層精神疾患研究チーム
チームリーダー
科学ジャーナリスト・NewsPicks 副編集長
須田 桃子氏神戸賞アンバサダー/タレント・女優
山之内 すずさん若い時の挑戦は、なぜ大切なのか。フリーアナウンサーの政井マヤさんの進行のもと、家次恒中谷財団代表理事と、神戸賞審査委員長で筑波大学教授の柳沢正史氏、神戸賞アンバサダーの山之内すずさんが語り合いました。
ここでは、皆さんの挑戦体験をお聞きします。神戸出身の山之内さんは、17歳の時に上京し、デビューされたんですよね。
はい。その後は、タレント業でも俳優業でも初めてのことばかり。毎日が挑戦でした。今振り返ると、そんな毎日を選んだことが一番の挑戦でしたね。
私は医学部卒業後、医者ではなく基礎研究に進んだのですが、最初の数年は全然うまくいかなかったんです。でも、31歳の時に渡米を決め、自身の研究室を持つことになり、それが今につながる転機となりました。
37歳の時、義父であるシスメックスの創業者、中谷太郎が亡くなり、金融から一転、製造業へと転職しました。先行きは不安でしたが、ちょうど世の中がグローバル化し、さらにIT化へと大きく変化していく時で、会社の成長の後押しとなりました。
私は生まれてから、不景気しか経験していないんです。人生で一度くらい景気のいい日本を味わってみたいなあと思っているんですが。
そうした元気な日本の未来を切り拓く、若い世代に光を当てようということで、神戸賞では大賞のほか、Young Investigator(ヤング・インベスティゲーター)賞を設けています。応募対象は45歳未満です。
45歳未満がヤングに含まれるなんて(笑)。私は今21歳ですが、芸能界にいると、もう教える側にまわることもあります。
私の場合、研究で成果が出たのは38歳か39歳の頃。やはり平均より少し若かったんです。年を重ねると、どうしても背負うものが増えて、失いたくないものが出てきますよね。リスクを冒すハードルが高くなって、若い時ほどには冒険しづらくなってしまう。
年を取ると丸くなるとも言います。やはり若い時のほうが、独創性も挑戦心もあって“とんがって”いる。私たちは、そのとんがったところを、よりシャープにするようなサポートをしたいと考えています。
研究者への支援は、未来への投資です。アンバサダーとして、神戸賞が広く知られるよう一生懸命努めていきたいと思います。
科学ジャーナリストの須田桃子さんの進行で、神戸賞審査委員を務める研究者が活発な議論を繰り広げました。後半は山之内すずさんも参加しました。
まず独創性とは何か、独創性は養えるものなのかについてお話を伺います。
独創性とはゲームチェンジャーだと思います。たとえば、1953年に発見された抗精神薬は、その後の精神疾患治療のブレークスルーとなりました。
そうした0から1を生む発見は、最も高い独創性が発揮された例ですね。同時に、どこに着眼するか、達成させるために何が大切かに気づくことも独創性に関わります。
基本的に、研究は先人の積み重ねの上に成り立っているので、独創性をオリジナリティーと捉えると定義が難しい。独創性があるかないかは結果論かなと。
そうですね。自分の好奇心を長く追求し続けることが重要で、独創性もやっていくうちに培われるものだと思います。そもそも実験なんて、90%以上は失敗ですし。
大発見は、しばしば失敗から生まれます。私は、独創性とは問いを見いだす力ではないかと。つまり、失敗してもただの失敗と思わず、新たな問いを立てて観察できるかどうか。日本人は問いを解くことに一生懸命ですが、研究は問いを立てる力が重要です。人の話を聞く時も受け身ではなく、何か質問するぞという姿勢で聞く。そんな積み重ねが独創性を養うと思います。
問いを持って繰り返し観察すること、いい意味で諦めが悪いこと。そして、失敗が許される環境も大切ですね。
2002年にノーベル化学賞を受賞された田中耕一先生は、まさに失敗した実験結果を諦めずに観察したことで、画期的な質量分析法を発見されました。
もちろん天才もいますが、そのような人は、たいてい人並み以上に努力しています。努力できるのも才能の一つで、その先に思いもつかなかった発見がある。研究の醍醐味ですね。
神戸賞の対象は「生命科学と理工学の融合境界領域(BME)」です。田中先生の質量分析法をはじめ、日本発のイノベーションには、血圧計や胃カメラなどBMEに該当するものがけっこうあります。パルスオキシメーターもそうですね。
これが登場した時は本当に驚きました。それまでは血中酸素濃度を測定するのに動脈から採血していて、大変な激痛を伴うものだったんです。それが指先でピピっと測れるようになったんですから。
かつては考えられなかったパルスオキシメーターも、いまや当たり前です。つまり、こうした二つ以上の違う分野を組み合わせた融合研究こそ、10年後、20年後の未来なんです。
実際、見えないものを可視化する今の医学研究は、光学系機器や工学的手法が欠かせません。
脳の細胞神経がどう機能しているかを調べる私の研究も、物理や化学や情報工学など三つも四つも融合しています。
私の場合は、生命科学分野の問いを解明するために、理工学的な発想や手法で開発研究を行っています。融合研究はもう普通のことで、より大きな問いを発展させていくために必要なことですね。
融合させるには戦略も必要です。その点で、戦略的に生命科学と理工学の融合境界領域を対象とした神戸賞は素晴らしいと思います。
融合境界領域が意味するところは幅広くて、最先端技術や新しい手法だけを指すものではありません。自分の専門分野以外にも目を配り、いろいろな分野のことを広く浅く知ること。これが大切だと考えています。
山之内さんは先生方のトークを聞いて、いかがでしたか。
研究なんて遠い世界のことだと思っていましたが、明るい未来を作っていくお話で、とても興味深かったです。神戸賞は、私たちみんなにとって希望となる賞です。しっかりアンバサダーを務めていきたいと思っています。
神戸賞は大賞以外に、Young Investigator(ヤング・インベスティゲーター)賞があり、こちらは発掘型の賞にしようと考えています。私たち審査員の発掘力が問われるので、身が引き締まりますが、とんがった研究をしている若手研究者の方に、どしどし応募いただけたらと思っています。
質疑応答では、来場した高校生からの質問に