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ヨミドクター漢方ガイド

フォーラム がんと生きる ~こころとからだ 私らしく~
岐阜
 がん医療の最新情報を伝えるフォーラム「がんと生きる」が、7月1日に岐阜市民会館で行われた。医学の進歩によって治療の可能性が高まる一方、がん患者は体の痛みや精神的な苦痛をはじめ、様々な困難に立ち向かわなければならない。がんになっても自分らしい人生を送るためにはどうすればよいか。医療者やがん当事者らが語り合い、多くの聴講者が耳を傾けた。
パネルディスカッション 第1部「がん医療の最前線」
注目されるコンバージョン手術

岐阜大学医学部附属病院 病院長
吉田 和弘氏
よしだ・かずひろ/広島大学医学部卒業。2007年に岐阜大学大学院腫瘍制御学講座・腫瘍外科学分野教授。2018年より現職。抗がん剤や放射線治療を組み合わせた根治治療に取り組む。

町永 そもそも、がんとはどういう病気なのでしょう。

吉田 私たちの体には約37兆個の細胞があります。その細胞が分裂する際、遺伝子に異常が起きると、がん細胞ができます。実はがん細胞は1日に3000~5000個できています。通常は免疫細胞が取り除いてくれるのですが、ある程度大きくなると、その作用が効かなくなって、がんという診断になるのです。また、正常な細胞とは異なり、がん細胞にはどんどん増え続けるという特徴があります。

町永 治療法にはどういうものがあるのでしょう。

吉田 「手術」「放射線治療」「抗がん剤治療」の三つが主なものです。他に免疫細胞を使って、がんを退治する「免疫療法」があり、第四の治療と言われます。手術は体に負担をかけない内視鏡手術が進歩しています。また、近年注目を集めているのが「コンバージョン手術」です。手術した後に再発予防のために抗がん剤を投与するというのが従来の順序ですが、手術が困難な方などに、まず抗がん剤治療を行い、病巣が縮小したところで手術に切り替えるという方法です。すべての患者さんに適用できるわけではありませんが、抗がん剤の進歩によって、諦めていた手術が可能になるケースが出てきたのです。

町永 一方で抗がん剤は副作用のつらさが言われますね。

吉田 抗がん剤は、分裂が盛んなすべての細胞に作用します。がん細胞に作用すれば治療効果となり、正常な細胞に作用すると、様々な副作用の症状としてあらわれます。

岡本 5年前に食道がんのステージ4と診断されましたが、抗がん剤治療のおかげで手術が可能になり、病巣を摘出することができました。ただ、吐き気や頭痛、しびれや関節痛、倦怠感などの副作用はとてもつらく、その時のことをよく覚えていないほどです。

がん当事者、「綿の実」会 共同代表
杉浦 凱久氏
すぎうら・よしひさ/多治見出身。43歳の時に直腸がんになり完治するが、6年前に後腹膜脂肪肉腫に。同時期に妻をすい臓がんで亡くす。がん患者会「綿の実」会を立ち上げ、活動中。

杉浦 私は今、抗がん剤治療を受けています。様々なつらい副作用を体感しているのですが、妻が7年前にすい臓がん治療中に、私よりもっと酷い副作用に悩まされ、そして我慢していたと思うと、なぜもっと労わってやれなかったのだと悔やんでます。がんになったことや治療中の苦しみは当事者になって初めて判るのだと気づかされました。

VTR

胃がんのステージ4、40歳の男性に、吉田医師は複数の抗がん剤を組み合わせた治療を行う。3か月後、がんが縮小したことで「コンバージョン手術」が成功。術後1年、暮らしが安定してきた男性は、妻と妊娠・出産について考え始め、産婦人科に相談に行く。

あらゆる苦痛に対処する緩和ケア

丹生川診療所 所長
ひだまりの会 いのちゆたかに飛騨 世話人
土川 権三郎氏
つちかわ・けんざぶろう/名古屋の南生協病院を経て、1997年から故郷・丹生川村の診療所に移る。全科にわたる総合的な診療をしながら、地域包括ケア、在宅緩和ケアなどに注力。

土川 こうした副作用の症状などを含め、患者さんのあらゆる苦痛に対処するのが緩和ケアです。痛みや副作用に伴う様々な症状を、鎮痛薬や漢方薬を使ったり心のケアを行うことでやわらげます。リハビリもその一つですが、筋力低下を防ぐことは回復を早める効果があります。緩和ケアというと終末期のイメージがあるかもしれませんが、今は診断と同時に始めます。

吉田 体調を整えることも緩和ケアの目的ですが、漢方薬が有効な選択肢になります。様々な種類があり、食欲不振には「六君子湯」、体力低下・倦怠感には「補中益気湯」「十全大補湯」、しびれには「牛車腎気丸」、筋肉のけいれんには「芍薬甘草湯」、口内炎には「半夏瀉心湯」といったように、症状によって使い分けます。

町永 最近は若いがん患者も増えていて、子どもが欲しいという望みを抱く方もいます。

吉田 抗がん剤は生殖機能に影響をおよぼす可能性もありますので、産婦人科と連携して対応する必要があります。

森岡 岐阜県では、がん患者の生活支援を重要と考え、様々な取り組みを行っています。今年度から始めたのが、がん患者の生殖医療に対する支援。保険が適用されずに高額になる場合がある精子、卵子を採取凍結する費用の一部を補助しています。

