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オンライン授業でみえた
新たな教育の可能性

茨城大主催 大学教育シンポジウム

 茨城大学は11月13日、「オンライン授業の経験と知見を教育改革に活かすために」をテーマに大学教育シンポジウム(主催・国立大学法人茨城大学、共催・一般社団法人国立大学協会)をオンラインで開催した。新型コロナウイルスの感染拡大は、教育の世界に大きな変化をもたらした。茨城大学でも、今春からのオンライン授業を通して今後の教育についてのさまざまな可能性や課題が見えてきたという。シンポジウムでは、茨城大学や他大学の教員、企業関係者らがオンライン授業について、内容や成果といった面から検証し、将来、地域をはじめ世界の学びの質を高めていくためにできることを語り合った。

授業理解度 
例年の対面授業より「高い」

 「コロナ禍で学生がどのような形で授業を受け、その効果はどのように表れているか」。前半の基調講演では、最初に山形大学の浅野茂教授が登壇し、「コロナ禍の経験を教学マネジメント改革にどう活かすか」をテーマにオンライン授業の成果などについて説明した。

 山形大学は、授業内容の学生の理解度を独自の「基盤力テスト」で検証している。2020年4月に入学した学生は、オンライン主体の授業で学んでいるが、入学時のテストの正答率は例年の入学生と比べて「高い」結果が出たという。新型コロナ感染拡大の影響により、例年、入学間もない時期に実施しているテストを授業開始後の4月下旬に実施したことが影響していると考えられるが、2年生、3年生の結果からもオンライン主体の授業が一定の教育効果を収めていることを示唆する結果を得ている。浅野教授は、「授業形態による対面型とオンライン型、それぞれのメリットとデメリットを検証しなければならないが、オンライン型はICT(情報通信技術)を十分活用すれば、学生の振り返りや反復学習などを可能にし、教育効果を高めることが期待できる」としている。また、学生のアンケートもインターネットを使って行うようになり、そこで得られたデータを分析したり、学生の履修行動等を蓄積したりすることで今後の学びに活用する「ラーニングアナリティクス」という取り組みにもつながるという。

 教学マネジメントは「大学がその教育目的を達成するために行う管理運営」と定義され、学位を与える課程(学位プログラム)について、学生が必要な資質や能力を身に付ける観点において最適化されているかという、「学修者目線」で教育を捉え直す狙いがある。浅野教授は「コロナ禍で授業のオンライン化が進んだ。オンライン授業の教育効果の測定は、今後の教育を考えるうえでとても重要」としている。

山形大学 浅野茂 教授
山形大学 浅野茂 教授

予習復習の時間 
対面授業より多く割ける

 続いて基調講演を行った茨城大学の嶌田敏行・全学教育機構准教授は、オンライン授業について、受講した学生や教員を対象に実施したアンケート結果などをもとに分析した。嶌田准教授によると、オンライン授業の内容を理解できたかどうかについて、1年生向けの基盤科目では、2020年前期は、8割以上の学生が「理解できた」と回答した。昨年まで対面授業を経験していた2年生以上向けの専門科目は、「理解できた」と回答した学生が7割で、19年度と20年度を比較すると、1年生、2年生ともに授業内容の理解度は20年度の方が高かった。また、オンライン授業の場合、対面授業と比較して1回の授業の予習と復習時間が長くなる傾向になっているという。オンライン授業は、場所の制約がなくなり、録画を活用することで時間の制約も少なくなる一方、「質問はできるが相談はしにくい」と感じている学生も少なくなかった。

茨城大学 嶌田敏行・全学教育機構准教授
茨城大学 嶌田敏行・全学教育機構准教授

個人所有PCの学習への活用 
全学年で

 また、嶌田准教授は、オンライン授業の質を保つことができた理由として、個人所有のパソコンを学習に活用する「BYOD(Bring Your Own Device)」化が今春から全学年を対象に始まった点をあげた。さらに、コロナ禍で授業のデジタルコンテンツ化が進んだことで、学びのあり方も変わるという。今後は、録画やスライドといった授業のデジタルコンテンツを学生の予習の素材として利用することで、「知識やスキルの伝授」という従来のスタイルから、「学んだ知識やスキルをどう活用するか」といった点に焦点をあてたより高度な授業も展開しやすくなるとしている。

