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※掲載の肩書は取材当時のものです。

【世界の今】 新しい大統領のアメリカと日本はどのような外交関係を構築すべきか?

井上 寿一 (学習院大学法学部政治学科教授)

 今年1月アメリカで新しい大統領が就任した。民主党のバイデン大統領と日本はどのような外交関係を構築すべきなのか。以下では日米関係の歴史をさかのぼって考える。

 日本からすると、アメリカは孤立主義と国際主義の間を揺れ動いているようにみえる。バイデン大統領は就任後すぐに、気候変動に関するパリ協定への復帰とWHO(世界保健機関)からの脱退を撤回した。トランプ前大統領の決定をくつがえしたバイデン大統領が国際主義でトランプ前大統領が孤立主義だったことは明らかだろう。

 他方でトランプ政権時代のアメリカは軍事紛争への介入に抑制的だった。アメリカは民主党政権が戦争を始めて共和党政権が戦争を終わらせる、そのように指摘されることもある。アメリカの国際主義が平和を志向するとは限らない。

 孤立主義と国際主義の間でアメリカが平和に関与した時代がある。それは第一次世界大戦後の1920年代である。

 民主党のウィルソン大統領が国際連盟の創設を提唱しながら、共和党のハーディング大統領になると、アメリカは国際連盟に加盟しなかった。ところがアジア太平洋においてはちがった。アメリカは中国の門戸開放に関する九国条約、海軍軍縮に関する五国条約、太平洋の現状維持に関する四国条約を結ぶ。これら三つの条約を主導したアメリカは、アジア太平洋地域に緊張緩和と国際協調をもたらした(この国際システムはワシントン会議において三つの条約が締結されたことからワシントン体制と呼ばれる)。

 なぜこの国際システム=ワシントン体制は崩壊したのか。中国ナショナリズムに対する列国の対応の足並みが乱れたからである。当時の中国は蔣介石の下で国家統一を進めていた。その過程で中国は不平等条約の改正を求める。自国利益を優先させる列国は、多国間交渉よりも中国との二国間交渉によってこの問題の解決をめざすようになる。その結果、中国をめぐる列国の利害関係の対立が顕在化する。その先に起きたのは1930年代の国際危機だった。

 以上の歴史はこれからの日米関係を考える際の重要な手がかりになる。

 第一は中国に対する先進民主主義国の共同歩調である。大国中国に対して経済的利益などの自国利益優先ではなく、基本的人権の尊重や法の支配のような普遍的価値観を共有する先進民主主義国として、日本はアメリカとの連携を欧州諸国にまで拡大する必要がある。

 第二は現代版ワシントン体制の確立である。日本はワシントン体制に順応した。対する今日の日本は、アメリカとともに新しい国際システムの確立をめざすことが急務である。それは「自由で開かれたインド太平洋」の理念を実現する条約網の構築を意味する。日米同盟を「自由で開かれたインド太平洋」にどのように埋め込むのか。日本の外交力が試される。

 第三は日本自らの国際主義である。近隣諸国関係の悪化は日本に孤立主義のムードをもたらす。あるいはコロナ禍の今、世界で広がる「ワクチン・ナショナリズム」は自国利益優先主義を台頭させる。日本は孤立主義と自国優先主義に陥ることなく、国際主義の理念に基づく外交を展開すべきである。

2021.3.3

プロフィール

井上 寿一 (学習院大学法学部政治学科教授)

1956年東京都出身。81年一橋大学社会学部卒業。86年一橋大学大学院法学研究科博士課程単位取得。89年・法学博士(一橋大学)、同年学習院大学法学部助教授。93年より同教授。研究テーマは近現代日本政治外交史。95年『危機のなかの協調外交』(山川出版社)で吉田茂賞、政治研究櫻田会奨励賞受賞。近著に『はじめての昭和史』(ちくまプリマー新書)がある。