パネルディスカッション 第2部「がん患者の生活支援」
治療と仕事が両立できる社会へ

がん当事者
ハローワーク岐阜 就職支援ナビゲーター
岡本 記代子氏
おかもと・きよこ/2013年、ステージ4の食道がんに。抗がん剤治療後、手術に成功するが、1年後に再発、現在も抗がん剤治療を続ける。2016年から長期療養者職業相談窓口を担当。

町永 患者さんの痛みや苦しみを多角的にとらえるトータルペインという考え方があります。

芝田 身体的な苦痛や、不安や抑うつなどの精神的な苦痛だけでなく、仕事ができない社会的苦痛、死への恐怖に代表されるスピリチュアルな苦痛などからなります。患者さんのこうした悩みの相談を、がん相談支援センターで行っています。センターは全国のがん診療連携拠点病院にありますが、その病院に通院していない方でも相談が可能です。相談内容も治療のこと、経済的なこと、生活面のことなどを受け付けています。

町永 がんになって仕事をやめざるを得ないケースも少なくありません。

芝田 迷惑をかけると考える方が多いようですが、慎重に判断してほしいと思います。また、経済的な支援としては、医療費の負担を軽減する「高額療養費制度」や休職している社会保険加入者の方は「傷病手当」など、様々な制度を利用できる場合があります。

岡本 私は、がん患者を含む長期療養者の方の就職支援をしています。相談をしていると「がん患者でも雇ってもらえるのか」という声が多くあります。その方の治療の状態や体調に考慮して求人を選び情報提供し、就労時間や就労日数・配慮事項などを事業者と話し合った上で紹介をしています。1日の就労時間が短時間の求人もあります。私自身ががん患者ですので、より親身になって支援できればと考えています。

杉浦 患者会に来た方で、仕事に就くのが難しいのではと思われた方がいたのですが、雇用者の理解もあり、週2日で働いています。働けるということで毎日が充実し、生きがいを感じているそうです。私もがんになったからこそ、様々な人と知り合い、その生き方を学ぶことが出来ました。明るい人生を送れていると実感させてくれたがんにありがとうと言いたいです。

土川 仕事で社会とつながることで闘病意欲が高まるという効果もあります。

岐阜県 健康福祉部長
森岡 久尚氏
もりおか・ひさよし/徳島大学医学部卒業。厚生労働省で行政に従事する医師として、住民の健康対策に取り組む。2017年より現職。県民の健康づくり、医療、福祉など幅広い分野を担当。

森岡 行政も医療と就労をつなぐ仕組み作りを行っています。治療と仕事が両立できる社会が実現するように支援していきたいと思います。

VTR

直腸がんで仕事をやめざるをえなくなった男性。経済的な不安から再就職を志し、就職支援ナビゲーターの岡本さんに相談する。岡本さんは企業と粘り強く交渉、1日1~2時間の条件の求人を男性に提示する。迷いもあった男性だが、社会復帰に意欲を見せる。

在宅医療が支える自分らしい最後

岐阜市民病院がん相談・がん就労支援室
がん相談員(看護師)
芝田 陽子氏
しばた・ようこ/岐阜市立看護専門学校卒業後、岐阜市に入庁。岐阜市保健所で多くの市民の相談に対応。相談のエキスパートとして市民と医療機関との橋渡しに努める。2016年に現職。

町永 土川さんは、自宅で最期を迎えたいという方を支える在宅医療に取り組んでいます。

土川 日々変化する患者さんの体調や不安に配慮しながら、その都度適切な手立てを講じています。本人の意思を尊重し、看護師やヘルパーなど、チームで取り組むことが重要です。地域の理解も大切と考えています。

芝田 最期の望みをかなえられるのは幸せなこと。それも支える体制があってのことです。

町永 自分らしい最期をどう迎えるか? タブー視される傾向にありますが、その事実に向き合うことで充実した人生を送れるという面もあるかもしれません。

岡本 私はがんになってからの方が自分らしい人生を送れている実感があります。仕事を続けられているのもありがたいこと。今後もできるかぎり仕事を通して、患者さんの力になれればと思っています。

吉田 がんになっても安心して暮らせる社会を築くための根本は、やはり最善の治療にあります。医療者として、そのために今後も精一杯がんばっていきたいと思います。

VTR

胃がんのステージ4で手術ができない状態になった男性。抗がん剤の副作用で体重が激減し、自宅に戻ることを決断。その暮らしを土川医師ら在宅医療チームが支える。薬を調整するなどして食欲が戻った男性。自宅の庭で季節の移り変わりを楽しむ日々を送る。

コーディネーター
福祉ジャーナリスト
町永 俊雄

主催:読売新聞社 NHK厚生文化事業団 NHKエンタープライズ
後援:NHK岐阜放送局 厚生労働省 岐阜労働局 岐阜県 岐阜市 社会福祉法人岐阜県社会福祉協議会 社会福祉法人岐阜市社会福祉協議会 一般社団法人岐阜県医師会 公益社団法人岐阜県歯科医師会 一般社団法人岐阜県薬剤師会 公益社団法人岐阜県看護協会 公益社団法人岐阜県理学療法士会 一般社団法人岐阜市医師会 一般社団法人岐阜市薬剤師会 一般社団法人岐阜県病院協会 岐阜県民生委員児童委員協議会 岐阜市民生委員・児童委員協議会 岐阜県がん診療連携拠点病院協議会患者相談専門部会
協賛:株式会社ツムラ

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