生きる力に関わる口腔の健康管理
近年、歯周病などの口の病気が、糖尿病、心臓病、骨粗しょう症、脳梗塞、認知症、誤嚥性肺炎といった、さまざまな全身疾患と深く関わっていることが分かってきました。各医学会の診療ガイドラインでも、口の病気と疾病との関連性が多くのエビデンスとともに紹介され、疾病予防として口腔の健康管理が非常に重要だと指摘しています。平成30年(2018年)には、健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病、その他の循環器病に係る対策に関する基本法にも、歯科医療の重要性が盛り込まれました。口は「命の入り口」であり、歯科は生きる力に寄与する医療です。
治療中心から維持管理の歯科医療へ
口腔健康管理には三つあります。一つは、私ども歯科医療従事者が行う治療や機能訓練などの「口腔機能管理」。二つめが、主に歯科衛生士さんが行う口の清掃等の「口腔衛生管理」、三つめが日々の歯みがきなど、ご本人や介護職、看護職等が行う「口腔ケア」です。
歯科医師が行う「口腔機能管理」は、むし歯や抜歯、補綴など歯の形態の回復を目的とする治療だけでなく、乳幼児期・学齢期から成人期を経て高齢期にいたるまで、各ライフステージに応じて、歯を含む口腔機能全体の維持・向上に向けた治療と管理が進められています。つまり、常に適切な口腔機能を獲得するために、歯科が介入し、切れ目のないライフコースとして口腔機能の管理を推進していくことが大切なのです。
口腔機能を維持し、しっかり食べる
健康寿命延伸のための「口腔健康管理」を考えるとき、着目したいのがオーラルフレイルと誤嚥性肺炎です。オーラルフレイルとは、口の虚弱という意味で、老化に伴うさまざまな口腔機能、口腔衛生の低下をいいます。滑舌の低下、食べこぼし、わずかなむせ、かめない食品の増加、口の乾燥といった口の衰えを放置すると、食べる量が減り、低栄養となって心身の機能低下につながります。人の体は食によって作られます。身体のフレイルに大きく関わるオーラルフレイルは、早めに気づき、対処することが重要です。
次に誤嚥性肺炎ですが、これは嚥下機能の低下などにより飲食物や唾液が、歯周病菌などの口内細菌とともに気管に入り、発症する肺炎です。高齢者の肺炎では最も多く、50代から発症率が高まります。誤嚥性肺炎を予防するには、誤嚥を防ぐための食べる姿勢や食べる習慣を良くすることも大切で、日本歯科医師会のホームページで詳しく紹介していますのでぜひ参考にしてください。そして、口腔内の衛生を保つことによる不顕性誤嚥への対策も重要となります。
口腔から全身の健康のサポートを
歯科は、歯だけを治療するところという誤ったイメージが定着してきましたが、目指すのは国民のトータルな健康に心を砕く歯科医療です。楽しく食事をして、楽しく話をする。その力を守るために「口腔健康管理」はとても大切です。毎日のセルフケアと定期的な歯科受診によるプロフェッショナルケアで、お口の健康を守っていただければと思います。