 続いて、高等学校教員や教育行政に関わった経験ももつ茨城大学の柴原宏一特命教授は、国が進めるGIGAスクール構想を紹介したうえで、そこで前提とされているSociety5.0へ向けた学校教育のあり方について紹介した。自身の大学での実践にも触れながら、「小中学校でGIGAスクールへの取り組みが進み、大学の授業でのデジタルツールの活用が進んでいる中、高等学校でもこれらの動きを意識した取り組みが重要になってくる。学びの支援者として、今後も価値の高いオンライン授業をどう作るかを考えなければならない」と述べ、高大連携の取り組みの必要性も示唆した。

 茨城大学の卒業生でリクルート北関東マーケティングの新妻幹生(もとみ)さんは、企業と卒業生の視点から、企業で求められるスキルと大学での学びとの関わりを語った。新妻さんは「テクノロジーが進化すればするほど、ヒューマンスキルが問われるようになる。相手が伝えたいことを理解したうえで、自分の伝えたいことを伝えることが必要で、大学で論理性や因果関係を示すことを学んだ経験が役に立っている」と述べた。

茨城大学 柴原宏一 特命教授
茨城大学 柴原宏一 特命教授
リクルート北関東マーケティング 新妻幹生さん(茨城大学卒業生)
リクルート北関東マーケティング
新妻幹生さん(茨城大学卒業生)

即時性活かし、教授と学生で
コメントやりとり

 後半は、「オンライン授業の経験と知見を活かした教育改革―授業改善から教学マネジメントまで」をテーマにパネルディスカッションを行った。モデレーターを務めた茨城大学の久留主泰朗・理事・副学長は、「(オンライン授業は)授業そのものに公開性という観点を持たせた。これまで大学の授業の閉じた世界で行われてきたが、外からもアクセスできる状況になったことで、今後は個別の教育の質保証だけでなく、大学教育の水準をどうするかということになる。教育機関が協力して地域の教育を高い水準に持っていくことが必要ではないか」と問題提起した。

 浅野教授は、「日本の大学全体でまさに『水準』という課題が残っている。学生が教育の受け手として学生目線で質の保証に関わっていくなど、複数の視点があることによって、教育の現状がより明確になり、水準についての議論も進展していくことが期待できる」と語った。

 嶌田准教授は「大学が何を教えたかより、学生が何を学んだかという方に視点が移っている」と、教育が転換点にあることを示唆した。柴原特命教授は「オンラインは即時性が強み。学生にコメントを書いてもらい、こちらもコメントをすぐに返す。学生は興味が新鮮なうちに考えをアウトプットできる。また見てくれたという意識、そういうことを積み重ねていけばいい」という。また、新妻さんは「北関東の教育機関、企業が一丸となって共通のゴールを描く。知見共有から始めてゆくゆくは北関東のブランディングができる」と語った。

オンライン授業は
「毎回が授業参観」

 シンポジウムには、茨城県内の複数の高等教育機関の関係者も参加した。茨城キリスト教大学の穂積訓准教授は「オンライン授業は教員間でさまざまな問題を共有し、お互いの授業を見てお互いを高め合うことができる」とメリットを強調した。茨城工業高等専門学校の井坂友紀准教授も「オンライン授業により、講義の質の向上への意識が高まるとともに、教育という職務の重要性を再認識することにもなった」と振り返った。そのうえで、「日本は言語の壁に守られている面があるけれども、海外の強力なコンテンツとの競争関係も意識していかなければならない。その点も踏まえ、オンラインと対面をどう組み合わせていくか。対面授業では"対面だからこそできること"に重点をシフトさせるなど、授業内容を再整理していきたい」と意気込みを語った。

 常磐大学の河野敬一教授は「オンライン授業は、毎回が授業参観と思って取り組んでいた。閉じた世界から外に向けての情報発信を通して、授業を改善するという前向きな循環が生まれている。ICTスキルの共有をはじめとする学内のコミュニケーションが生まれ、よりよい教育づくりにつながる」と期待を込めた。

 久留主副学長は「『いばらき地域づくり大学・高専コンソーシアム』のつながりを活かしながら、高等教育の水準の議論を加速させ、より柔軟な単位互換などの仕組みへと発展させていく。オンライン授業がもたらした公開性は、その重要かつ必要な要素になったと認識している」と締めくくった。参加者は茨城、日本、世界の教育の前進に向け、大学と高専を含む高等教育機関の連携をはじめ、高等学校の関係者と手を携えることの重要性を確認した。