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企業も大学も、人の幸せを実現するためにある

学生として、講師として学んだ法政大学

田中 現在は本学大学院政策創造研究科の教授をはじめ、いろいろお引き受けいただいておりますが、もともとは経営学部のご出身ですね。

坂本 地元は静岡の焼津、両親ともに教員で、長男としての教育をしっかり受けました。当時周りに大学へ行く人がほとんどいないなか、法政に進んだのは、正直なところ半分は親に敷かれたレールという感じです。
ちょうど大学紛争が激しかったころで、最初の1年半ほどは、ロックアウトで学内にも入るのが難しい状態でした。そんな環境のなかでは、自分なりにまじめに勉強したと思いますが、研究者になろうとは考えていなかったですね。ただゼミで勉強した数理経営学は、現在でもとても役に立っています。会社の問題に取り組むためには、まずその現状をきちんと数字にして把握しなければなりませんから。

田中 先生がおっしゃる問題とは「あるべき姿」マイナス「現状」という考え方につながるわけですね。

坂本 あるべき姿も持たず、現状も把握せずに問題ばかり口にするところが多くて困るんですけどね(笑)。
卒業して公務員になり、たまたま中小企業にかかわる仕事をするようになってはじめて、世の中にはこんなに苦しい思いをしながら仕事をしている人がいるんだということに気づいた。そして、なんとか支援できないかと考え始めました。

田中 高度成長期でも、シワ寄せがいっている部分はありましたよね。

坂本 でも、みんな口をそろえて「構造的な問題だからしかたがない」と言うんですよ。そんなはずはないと、足繁く現場に通い、勉強もし直した。めったに役所にいない、風変わりな公務員でしたけど(笑)、そこが法政人らしいでしょう。

田中 構造的問題としてしまうと、社会が変わるのを待つしかないけれど、本当は人が動けば動いただけ道は開ける、ということですよね。

坂本 そんななかで書いた本「日本でいちばん大切にしたい会社」に目をとめていただき、再び法政に、今度は非常勤講師としてお世話になることに。それで、人に教えることは、自分にとっても最高の勉強法だとわかりました。

日本型経営が結果的に業績を高める

田中 経済という言葉のもとになった「経世済民」は「世をおさめ民をすくう」という意味です。つまり、近世以前の経済政策は、お金ではなく人が中心だったわけで、これは先生のお考えに通じるように思います。

坂本 会社の目標は通常、業績向上やシェア拡大、要はいかに利益を増やすかということになるのですが、これだと会社の内外に犠牲になる人が出てきます。私が提唱するように、「人の幸せを実現すること」を目標にすれば、だれも不幸にすることはできない。それで「善」のサイクルが回り、結果的に業績も上がるのです。

田中 アメリカ型経営というのか、いわゆる成果主義・能力主義を導入しないと競争には勝てないといった論調がありますよね。先生は、それよりむしろ日本型経営のほうがいいとお考えですか。

坂本 家族的、あるいは浪花節的経営といってもいい。現に、それが結果的に高い業績につながっている例を、いくらでも挙げることができます。
たとえば、同じ大学を出て同じ能力がある二人でも、一方が障害のある子供を持っていたら、よーいドンで競争できませんよね。そのときに会社が、成果で割り切る代わりに、「そのために我らは存在する」と格差を補えることが大事なんです。
もちろん、海外から安い製品が入ってくる現在、価格では競争できないかもしれない。でも、そういう会社は、オンリーワンの「質」で勝負できる商品を創造できるのです。

田中 その営みを続けていったところに、老舗が生まれるんですよね。
先生は、理論や理想を押し付けるのではなく、実際に存在するものを発見してそれを伝えていらっしゃる。だからそれを聞いた経営者は、数字を追いかけていた自分のやり方が間違っていたと納得できるんでしょう。

