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ヨミドクター漢方ガイド

広 告 企画・制作 読売新聞社広告局

漢方とは

 医療技術の進歩により新しい治療法や薬が次々に開発され、克服できる病気が増えています。その反面ストレスに関連した病気など複雑で治りにくい病気も増えてきています。それらには、一つひとつの症状を改善するだけでなく、気力、体力を回復させ、心身ともに健康をめざす全人的なアプローチが必要です。
 漢方では心(精神)と身体は一つのものであり、互いに影響し合うという「心身一如(しんしんいちにょ)」の考えのもと、一人ひとりの心と身体両面に重きを置いて治療を行います。人がもともと持っている「自然治癒力」を高め、身体全体のバランスを整えることを目的としているのです。

 現在、医療機関で医師に処方される漢方薬のほとんどは、「エキス製剤」で、これが主流となっています。
 エキス剤は一定の条件で抽出した薬液からつくられたもので、医薬品として安定した品質と効果が維持されています。1回分ずつアルミパックなどに包装されているため、携帯に便利で服用しやすく、長期保存も可能です。

 漢方薬は、通常食前(食事のおよそ1時間~30分前)または食間(食後およそ2時間後)に服用するようになっています。ただし、胃が弱い人などの場合には、医師、薬剤師の判断で食後に飲むこともあります。
 飲み忘れた場合は、食後に服用しても構いません。次の服用時にまとめて飲まないで、医師や薬剤師の指示通りに服用することが大切です。

 一般的に、エキス製剤は水か白湯(さゆ)で服用するとされています。漢方薬の味や匂いが気になる方は、あらかじめ水を口に含んでから服用すれば比較的気にならずに服用できます。
 またエキス製剤は、医師、薬剤師などの指導により、お湯に溶かすことによって本来の煎じ薬にように服用でき、そのことで漢方薬独特の味や匂いを楽しめるという方もいます。
 その他、乳幼児や嚥下障害(ものが飲みこみにくい状態)の患者さんなどでは、医師、薬剤師の指導などにより、身体や病気の状態に合わせて、片栗粉でとろみをつけたお味噌汁や全粥、アイスクリームに混ぜたり、ゼリーで服用するなどの方法がとられることもあります。

 漢方薬の効果が表れるのは、通常、飲み始めてから1~2週間といわれています。慢性の症状や病気に使われることが多く、飲み続けて変化が見られるまで1ヶ月くらいかかる場合もあります。
 治療に時間がかかる慢性の病気に対しては、辛抱強く服用を続けてみましょう。

 漢方薬は副作用がなく安全な薬と思っている人も多いのではないでしょうか。漢方薬も医薬品ですから、副作用はあります。症状や体質に合わない薬を使用したり、大量に服用したりすると、逆に症状を悪化させたり、食欲がなくなる、血圧が上がる、むくむなどの症状が出ることがあります。また、まれにアレルギー症状や発疹、肝機能障害などが起こることもあります。医師の指示に従って、正しく服用しましょう。
 症状が悪化したり、副作用が疑われる場合には、速やかに医師や薬剤師に相談してください。

「漢方薬は高い」というイメージはありませんか。日本では、現在148種類の医療用漢方製剤が薬価基準に収載され、健康保険の対象となっています。漢方薬は、一つの薬で複数の病気や症状に対処できるので、薬剤数や薬代が少なくて済む場合があります。とくに、高齢者の病気や生活習慣病などの複数の病気や症状を伴う慢性疾患などで医療費の削減効果が期待できます。

