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新薬開発 最先端の研究成果と創薬にかける研究者の熱い思いを報告
日本製薬工業協会、米国研究製薬工業協会(PhRMA)、欧州製薬団体連合会(EFPIA)の3団体

 「新薬を創出して患者さんを救いたいという熱い気持ちは同じ」。日本製薬工業協会、米国研究製薬工業協会(PhRMA)、欧州製薬団体連合会(EFPIA)の3団体が共催し、「創薬研究の実情とイノベーションの貢献」と題した勉強会と記者会見が11月2日に都内で開かれた。ワクチン開発、がん領域やアルツハイマー病など日本や海外の第一線で活躍する研究者5人が登壇し、創薬研究がもたらす可能性に触れ、「最先端の研究成果の報告」を行った。

新薬のイノベーションで健康長寿と経済成長のエンジェルサイクルを

創薬の社会的価値について語る中山讓治・日本製薬工業協会会長

 日本製薬工業協会によると、新薬開発の成功確率は2万5000分の1以下で、開発には10年以上の時間と数百億円から数千億円規模の費用が必要になるという。世界的な医療費の抑制という厳しい経営環境下、日本製薬工業協会の中山讓治会長は、「新薬のイノベーションで病気が治癒し、働く人が増えると社会保障費の負担軽減、労働人口減少の抑制、GDP(国内総生産)上昇、さらには新たな経済成長の可能性が生まれる」と創薬の社会的価値について説いた。

 この中で、中山会長は「医療費の圧縮が続くと、新薬のイノベーションそのものが起こりにくくなり、また、医療機関は疲弊し、医療の質の低下は必至となる。結果として国民の健康を損ない健康寿命も短縮し、経済成長にも影を落とすデビルサイクル(負の連鎖)に陥る」と指摘。現在の日本の創薬環境について、「イノベーションが衰退してデビルサイクルに入ってしまうのか、または新薬のイノベーションから経済成長の可能が生まれるエンジェルサイクル(正の連鎖)に向かうのか。私たちは今、デビルサイクルとエンジェルサイクルの境目、岐路に立っている」と危機感を訴えた。と同時に、国の政策に対しても「今後、日本がエンジェルサイクルに向かうためには、単年度会計の観点ではなく中長期の戦略として、医療や社会保障を含めて社会をより良くするように取り組むことが最も大切」と理解を求めた。

創薬は医療費削減につながり社会に貢献できる

 勉強会と記者会見で登壇した研究者は、マイケル・Lハットン・米イーライリリー神経変性疾患領域研究バイスプレジデント、木村禎治・エーザイ執行役ニューロロジービジネスグループチーフディスカバリーオフィサー、古賀淳一・第一三共専務執行役員研究開発本部長、モーヒト・トリッカー・米アッヴィ バイスプレジデント オンコロジー早期開発グローバルヘッド、上野裕明・田辺三菱製薬常務執行役員創薬本部長の5人。

 この中で、認知症領域では、イーライリリーのマイケル・Lハットン・神経変性疾患領域研究バイスプレジデントが認知症の原因の一つであるアルツハイマー病の治療薬の研究開発について報告。「高齢化が進む日本では現在、認知症にかかわる社会的コストが非常に大きくなる。この領域では大きなアンメット・メディカル・ニーズ、満たされていない医療ニーズがあり、日本はこの分野で世界をリードする立場にある」と創薬の社会的価値を強調した。また、エーザイの木村禎治・執行役は「日本で認知症を克服するシステムを作り、海外にも普及させるのが研究者としても企業としても夢」と語った。

 がん領域では、アッヴィのモーヒト・トリッカー・バイスプレジデント オンコロジー早期開発グローバルヘッドが「研究は革新的な時代に入った。免疫療法では日本の先生が非常に重要な役割を果たして薬が生まれた。今、がんの患者さんの人生が変わる開発を行っている」と研究成果とともに研究開発の重要性を訴えた。このほか、田辺三菱製薬の上野裕明・常務執行役員から、安全性を向上させる植物細胞を使ったワクチン開発などの事例が報告された。

イノベーションと格闘する研究者の熱い思いに拍手

 勉強会には、多くの国会議員が参加し、「国家財政でどうするか。創薬開発において、国家財政を踏まえ、国に何ができるか考えている」と政策として向き合う意義が語られた。また、「世界中の患者さんのために創薬開発に十分な環境が必要。だからこそ私たちはここに集まった」と日々、イノベーションと格闘する研究者の思いに会場から熱い拍手がわき起こった。

第一線の研究現場から製薬企業の将来像を語る

 また、勉強会後の記者会見では、「更なる革新的な医薬品を創出するためにも、イノベーションを促進するための政策も重要である」という議論がなされた。「今後はIT(情報技術)やデータをどう使うか。情報があればあるほどいい薬ができる。デバイスメーカーとのコラボレーションなどさまざまな動きが出てくる」(木村禎治・エーザイ執行役)、「新しいイノベーション創出に向けて役割分担を明確にしながら今後は国を越えてのオープンイノベーションが主流になる」(上野裕明・田辺三菱製薬常務執行役員)「(認知症などの領域では)製造業のモデルを転換していかなければならない。製品を作って終わりではなく、疾患啓発を含めて診断から治療まで全体の流れをとらえることが重要になる」(木村・エーザイ執行役)など研究現場の最前線から製薬業界の将来を見据えた声も聞かれた。

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