坂本 私の本を読んで、なぜ自分の会社がつぶれたかがようやくわかった、という残念なメールもいただきますよ(笑)。
よく、「景気はいつよくなりますか」と聞かれますが、「それは、あなたの会社の景気がよくなったときです。だから頑張ってください」と答えます。立地のせい、業界のせい、政策のせい、何でも人のせいにする「環境追従型」あるいは「景気依存型」の経営ではだめ。99%は、会社の仕組みと考え方次第です。同じ条件で成功している企業は、たくさんあるのですから。

大学も経営の考え方は同じ

田中 総長は大学の経営者でもありますから、お話をまさに自分のこととしてうかがっております。望ましい「家族的経営」というのは、規模の大きな企業・組織でも可能なのですか。わが法政大学は、専任教職員だけで1,200人というかなりの大所帯なんですが。

坂本 たしかに、大企業は管理型・官僚型の経営になりがちです。でも、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞でも、数千人規模の企業を選んでいますし、決して不可能ではないと思います。そういうところは、部や課を一つの企業のように考えて、いわば中小企業の連合体のような、ピラミッド型ではなくフラットな組織を作っていますね。

田中 かかわる人を幸せにするというとき、私の中での優先順位はまず「学生」なのですが、それでいいのでしょうか。

坂本 学生は、企業でいえば顧客ですね。その満足度はもちろん大切ですが、それを直接に考えるのは従業員。経営者はまず従業員の満足度を高め、そのモチベーションを上げて任せることが大事です。総長なら教職員が優先ということですね。何もかもひとりではできませんから。

田中 そうすると重要なのは、教職員とのコミュニケーションを密にする工夫。皆さん、それぞれよく考えてくださっていますから、それを集約するために私が動くことが必要になるわけですね。
ところでいま、大学は環境追従型にもなりかけています。18歳人口の推移予測を見ると、私もつい絶望的な気持ちになります。
でも、全部の大学がだめになるはずはありません。どんな大学が持続可能なのか、どんな教育が求められるのか、自分たちで考えて、オンリーワンの価値を創造していけばいいのだということも、先ほどのお話でわかりました。

坂本 就学人口という観点ひとつをとってみても、たとえば人口爆発している世界の若者を、留学生としてどう取り込むか。あるいは、社会に出て実際に働くなかで問題にぶつかっている人、熟年以上で仕事が一段落した人などの「学び直し」のニーズに、どう門戸を開くか。考え方はいろいろあります。
いくらでもご協力しますよ、OBとして法政が大好きで、どんどんいい大学になってほしいと思っていますから。

田中 そこは私も同じです。是非お知恵を貸してください。ありがとうございました。


法政大学大学院政策創造研究科教授 坂本光司(さかもと こうじ)
1947年静岡県生まれ。1970年法政大学経営学部卒業。静岡文化芸術大学教授を経て、法政大学大学院政策創造研究科教授。専門は中小企業経営論、地域経済論、福祉産業論、同大学中小企業研究所長ならびに静岡サテライトキャンパス長を兼務。日本でいちばん大切にしたい会社大賞審査委員長、人を大切にする経営学会会長、NPO法人オールしずおかベストコミュニティ理事長など、国・県・市の公務も多数兼任する。
徹底した現場主義で、これまで訪問調査、アドバイスをした会社は7000社を超える。著書「日本でいちばん大切にしたい会社」(あさ出版)、「ちっちゃいけど、世界一誇りにしたい会社」(ダイヤモンド社)、「強く生きたいと願う君へ」(ウェーブ出版)など多数。

法政大学総長 田中 優子(たなか ゆうこ)
法政大学総長。1952年、神奈川県に生まれる。法政大学文学部卒。同大大学院人文科学研究科修士課程修了後、同大大学院人文科学研究科博士課程単位取得満期退学。2014年4月より法政大学総長に就任。専攻は江戸時代の文学・生活文化、アジア比較文化。行政改革審議会委員、国土交通省審議会委員、文部科学省学術審議会委員を歴任。日本私立大学連盟常務理事、大学基準協会理事、サントリー芸術財団理事など、学外活動も多く、TV・ラジオなどの出演も多数。

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