 漢方は、検査で異常なしといわれる病気や不調、原因不明の慢性病、体質が関係した病気に向いています。

病気の種類 漢方薬が使われている主な病気(関連症状)
消化器の病気 胃炎、食欲不振、消化不良、下痢、便秘 など
呼吸器の病気 感冒、インフルエンザ、咳、痰、喘息、扁桃炎 など
痛み 偏頭痛、腰痛、膝痛、頭痛、坐骨神経痛、関節痛、神経痛、こむらがえり など
女性の病気 月経不順、月経痛、月経前緊張症、子宮内膜症、更年期障害、浮腫、便秘や下痢、肩こり、習慣性流産、冷え症、尿失禁 など
高齢者の病気 精神神経症状、排尿障害、頻尿、前立腺肥大症、足腰の衰え、慢性疲労、瘙痒症(かゆみ) など
こどもの病気 虚弱体質、気管支喘息、夜泣き・疳の虫、夜尿症 など
こころの病気 精神不安、うつ症状、ストレス(自律神経失調症)、不眠、神経症 など
泌尿器疾患 膀胱炎症状、腎炎・ネフローゼ、排尿障害 など
アレルギー性疾患 気管支喘息、アレルギー性鼻炎、蕁麻疹 など
生活習慣病 高血圧症、糖尿病の合併症状、肥満症 など
皮膚の病気 ニキビ、湿疹、イボ など
入院・手術後 体力増強、免疫力回復、胃腸障害、腹部症状、貧血、抗がん剤の副作用緩和 など
耳・のどの病気 中耳炎、扁桃炎 など
目の病気 結膜炎、眼精疲労
その他 虚弱体質、浮腫(むくみ)、しもやけ、しびれ など

 近年、医学の進歩により、がんは不治の病ではなくなってきました。早期発見、早期治療により、がんが治る人はもちろん、治癒しなくともがんと共存した状態で長期延命する人も増えています。
 がんの治療は、手術、抗がん剤治療、放射線治療の3つを単独または組合せで行うのが基本です。これらの治療には、食欲不振、嘔気・嘔吐、便秘などの副作用や、後遺症による痛みや不快感を伴います。そのため、がんに伴う精神的、肉体的な苦痛を和らげる緩和ケアも必要になります。
 漢方薬は、つらい症状の改善はもちろん、治療に耐えられる気力と体力の回復、QOL(生活の質)の維持・向上などを目的として使われています。漢方だけでがんを抑制することはできませんが、これらの治療と併用することで、患者さんの心と身体をサポートすることができるのです。

 日本には、漢方だけを学んだ“漢方医”はいません。日本の医療制度では、西洋医学を学び、医師免許を取得した医師が、その上で漢方を学ぶことになっています。現在では、ほとんどの医師が、日常診療に漢方薬を使っているといわれ、現代医学の中で漢方が果たす役割は大きくなっています。
 そのため、一つの症状に的を絞り即効が期待できる西洋薬と、自然治癒力を高め体質改善まで期待できる漢方薬との併用も少なくありません。
 漢方薬の中には、西洋薬と併用できるものもあります。ただし、西洋薬の中にも、同時に服用すると漢方薬の吸収を阻害したり、作用を変化させたりする可能性のあるものもありますので、かかりつけの医師、薬剤師の指示に従って服用しましょう。

 現在、多くの医師が日常的に漢方薬を処方しています。その理由として、西洋薬で効果がない症例で漢方薬が有効であったこと、患者さんからの要望、そして科学的根拠が学会などで示されたことが挙げられています。
 漢方は二千年以上の長い臨床経験の積み重ねに基づいた医学です。効果や安全性、副作用なども経験的にはわかっています。しかし近年、その科学的根拠(エビデンス)が求められるようになり、さまざまな試験が行われています。

 漢方では、問診を大切にし、患者さんの訴えにじっくり耳を傾けて、処方を選択します。つらい症状だけでなく、食事や運動、便通や睡眠、生活習慣やストレスなどの情報も、全身状態を把握し、病気を根本治療するために欠かせないものと考えます。
 さまざまな生薬の組合せからなる漢方薬は、西洋薬のように効果が一律ではなく、人によって体内での薬の働きにも差が出ます。そのため、定期的な通院で効果を観察する必要があります。また、漢方にも副作用が出ることがありますが、効果はもちろん、安全性を確認するためにも、継続した診察が必要です。
 とくに、慢性疾患の治療は、時間がかかることもあります。理想は、かかりつけ医を持つこと。医師との二人三脚が治療の早道です。小さなことでも相談できる信頼関係が、早い回復につながるのです。

引用:「さぁはじめましょう! 漢方で快適生活 -自然の恵みで心も体も快適に-」